執筆者 | 加藤 篤行 (リサーチアソシエイト) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
Melitz (2003) やHelpman et al. (2004)による理論的な研究に基づいて、企業の異質性と輸出についての実証分析が過去10年にわたって蓄積されてきた。これらの実証研究は生産性の高い企業が輸出や海外直接投資 (FDI)によって海外市場に進出するという理論の予想が正しいことを示してきたが、こうした高い生産性が、技術的な効率性の高さを反映したものであるのか、あるいは市場における価格力を反映したものであるのか、は必ずしも詳しく検証されてこなかった。また、こうした生産性へのプレミアムに輸出地域の違いによる差があるのか、という疑問も依然として議論の対象である。これらの問題点に関して、本研究では、生産性を技術的な生産性と市場における価格力に分けてそれぞれ推定し、輸出地域ごとに違いがあるかを分析した。
表は技術的生産性と価格力に対する輸出地域別プレミアムの推定結果である。推定の結果、技術的生産性に関しては輸出地域にアジアを含む企業にプレミアムがあることが明らかとなった。また、アジア単独より、アジアと別地域に輸出市場を持っている企業の方が、プレミアムが大きいこともこの結果は示している。一方で、価格力については、アジアだけでなく、北米を輸出市場にしている企業にもプレミアムがあることが分かった。さらに、単一地域を輸出市場としている企業に関しては、アジアより北米に輸出している企業の方が、価格力プレミアムが大きいことも示された。
この結果は、やや大胆に解釈すれば以下のように理解できるであろう。日本企業の多くにとって、アジアは生産ネットワークを構築するために細分化されたサプライチェーンをそれぞれの市場の比較優位にしたがって展開している地域である。したがって、アジア市場への輸出は生産ネットワーク内での中間財、資本財などの輸出が重要な役割を果たしていると考えられる。こうした生産ネットワークは技術的効率性を最大限に発揮し、生産コストを抑えるために構築されているものなので、ネットワーク内輸出に比重を置いている企業の技術的生産性は当然高くなる。一方で、日本企業にとって北米市場は主として輸出品の最終消費地である。こうした市場への輸出については、その市場で他社の製品と差別化が明確になされているか、が重要になってくると考えられるが、そのことが価格力へのプレミアムとなって表れていると解釈できるであろう。さらに複数の地域に輸出を行うには、技術的生産性と価格力の両方のアドバンテージを持つことが重要であることも、この推定結果から明らかである。
このように、輸出先市場ごとに企業の強みは異なっている。企業は技術的効率性や価格力といった自社の持つ強みを最大限活用して利潤最大化を図ろうとするであろうし、輸出もそうした戦略の中で位置づけていると考えられる。したがって、輸出による海外市場獲得を支援する政策を考えるに際しては、そうした異なる戦略を持つ企業をそれぞれサポートできるようなきめの細かい制度設計が必要になるであろう。また、そうした制度設計に資する、企業の多様性を多角的にとらえて輸出との関係を分析する研究の蓄積も、今後ますます重要になってくると考えられる。
地域 | 技術的生産性 | 価格力 |
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アジア | 0.090*** (8.423) | 0.056*** (9.272) |
北米 | 0.027 (1.042) | 0.082*** (6.234) |
その他 | 0.085 (0.202) | 0.021 (0.992) |
アジア+北米 | 0.125*** (7.282) | 0.165*** (19.59) |
アジア+その他 | 0.152*** (4.810) | 0.139*** (8.683) |
北米+その他 | -0.013 (-0.135) | 0.107* (1.921) |
グローバル | 0.106*** (4.533) | 0.260*** (27.77) |
Note: 括弧内は標準誤差 ***, **, *はそれぞれ1%, 5%, 10%で有意であることを示す |