ノンテクニカルサマリー

フランスの有価証券取引税が市場流動性および価格変動の大きさに及ぼす影響

執筆者 Gunther CAPELLE-BLANCARD (Université Paris 1 Panthéon-Sorbonne / CEPII)
HAVRYLCHYK, Olena (ヴィジティングスカラー)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

投機的取引を抑制し、金融市場を安定化できるような金融取引税の仕組みを作ることは可能なのか? それとも追加的に金融取引税を導入することで市場の流動性が損なわれ、市場のボラティリティはむしろ高まってしまうのだろうか? 有価証券取引税(STT)の導入は取引に係る費用を増加させ市場取引高を減少させるものの、市場のボラティリティにどのような影響を与えるのかは不明である。なぜなら、これは、市場から撤退するのが合理的な投資家なのか非合理的な投資家なのかに左右されるからである。

本稿では、欧州で2番目に大きい株式市場を有するフランスで2012年に導入された取引税の影響を通じてこの問題を検討する。フランスのSTTは独特な仕組みを持っているため、以下の観点から興味深い事例といえる。すなわち、取引税はフランスの大企業のみを課税対象としているため、ユーロネクスト上場の中小規模のフランス企業と外国企業という2つの対照グループと比較して税制導入の影響を検証できる。これは、全上場企業が対象期間中に受ける経済ショックと取引税による影響とを分離できる点で重要である。

図1のわれわれの分析結果は、STTの導入により、課税対象のフランス企業の株式の市場取引高は外国企業と比較して相対的に減少したが、ボラティリティに関しては両者に大きな差はなかったことを示している。なお、ボラティリティの分析に関しては対照グループの重要性を強調できる。なぜなら、全上場株式の変動幅は分析期間中に小さくなっており、もし対照グループがなければこのことは取引税導入の結果とみなされていただろう。

調査の結果明らかになったのは、全体的に見て、STTは薬でも毒でもないということである。投機を抑制して市場のボラティリティを小さくすることもなかったが、悪影響をもたらしたこともない。したがって、金融取引税に関する世界的な論争の文脈においては、この検証結果は、STTは、是正目的というよりむしろ税収目的の課税手段という考え方を支持している。

図1:STT導入が株式市場の取引高とボラティリティに及ぼす影響
図1:STT導入が株式市場の取引高とボラティリティに及ぼす影響
出典:Datastreamおよび著者の計算による。