ノンテクニカルサマリー

日本におけるサードセクターの範囲と経営実態

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

福祉国家や「大きな政府」の自由主義的な改革が進行すると同時に、市民社会における問題解決型の市民活動が拡大してきたのが最近の日本の状況である。しかし、この延長線上に、政府行政セクター、企業セクター、サードセクターの新しい分業・連携関係を構想するためには、いわゆる主務官庁制のもとで歴史的に極めて複雑に分岐してきた各種公益法人、特定非営利活動法人、協同組合、社会的企業などを広く包括したサードセクターの全体像とその経営実態を明らかにすることが必要である。

本論文では、サードセクターに関するアメリカ的アプローチ(非営利セクター論)とヨーロッパ的アプローチ(社会的経済論)の両方を参考にしながら、日本におけるサードセクターの範囲をどのように設定すべきかを論じた。

そのうえで、それに基づいて日本のサードセクターの組織と経営の実態を明らかにするためのアンケート調査を行ったので、その結果から得られた知見をいくつか紹介した。具体的には、日本におけるサードセクター組織は全体としてかなり堅実に経営されていること、透明性にはかなり問題が残ること、収入全体における公的資金の割合は29.5%にとどまり、また、「もらった収入(voluntary income)」と「稼いだ収入(earned income)」の割合が22.3%と77.8%であることから、きわめて行政依存的だという従来のサードセクターのイメージは再検討することが必要であること(下表参照)、事業収入を増大させ、組織の成長・発展をめざす組織が3割から5割存在すること、などが確認できた。

収入構成(財源と性格)
収入構成(財源と性格)

こうした現状から出発して、日本におけるサードセクターをさらに成長させていくためには、サードセクター組織自体の経営力の向上と合わせて、政府行政側からの条件整備が不可欠である。たとえば、各種の法人の間に存在する税制上の扱いの不均衡の是正、各種の事業(特別養護老人ホーム、学校、病院などの経営)への参入規制の撤廃、主務官庁制時代からの負の遺産である不必要に複雑に分岐した法人制度の簡素化、統一化などである。

また、政府行政とサードセクター組織の間の事業委託契約の改善(特に、成果目標の明示と実施過程における裁量権の拡大)、指定管理者制度の事業委託契約への転換、準市場(バウチャー)制度の拡大と制度設計の改善も重要である。

こうした条件整備の象徴的な出発点として、イギリスの事例にならい、政府行政の代表と広範なサードセクター組織の代表者との間でお互いの行動ルールを誓約するコンパクト(協約)の日本版を締結することが有効と考えられる。