執筆者 |
ZHAO Ting (浙江工商大学) 趙 偉 (客員研究員) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果 (所属プロジェクトなし)
Glaeser他(1992)による先駆的な研究以来、集積に伴う動学的外部性の3つの型(MAR、Jacobs、Porter)が地域研究・空間経済学を専門とする経済学者の間で主要な争点の1つとなり、実証的な関心も高まっている。過去35年間、世界最速の成長を遂げた最大の新興経済国の1つとして、当然ながら中国の事例は研究者の関心を集める。しかしながら、中国の事例を取り上げた過去の実証研究には、少なくとも2つの不備がある。第1はサンプル地域の選択である。ほとんどの実証研究は、空間規模の互換性や、経済集積の外部性の実質的な意味を考慮に入れずに、中国の省のデータを採用している。典型的な中国の省は、面積と人口規模の面で、米国の州、フランスの州または日本の都道府県といった同様の行政区分をはるかに上回っている。この分野の研究のほとんどは、中国ではなく米国等の先進国の事例を基にしているが、限定的な地域における産業集積の外部性という主題の性質上、都市や町がサンプル地域単位として選ばれていることは明白である。中国の省をサンプルとして選んでいる研究のほとんどは、実際のところ、これに矛盾する。第2の問題点は、実証研究に利用できるデータの選択方法と処理方法である。この分野の研究のほとんどで、時系列データではなくパネルデータが用いられているが、パネルデータは、集積の外部性を完全に明らかにするには不十分と考えられる。
本稿では、集積の動学的外部性に関する先行の実証研究の再考察した上で、先行研究で開発・改良された手法にさらに必要な修正を加え適合させ、研究の焦点を中国の大都市にまで拡大する。中国の3大都市である北京、上海および天津をサンプル地域として取り上げ、3つの型の動学的外部性が製造業の生産性に及ぼす影響を時系列手法により実証的に検証し、比較分析する。本稿の主な調査結果は、以下である。a) 3大都市において、労働生産性に関しては3つの型すべての動学的外部性が見られたが、影響の度合いや方向性には都市間で大きな違いがあった。b) 具体的な影響は、設定した時間差によって異なる。c) 3つの型の外部性プラス効果は、相互に代替可能なようである。具体的には、ある都市の生産性向上にMAR型外部性が最も大きく寄与している場合、Jacobsの外部性またはPorterの外部性の寄与度は低く、逆もまた然りである。

Table1 は、中国の3大都市圏における製造業の生産性向上への3つの型の外部性寄与度をまとめたものである。

上記の結果は、現地の産業構造が外部性の作用に実質的な影響を与えていることを示す。以上の現象への理解をさらに深め、長期的な効果をもたらし得るような多様性と特化を動機付ける政策を策定することが求められる。