ノンテクニカルサマリー

中国の都市化はどこまで進んできたのか

執筆者 孟 健軍 (清華大学 産業発展と環境ガバナンス研究センター)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果 (所属プロジェクトなし)

現在、人類史上未曾有の都市化が中国で進行している。2009年には中国の都市人口はすでに6億2186万人に達し、都市化率が46.6%となった。しかし、中国の都市人口の伸び率は1980年代以来の計画出産政策の影響下、すでに「低出生率、低死亡率、低自然増加率」の段階に入っている。都市化が加速した主な原因は、大規模な農村都市間の人口移動によるものである。今後20数年間には少なくとも5億の農村人口がさらに都市部に入ると予測される。これは200万人以上の特大都市が、中国で毎年少なくとも10個以上新たに生まれてくることに相当する。

中国の都市化過程は主に経済的理由で人口移動が行われている。これは経済の地域間格差によって偏った経済発展および産業立地と大いに関連している。その反面、都市化過程においては中国の特有な地方行政体制、および"戸口"と称する独特の個人身分制度があるため、中国における都市化は、かつての先進国および現在の途上国にくらべて非常に複雑な状況下にある。

本稿はこのような問題意識を持って分析し、2つの結論を導いた。第1に、中国の都市化の進展は中国特有の地方行政体制と強く関連しており、つまり各都市におけるレベルとの関係にある。現在、中国の都市化は、4直轄市、15副省級市、17省都、251地区級市、368県級市および1万9234鎮の6つのレベルから展開される。その地方行政体制の背後には中央と地方のさまざまな政治的経済的利権関係が関わっている。第2に、中国の都市化過程における人口移動は、個人身分制度である"戸口"に強く影響される。"戸口"は中国独特のものであり、非農業戸口と農業戸口とに分けられる。また、その中間に位置する集団戸口も存在する。中国国民には生まれつきの"身分"がいまだに強く残っていると同時に、戸口は大規模な都市化の現在、とりわけ都市への人口移動に対する管理面において大きく機能している。

以上の分析結果を踏まえて得た政策的含意として、まず、現在、中国における経済の高成長および産業構造の転換によって、とりわけ沿海地域では既存の地方行政体制に強く制限された都市のレベルが徐々に壊されつつある。たとえば、2010年副省級市でも省都でもない蘇州市の国内総生産は、上位レベルの直轄市である天津と重慶をすでに超えている。このような状況のなかに、中国の都市化は新たな方向に向かって行政区画と行政組織の調整を求める政策的な動きを次第に強めていく。

その次に、多くの農村都市間の人口移動は、"戸口"に縛られた定住地変更許可を伴わないことであり、むしろ行政区画、とりわけ省を越える地域間の労働移動は、これに制約されている面が大きい。しかし、中国では経済の高成長および経済構造の転換に伴い、現在日常生活においては戸口に対してとくに意識しなくても支障が生じることはない。これからの大規模な都市化過程においては戸口が結婚、住居取得、社会保障などのすべてと連動している政策的ジレンマを如何に解消するかが肝心である。

広い国土と大きな人口を持つ中国の都市化過程においては、市場化に向かう経済要素およびそれを制約する制度要素の両面の性格を強く併せ持っている。つまり中国の都市化過程は経済発展に伴い、行政体制および戸口制度などがさまざまな制度要素と複雑に絡み合っているのである。これらの要素は中国の経済発展および都市化を議論する上では、制度づくりと政策の両面において極めて重要な与件である。

したがって、中国におけるこれからの経済産業の立地や環境問題の解決および都市基盤の整備等の新しい都市マスタープランの構築は、このような制度づくりと政策の原点をきちんと検証することによって、初めてその全体像および将来像を捉えることができる。

表:中国の都市化の推移(1949-2008)
表:中国の都市化の推移(1949-2008)