ノンテクニカルサマリー

テレビやゲームは子どもの発達に有害なのか―21世紀出生児縦断調査のデータを用いた検証―

執筆者 中室 牧子 (慶應義塾大学)
乾 友彦 (ファカルティフェロー)
妹尾 渉 (国立教育政策研究所)
廣松 毅 (情報セキュリティ大学院大学)
研究プロジェクト サービス産業生産性
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「サービス産業生産性」プロジェクト

問題意識

厚生労働省(2009)「全国家庭児童調査」によれば、日本の小学生5~6年、中学生の3人にひとりは平日の3時間以上をテレビやDVDを視聴し5人に1人は平日の2時間以上をテレビゲームやパソコンに費やしている。その一方で、テレビやゲームが子どもの発達にあたえる影響については、功罪含めてこれまでにも専門家の間でさまざまな意見が交わされているが、そのメカニズムも含めいまだ十分に解明されているわけではない。この解明を困難にする理由の1つは、テレビやゲームをすることが子どもの発達に影響しているのか、はたまた、もともとある発達の特性をもった子どもがテレビやゲームを好んでいるのか、どちらか1時点のデータのみから正確に区別することが難しいことによる。

そこで本研究では、現在、厚生労働省が実施している「21世紀出生児縦断調査」を活用して、これを区別することを試みた。この2001年(1月または7月)に生まれた子どもたちを継続的に追跡した調査を利用すれば、子どものもともとの特性を考慮した上で、テレビやゲームが子どもの発達にあたえる影響をより正確に確認することができる。分析期間は、小学校1~3年生の間とし、この時期の発達指標としては、(1)家庭内外の問題行動(BPI)、(2)学校への適応度合い(POS)、(3)肥満の程度(BMI)をとりあげることとした。

主要な結果

  • テレビやDVD視聴が長くなると、就学期の(1)家庭内外の問題行動(BPI)、(2)学校への適応度合い(POS)、(3)肥満の程度(BMI)に好ましくない方向で影響を与えることが確認された。
  • ゲーム時間が長くなると、就学期の(1)家庭内外の問題行動(BPI)、(2)学校への適応度合い(POS)に好ましくない方向で影響を与えることが確認された。
  • ただし、その負の影響度は従来予想されていたよりも小さいと考えられる。その一方で、過度にこれをおこなうと、負の影響は飛躍的に大きくなることもわかった。
  • 子どものもともとの特性による影響をより厳密に取り除くために、遺伝的な特性がほぼ同じと考えられる双子と三つ子のデータをもちいて同様の分析を行ったが、上記で述べた結果は変わらなかった

結果の含意

図:テレビ・ゲームの1時間あたりの影響度
図:テレビ・ゲームの1時間あたりの影響度

日本のアニメやゲーム産業は、国際競争のある産業である一方、子供の発達に悪影響を及ぼすことが懸念されているが、本研究の結果からは、テレビやゲームが子どもの発達にあたえる負の影響はほとんど観察されなかった。むしろ子供の発達に影響を与えるのは、日常の生活習慣であることが判明した。そこで、今回の分析からは、教育機関を通じて、過度な利用は悪影響を与える可能性があるのでテレビやゲームについて一定の時間の利用制限を行うことに加え、規則的な生活習慣を奨励することが重要であると考えられる。また今回の研究では分析できなかったものの、時間よりもその内容次第では子供の発達にプラスに影響を与える可能性もあることから、アニメやゲームソフトについてその質や内容面を考慮して産業の健全な育成を支援していく必要がある。