ノンテクニカルサマリー

台湾企業の生産性と直接投資:ノンパラメトリック接近からの所見

執筆者 若杉 隆平 (ファカルティフェロー)
夏原 孝史 (京都大学)
研究プロジェクト 日本経済の創生と貿易・直接投資の研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本経済の創生と貿易・直接投資の研究」プロジェクト

企業が国際化(輸出、直接投資(FDI))するには国内生産に追加的に加わる費用を賄うだけの一定の生産性(productivity cutoff)が求められるため、国際化する企業の生産性は国内生産企業よりも高くなることが理論実証の両面で指摘されてきた。しかし実際の企業の国際化と生産性の順序は理論が予想するほど明快ではない。たとえば、低賃金国へFDIを行う企業の生産性は輸出企業や国内生産企業の生産性よりも高いとは限らない。この論文は、仕向地が異なることによって生ずる国際化の費用の差異を制御した後に、生産性が企業の国際化の選択にどのような影響を与えるかを実証面から検証することを目的としている。

分析の対象として台湾企業の国内生産とFDIを取り上げる。台湾企業は、旺盛な国際化を進めていることに加え、高賃金国と低賃金国の両地域を仕向地として国際化しており、市場の属性が国際化に与える影響を分析する上で格好なデータを提供してくれるからである。

検証する仮説は「高賃金国にFDIを行う企業には高い生産性が求められるため、その生産性分布は非FDI企業の生産性分布よりも高く位置するが、低賃金国にFDIを行うにあたり求められる生産性は高くないため、その生産性分布は非FDI企業の生産性分布と類似するか、もしくは低く位置する場合があること」および「企業は、コストの低い仕向地から順次、FDIを拡大するので、生産性の高い企業ほどFDIの仕向地の数は多くなる。すなわち、FDI仕向地数の多い企業の生産性はFDI仕向地数の少ない企業の生産性を上回る位置に分布すること」である。この仮説に関して、高賃金国(日本、韓国、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド)、低賃金国(タイ、マレーシア、インドネシア、ヴェトナム、フィリピン、カンボジア)にFDIを行う台湾企業を対象として、ノンパラメトリック接近(あらかじめ特定の関数形を決めずに分析する手法)による観察と検定を行う。検証の結果、
(1) 高賃金国へのFDI企業の生産性プレミアム(0.463)は低賃金国への生産性プレミアム(0.079)よりも大きいこと、
(2) 低賃金国へのFDI企業と非FDI企業との間には生産性分布に有意な順位は見られないが、高賃金国へのFDI企業と非FDI企業との間では生産性分布に有意な順位が見られること(図1参照)、
(3) FDI仕向地数が増加するにつれて、企業の平均的生産性プレミアムが増加すること、
(4) FDI仕向地数が大きい企業の生産性の分布はFDI仕向地数が小さい企業の生産性の分布よりも高い位置にあること
が観察され、統計的にも有意であった。

台湾企業の国際化は台湾経済の発展に大きな貢献をしているが、そうした貢献は多くの新興国において共通にみられる。企業の生産性が高ければ企業のFDIが活発になることに加え、FDIに要する固定・可変費用が小さい国・地域には生産性の低い企業であってもFDIを活発に行うが、このことは2つの政策上の方向付けを示唆する。研究開発の促進や人的資源の充実は生産性を高める上で有効な施策である。他方、国際間で制度を調和、統一することはFDIに要する固定・可変費用を低下させる上で有効である。そうした政策は企業の国際化を促し、ひいては経済発展に少なからず貢献する。

図1:FDI企業の生産性分布(仕向地別)
図1:FDI企業の生産性分布