ノンテクニカルサマリー

2020年全面的小康社会への展望

執筆者 孟 健軍 (客員研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果 (所属プロジェクトなし)

1978年の改革・開放政策以降、中国は近代経済に変貌してきた。この間、5億人の貧困問題を解決し新たな発展段階に入った。しかし、いままでの「先富論」という発展観に基づいた結果、10%を超える粗放な高成長によって経済格差を中心にさまざまな社会問題を抱えている。

中国社会を経済発展の道に導くため、「先富論」をはじめとし、小康社会、南巡講話、社会主義市場経済、共同富裕論、3つの代表、和諧社会、科学的発展観、等のさまざまな概念が打ち出されてきた。とりわけ、中国の古典的な概念である「小康社会」を現代において社会経済発展の段階的目標として中国の発展理論に重要な意味を与えている。そこでは小康社会を、中国の近代化を実現するために必ず経由しなければならない1つの発展段階として捉え、鄧小平時代から、江沢民時代を経て、今日の胡錦濤時代に至るまで語られてきている。政府は2020年に向けて、「全面的小康社会」の建設をこうした発展段階の達成目標とし、現在努力している。

それに基づいて政府の研究部門は、経済発展、社会調和、生活の質、民主法律、文化教育および資源環境の6つのカテゴリと23の具体的な統計指標が含まれる「全面小康社会の建設の統計計測方案」を2008年に公表した。これを持って中国の全面小康社会の建設の進展状況に対して具体的な計測を行うことができる。

本稿では最新の2011年中国統計年鑑を用いて全面的小康社会の達成度を計測した結果、2010年の総合達成度は80.1%となった。しかし、23の統計指標別にみると、80%に満たない指標がまだ11ある。主に、文化関係、収入分配関係、エネルギー環境関係における全面小康社会の建設の達成度が低い。この分析結果は、中央政府の現段階の施策力点に一致している。即ち、文化の促進、格差の是正、および環境重視の産業構造転換の方向に政策重点を置く。

現段階の全面的小康社会の建設においては全体的に低水準の状態を脱出したものの、まだ不均衡の状態にある。よって、「全面的小康社会」の建設重点を「全面的」という言葉のように、不均衡を是正するために発展のビジョンを調整する必要がある。即ち、これからの施策力点はこれまでの発展観を「先富論」から共に豊かになるという「共同富裕論」に転換し、地域格差の解消や経済成長の追求と同時に、地域間、都市農村間および階層間の協調発展が求められる。

具体的な政策遂行面からみると、これからの施策も多様性と差異性を理解し、科学的発展観に基づく、いろいろな評価指標の裏付けによってさらなる包括的な指標体系が構築されなければならない。それによって、地域の自らの発展段階と特徴を比較優位の視点から把握し、全面的小康社会の建設に向けてさまざまな発展経路を選択することができる。

表:全面的小康社会の統計指標別の達成度 (2010年)
表:全面的小康社会の統計指標別の達成度 (2010年)