ノンテクニカルサマリー

日本・メキシコEPAの両国間貿易への影響

執筆者 安藤 光代 (慶應義塾大学)
浦田 秀次郎 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト FTAの効果に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

世界では1990年代以降、特定の国々との間で貿易を自由化する自由貿易協定(FTA)が急増している。その背景には、関税と貿易に関する一般協定(GATT)およびその後継機関である世界貿易機関(WTO)における多角的貿易自由化交渉の遅れがある。日本は従来GATT・WTOにおける多角的貿易自由化を中心として貿易政策を行ってきたが、21世紀に入ると世界的趨勢に呼応して、積極的にFTAを締結するようになった。日本の締結したFTAは貿易自由化だけではなく投資自由化や経済協力など包括的な内容を含むものであることから経済連携協定(EPA)と呼ばれている。

EPA・FTAの中心は貿易自由化であることから、EPA・FTAの貿易への影響を明らかにすることは重要である。本稿では、日本・メキシコEPAが両国間貿易に与えた影響を分析した。日本・メキシコEPAを取り上げた理由としては、発効からある程度の時間が経過しているためEPAの効果を計測するにあたって必要な統計が入手できることと、EPAによる自由化の程度が大きいことがあげられる。分析にあたっては貿易統計と日本企業に対するアンケート調査の2種類の情報を用いた。

貿易統計を用いた分析からは、日本のメキシコへの輸出については、完成車、自動車部品、一次金属、電気・電子機械、精密機械、ボールペンなどにおいて顕著な伸びが認められた。一方、日本のメキシコからの輸入については、動物および動物性生産品、皮革製品、革靴などが大きく拡大した。これらの商品は両国政府により高い関税で保護されている商品である。日本・メキシコEPAの利用率に関する日本企業へのアンケート調査の結果から、日本企業による利用率は総じて低いが、メキシコ政府による手厚い保護を受けている鉄鋼製品や輸送機械においてはEPA利用率が高いことが明らかになった。これらの分析結果は日本・メキシコEPAは両国の保護されている市場の開放に貢献したことを示している。

日本企業に対するアンケート調査はEPAの利用に関して以下の2つの問題点を指摘している。1つはEPA利用に関する情報を入手することの難しさであり、いま1つはEPAを利用するにあたって必要となる原産地証明を取得する費用の高さである。これらのアンケート結果は企業によるEPA利用率の引き上げにはEPA利用に関する情報を普及することと原産地証明取得にあたっての手続きを簡素化する必要があることを示している。

日本のEPAの進捗状況