ノンテクニカルサマリー

非正規労働者はなぜ増えたか

執筆者 浅野 博勝 (亜細亜大学)
伊藤 高弘 (大阪大学)
川口 大司 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 少子高齢化時代の労働政策へ向けて:日本の労働市場に関する基礎研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

過去20年の間に、日本の雇用を取り巻く状況は大きな変化を遂げている。非正規化の進展は最も顕著な現象の1つであり、1986年には17%程度であった非正規労働者の比率は、2008年には34%までにも増大している。本稿ではこの非正規労働者の増加という長期的傾向の解明を試みる。まず同時期における非正規労働者の正規労働者に対する相対賃金は非常に安定的であり、このことは非正規労働者の相対的な需要のみならず供給も増大していることを示唆している。

この論文では労働需要面の変化として産業構造の変化をとらえ、労働供給面の変化として性別や年齢構成の変化をとらえて、産業構造の変化や女性の就業率の増加に代表される労働人口構成の変化によって非正規労働者の増加をどの程度説明できるかを調べた。分析の結果は以下のグラフの通りである。

図:労働人口構成と産業構造の影響
図:労働人口構成と産業構造の影響

このグラフが示すように、産業構造の変化や労働人口構成の変化は、非正規労働者の増加の4分の1程度しか説明しておらず、残り部分については同じ産業の中あるいは同じ労働人口グループ内の雇用の非正規化によって説明される。特に女性労働者の非正規就業確率の上昇、あるいは卸売・小売業やサービス業における非正規雇用需要の増大などが大きな要因である。卸売・小売業やサービス業における非正規労働者の増加の要因は1日の中、あるいは1週間の中の需要変動に対応するためという理由が重要である。

以上の分析に加えて、企業データを用いた分析をも行った。その分析によれば、非正規労働者の増加の6割程度を、産業構造の変化と生産物需要の不確実性そして情報通信技術の導入によって説明できることが示された。

雇用が非正規化した理由をいくつか検討したが、産業構造の変化、労働人口の構成変化、生産物市場における需要の不確実性の増加、情報通信技術の導入というしばしば指摘される要因によっては、非正規労働者の増加の半分程度しか最大でも説明できないことが明らかになった。これらのことから20年来の日本の低成長がもたらした企業特殊的技能の価値の低下が雇用の非正規化をもたらしたのではないかと予想される。ただし、これはあくまでも予想の域を出るものではなく、今後この点を直接的に検証していくことが研究上の課題として残る。