執筆者 |
Julen ESTEBAN-PRETEL (政策研究大学院大学) 中嶋 亮 (横浜国立大学) 田中 隆一 (東京工業大学) |
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研究プロジェクト | 少子高齢化時代の労働政策へ向けて:日本の労働市場に関する基礎研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
隣接基礎研究領域A (第二期:2006~2010年度)
「少子高齢化時代の労働政策へ向けて:日本の労働市場に関する基礎研究」プロジェクト
本稿は国際比較可能な形で日本市場における労働フローデータを構築し、1990年代に発生した深刻な不況が日本の労働市場に与えた影響を定量的に分析したものである。1983年から2008年までの労働力調査から得られる個票データを利用し、雇用・失業・非労働力の各水準の時系列変化、および、これらの状態間の労働力フローの時系列変化を詳細に分析した。さらに、労働者および雇用者の属性でデータを細分化してフロー分析を行い、「失われた十年」から大きな影響を受けた労働者の集団的特性の識別を行っている。
集計データに基づく労働市場分析の結果、雇用者人口比率の増加と労働参加比率の減少は1980年代から2000年代にかけて単調に推移してきたことが明らかになった。一方、就職率および離職率については、1990年代にかけて、それぞれ大幅に減少、および、増加した結果、失われた十年をはさんで、日本の労働市場で構造的な変化がみられたことが判明した。
さらに、労働者の属性に基づいて労働フローを非集計化し、細分化された各労働市場の分析を行った。年齢階層区分に基づく分析結果から(表)、特に、若年世代の労働者において失われた十年における失業率と離職率の上昇が顕著であり、これらの若年労働者が失われた十年から最も強い影響をうけた集団であることが明らかにされている。さらに、中年労働者においては1980年代から2000年代にかけて就職率が大幅に減少したことも観察されている。性別による非集計化分析によれば、失われた十年において、男性労働者は、女性労働者に比べて、相対的に大きな労働フローの変化を経験したことが示唆されている。また、1990年代においては、女性労働者、特に、子育て世代の女性労働者において労働力参加率が増加し、非労働力に流入する労働力フローが顕著に減少することも明らかになっている。居住地に基づく非集計化分析から明らかにされたこととして、失業率は北海道・東北、および、近畿エリアにおいて顕著に高いこと、また、これらのエリアは高い離職率と低い再雇用率で特徴づけられることが挙げられる。
さらに、雇用者属性と職種に基づき労働フローを非集計化し、さらなる労働市場の分析を行った。産業区分の非集計化分析の結果から、当初の予想どおり、公共部門で働く労働者の雇用が最も安定しており、失われた十年から受ける影響が最小であることが確認された。さらに、第一次産業において、最も離職率が高く、この産業に属する労働者は1990年代の不況の影響を強く受けていることが示唆される結果となっている。雇用者の規模による非集計分析結果からは、中小企業で働く労働者は、大企業で働く労働者に比べて高い離職率に直面していることが明らかにされている。一方で、中小企業には、大企業に比較して、より多くの失業状態からの労働流入があることについても明らかになった。最後に、職種による労働フローの分析の結果、自営業労働者と非正規労働者は、正規労働者と比較して、離職率が有意に高いことが判明している。さらに、失業状態から正規労働へ最も顕著な労働力の流入が観察されるものの、非労働力状態からは、最大の割合が非正規労働へ流入していることが明らかになった。
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