執筆者 |
THORBECKE, Willem (上席研究員) 加藤 篤行 (リサーチアソシエイト) |
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研究プロジェクト | 東アジアの生産ネットワーク、貿易、為替、世界的不均衡 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
国際マクロプログラム (第三期:2011~2015年度)
「East Asian Production Networks, Trade, Exchange Rates, and Global Imbalances」プロジェクト
2011年春、ユーロ危機の深刻化と資金の安全な避難場所としてのスイスへの資本流入に伴い、スイスフランの為替レートは上昇を始めた。この結果、同年9月には、スイス国立銀行(中央銀行)が、強いスイスフランが同国においてデフレリスクを増大させていること、および対ユーロレートの下限を1.2フランに設定することを発表するに至り、スイスフランは即座に10%減価した(図1参照)。
多くの人々は、この為替レートの変動に関して、スイスの輸出品が非常に高度化されたものであるため、輸出に対する影響は大きくないであろうと論じてきた。たとえば、国際通貨基金(IMF)は"スイスの輸出産業がブランドや特性によって価値づけられた非常に特殊化された品目に関して確立されているため、直面している価格競争は限定的なものである"という見解を示している。本稿において、我々はこの問題について計量的な分析を行った。
本稿での分析により、我々は以下の点を明らかにした。まず、スイスの輸出はHausmann et al. (2007)の測定法では1996年以降、Kwan (2002)の測定法では1980年以降、世界で最も高度化された構造になっている。さらにOECD分類を用いた分析からは、輸出の47%がハイテクに分類されることが示された。これは世界で3番目に高い割合である。こうした高度化された輸出構造から、スイス製品は価格ベースの競争には参加しておらず、そのため為替レート変化の輸出に対する影響は限定的なものであることが予想される。
しかしながら、我々の分析は為替レートの上昇がスイスの輸出の大規模な減少を引き起こすことを明らかにした。これは高度化された輸出構造を持つ国においてさえ、為替レートが重要であるという事実を示したもので、ハイエンドな製品の輸出に対する為替レートの弾力性は小さいという主張への反証である。
このことは、日本の貿易および為替レート政策に対しても以下のようなインプリケーションを持っていると考えられる。すなわち、日本の輸出に関しても、高付加価値製品の輸出に特化しているため為替レート変化への反応は小さいという主張が見受けられるが、スイスが示したように、ハイエンドな輸出品でさえ為替レートによって影響されうるので、資産の安全な避難場所としての日本への大規模な資本流入が円の過剰評価を引き起こす際には、日本もスイスにならって円を減価させることを考慮するべきであろう。
参考文献
- Hausmann, R., Hwang, J., & Rodrik, D. (2007). What you export matters. Journal of Economic Growth, 12(1), 1-25.
- Kwan, C. H. (2002). The rise of china and Asia's flying geese pattern of economic development: an empirical analysis based on US import statistics (RIETI Discussion Paper 02-E-009). Research Institute of Economy, Trade, and Industry.