執筆者 |
Julen ESTEBAN-PRETEL (政策研究大学院大学) 藤本 淳一 (東京大学) |
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研究プロジェクト | 少子高齢化時代の労働政策へ向けて:日本の労働市場に関する基礎研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
隣接基礎研究領域A (第二期:2006~2010年度)
「少子高齢化時代の労働政策へ向けて:日本の労働市場に関する基礎研究」プロジェクト
本論文は、労働者の就職率および離職率、そしてその結果として生ずる失業率の三変数の、日本の労働市場における年齢別パターンを説明できるモデルを提唱している。図(論文のFigure 2)に示されるとおり、日本の労働市場では失業率と離職率は年齢に対してU字型であるのに対し、就職率は年齢と共に低下する。このような年齢別パターンを説明できるモデルを開発することは、若年層の就職の困難や中高年層のリストラといった、特定の年齢層が直面する雇用労働問題に対して有効な政策を検討するに際して大変重要である。現状のデータを説明できるモデルがあって初めて、政策がもたらすであろう影響を分析するシミュレーションは意味を持つからである。
本論文のモデルの基本となるのは、労働市場分析の一般的手法となっている労働サーチ・マッチング・モデルであるが、年齢別の問題を分析するため、更に労働者のライフ・サイクルを加味したモデルを採用している。具体的には、現実同様に労働者は毎期年をとり、一定の年齢に達すると労働市場から退出する。更に本論文では、正規雇用労働者の解雇の困難さ、学生の長い就職活動期間、そして定年制の存在という日本の労働市場の特性を反映すべく、モデルに適宜の仮定を加えている。
モデルの最も重要な要素は、企業と労働者に確率的に決まるマッチの質(適性、相性)があるということである。労働者は適性が判明した時期に応じ、自らの適性が低い職への就職を避け、或いはそのような職から離職していくが、当該決定は労働者の年齢、裏返せば労働市場からの退出までの残存期間により大きく左右される。このため、離職率・就職率・失業率が年齢によって異なるのである。
シミュレーションの結果、図のとおり、モデルが日本における就職率・離職率・失業率の年齢別パターンをかなり良く再現することが示された。この結果は、たとえば失業手当の増減や解雇法制の改正のような労働政策が各年齢層の雇用動向に与える定性的・定量的影響につき、シミュレーションを通じた分析を行う道筋を開くものである。また、政策の効果に留まらず、人口動態や生産性の変化といった外生的要因が労働市場にもたらす影響についても、同様の分析を行える。その一例として、本論文においては、1990年代以来の日本の生産性低下が労働市場に与えた影響につき、シミュレーションを行っている。実際に生じたのと同規模の生産性低下をモデルに加えて計算したところ、日本で生じたのと近い大きさの失業率および就職率の変化が生じることが示された。
このように本論文のモデルは年齢別の雇用・失業問題を分析するにあたり有用な枠組みを提供するものであり、種々の拡張を容易に行うことができる。近年の非正規社員割合の増加や、いわゆる「ニート」問題等についても、当該枠組みに基づいて分析することが可能と思われる。これは今後の検討課題としたい。
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