ノンテクニカルサマリー

自由貿易協定と輸出プラットフォーム型外国直接投資:日本の企業データによる分析

執筆者 伊藤 匡 (ジェトロ・アジア経済研究所)
研究プロジェクト 通商協定の経済学的分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「通商協定の経済学的分析」プロジェクト

問題意識

1980年代後半以降、IT技術の進展および自由貿易協定(FTA)の進展という2つの大きな変化が国際貿易・投資に影響を与えている。IT 技術の進展は、生産工程の国際分業を可能にした。1970年代までは、ある国で最終製品まで一貫して生産されたものが他の国に輸出され消費されるという構図の貿易であった。すなわち、1970年代までのグローバリゼーションは、生産国と消費国が異なるという意味でのグローバリゼーションであった。

しかしながら現在では、IT 技術の進展により、生産工程の国際間コーディネーションが可能になった為、さまざまな生産工程の国際的な分割立地が進んでいる。自動車製造でいえば、たとえばエンジンは日本で製造され、車体はタイ、カーエアコンはマレーシア、最終的な組み立てがインドネシアといった具合である。このことは、垂直的分業の外国直接投資(FDI)を促すと考えられる。

一方で、もう1つの変化であるFTAの進展は、FTAグループ国の1つに生産拠点を設立し、他のグループ国へも供給するという、所謂輸出プラットフォーム型のFDIを促進する可能性がある。斯様に複雑化する外国直接投資を自国に誘致し、それにより国際生産ネットワーク(最近は「国際価値連鎖」とも呼ばれる)に参画することが経済成長に資すると多くの国が考えている。

そこで、本稿では輸出プラットフォーム型など複雑な形態のFDIの進展につき検証し、2つの種類のFTA(地域経済統合と二国間FTA)が外国直接投資の形態に与える影響について理論・実証の側面から分析し、その政策的な含意を探った。

分析結果

図表1は、日本のFDIの第三国輸出率を示したものである。1995年と2006年を併記している。殆どの国において第三国輸出比率が増加しており、その殆どが急激な増加を示している。海外事業活動基本調査(海事)の個票を利用した結果からも、輸出プラットフォーム型FDIの事業所数の比率が増加していることが確認された。

図表1:日本のFDI受け入れトップ20カ国における同FDIの全販売額に占める第三国輸出販売の比率(1995年と2006年)
図表1:日本のFDI受け入れトップ20カ国における同FDIの全販売額に占める第三国輸出販売の比率(1995年と2006年)
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出典:海外事業活動基本調査 集計表より筆者作成

また、海事を利用した計量分析により、EUやASEAN、NAFTAなど地域経済統合は日本からの(水平的)輸出プラットフォーム型FDIの進出を強く促した一方、日本の二国間FTA(日・シンガポール経済連携協定、日・メキシコ経済連携協定、日・マレーシア経済連携協定など)は(垂直的)輸出プラットフォーム型FDIの進出を若干ながら促進したという結果が得られた。

政策的含意

地域経済統合や日本の経済連携協定が輸出プラットフォーム型FDI を促進したという結果は、FDI受け入れ国、特に国際生産ネットワークへの参画を図る発展途上国にとって朗報であろう。特に、小国が地域統合への参加から得られる便益という意味で重要であろう。一方で、日本の経済連携協定の内、日・マレーシア以外では、統計的に有意な効果が見出せないことからは、原産地証明書交付の為の手続きが煩雑と思われていることにより手続きを踏まない企業が多いという可能性など、何かしらの障害要因があることが考えられる。しかしながら、日本の経済連携協定の効果については、同協定がいまだ十分な年月を経ていないことにより利用可能なデータが少なく、その結果効果が見られていないという可能性も高い為、数年間のデータを蓄積した上での更なる研究が必要であろう。