ノンテクニカルサマリー

中国の人口移動と経済発展――最新の人口センサスからの検証

執筆者 孟 健軍 (客員研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果 (所属プロジェクトなし)

本論文は、最新の2010年第6回全国人口センサスにおける人口移動データの考察を中心にし、中国における地域間の人口移動と経済発展の関係について実証分析するものである。

具体的には、近年の中国における人口移動の地域分布と傾向について検証するとともに、都市、タウン、郷村の3つの階層における人口移動を考察して、中国の地域間人口移動の特徴について分析を行う。そして、最後に人口移動の要因と各地域経済の発展の関係ならびに中国の経済資源の再配置過程と経済発展のメカニズムについて検討する。

中国の移動人口には一般的に戸籍制度の制限によって、戸籍移動を伴う「遷移人口移動」と戸籍移動を伴わない「流動人口移動」がある。中国経済分析の場合には、以上の両方の人口移動を含む人口センサスはきわめて重要な意味をもつ統計データである。

1978年の改革開放以来、中国では、4回人口センサスが行われた。各地域の移動人口総数は、1982年の第3回センサスでは1134.5万人だったのが、1990年の第4回センサスでは3412.8万人に増加した。2000年の第5回センサスでは1億4439.1万人に達したが、さらに2010年の第6回センサスでは2億6093.8万人に達している。これは中国の各地域で激しい人口移動が起きていることを意味している。

地域間人口移動の規模はますます大きくなりつつあると同時に、地域内と地域間の人口移動は次第に整合性が取れ、とりわけ地域間人口移動も一定の方向に向かいつつあることが分かる。つまり、人口の流入地域は大都市と沿海地域に集中する傾向にあるが、人口の流出地域は中部と西部の農業地域を中心として集中から分散に向かう傾向にある。さらに、異なる階層の地域間人口移動は、人口流入率と地域間の純人口移動のベクトル分析からみると、タウンや郷村に比べ、都市においてはるかに大きい。このことは、2010年の中国における地域間人口移動の主な目的地が都市であることを示している。また、個別の地域を除いて、各地域の都市、タウンと郷村の人口移動の方向と当該地域全体の人口移動の方向はほぼ一致している。さらに人口移動と地域経済発展について考察した結果、中国における地域間の人口移動は地域の経済発展レベルと密接な関係があるといえる。ただし、経済的要素が引き起こす人口移動の中で現れる「プル要因」の役割は「プッシュ要因」の役割よりはるかに大きい。

本稿の分析結果としては2つの主要な結論を導き出すことができた。1つは、広大な国土を有する中国において、人口はある特定の地域に向かって再配置を始めており、徐々に経済発展地域核を形成している。もう1つは改革開放以来、人口移動は市場経済メカニズムに沿って変化してきたことにある。

本稿の分析結果の意義は、経済資源の再配置がもたらす中国経済発展の新しい資本蓄積メカニズムの形成を検証したことにある。市場経済の下、この種の新しい資本蓄積メカニズムは経済資源のより合理的、効果的で公平な再配置を生み、さらに中国に国内統一市場を完成させるのであろう。

表:人口センサス年の地域内と地域間の移動人口数(万人)
表:人口センサス年の地域内と地域間の移動人口数(万人)
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