ノンテクニカルサマリー

国際的な景気循環における同期現象と結合振動子モデル

執筆者 池田 裕一 (京都大学)
青山 秀明 (ファカルティフェロー)
吉川 洋 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 中小企業のダイナミクス・環境エネルギー・成長
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「中小企業のダイナミクス・環境エネルギー・成長」プロジェクト

多くの政策担当者や実務家が、各国の景気循環の山谷がそろっているとの印象を持っている。その印象は事実であろうか? 本研究では、国際的な景気循環において、山谷がそろう現象、すなわち同期現象を詳しく検討した。

これまで、経済学では、景気循環における同期現象について、複数の国のGDP時系列の相関係数を用いた検討がなされてきた。相関係数とは、1つの変数が変化するときにもう1つの変数が変化する度合いを表す指標である。しかし、相関係数を用いた景気循環の検討はいくぶん間接的であり、より適切な量を用いた検討が必要である。そこで、本研究ではGDP成長率の山谷の位置関係に着目して研究を行った。

まず、同期現象の直接的証拠とその起源を明らかにするために、1960/2Qから2010/1Qの期間について、豪州、カナダ、フランス、イタリア、英国、米国のGDP成長率を解析した。その解析の結果、 GDP成長率の山谷の間隔が各国で同じであること、加えてGDP成長率の山谷の位置関係が固定されていることが、国際的な景気循環における同期現象の直接的証拠として得られた。

更に、複数の振り子が互いに影響を及ぼしながら運動するモデルに基づいて、過去40年間を4つの期間に分けて同期現象が発生する機構を検討した。ここで、4つの期間とは、period 1(1961-1980)、 period 2(1971-1990)、 period 3(1981-2000)、 period4 (1991-2010)である。この検討により、国際貿易が同期現象の起源であることが明らかになった。図1に、国際貿易が同期現象に与える影響の大きさの時間推移を示す。米国以外では、いずれの国においても時間の推移とともに国際貿易の影響が強くなっている。米国では国際貿易による他国からの影響は弱くなっているが、他国への影響は依然として大きい。これらの結果は、1つの国で経済危機が生ずると他の国々へ速やかに影響を及ぼすこと、経済のグローバル化の進展によりその影響は年々大きくなっていることを意味する。従って、景気循環の同期現象は、グローバル化の光と影を反映しており、経済が成長する局面では問題視されないが、世界規模の経済問題を引き起こす引き金であるという事ができる。

図1:国際貿易が同期現象に与える影響の大きさの時間推移
図1:国際貿易が同期現象に与える影響の大きさの時間推移