ノンテクニカルサマリー

国際ライセンシングのもとでの貿易政策と産業政策

執筆者 石川 城太 (ファカルティフェロー)
大久保 敏弘 (慶應義塾大学)
研究プロジェクト グローバル経済における技術に関する経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「グローバル経済における技術に関する経済分析」プロジェクト

企業は財市場において競争しているとしても他の側面で協調していることがしばしば見受けられる。たとえば、アップルとサムスンは携帯端末市場で激しい競争を繰り広げているが、サムスンはアップルに携帯端末の部品を供与している。そのサムスンも創設期には欧州や日本のメーカーから数多くのライセンス供与を受けていた。

このように内外の企業の間に協調関係がある場合には、どのような貿易政策、あるいは産業政策が最適となるかはそれほど明らかではない。一例として、自国企業を外国企業との競争から保護するための関税を考えてみよう。実は、内外の企業間に何らかの協調関係がある状況の下では、必ずしも関税が自国企業を保護する、すなわち自国企業の利潤を増加させることにはならない。たとえば、関税によって外国企業の最終財生産が減ってしまうと、外国企業が自国企業から購入している部品の購入が減少したり、外国企業が自国企業に支払っているライセンス料が減少したりして、自国企業の利潤が最終的に減少してしまうといったことが起こりうるからである。このような場合には、関税の引き下げが、自国企業に利潤を引き上げるのみならず、消費者の利益も増やすことになる。

政策担当者にとっては、直接的な企業競争のみにとらわれることなく、企業間にどのような相互依存関係があるかを見極めながら政策を立案していくことが肝要である。また、WTO体制のもとで進めている貿易自由化が企業や消費者の両者にとって利益となるような企業間の相互依存関係を確立させるような環境作りも大切になる。


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