ノンテクニカルサマリー

原子力発電設備投資・費用支出と稼働率・トラブル発生率の相関分析

執筆者 戒能 一成 (研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

1. 本稿の目的・分析手法

1-1. 本稿の目的

原子力発電に関する企業行動が稼働率・対処可能トラブル発生率に与える影響を明らかにするため、一般電気事業者の過去30年分の有価証券報告書上の設備投資・費用支出などを整理し、双方向の因果性に留意しつつ、設備投資・費用支出から稼働率・対処可能トラブル発生率への長期的な影響について定量的に分析することを試みた。

1-2. 分析手法 - 全て公開データを使用

原子力発電設備投資・費用支出については、原子力発電所を保有・運転する国内一般電気事業者9社の過去30年分の財務諸表中固定資産及び費用明細書を実質化し集計・整理した。

稼働率については電力調査統計における設備利用率、対処可能トラブル発生率については(社)日本原子力技術協会データベース収録の法律対象報告件数を再集計・分類し使用した。

2. 原子力発電設備投資・費用支出と稼働率・対処可能トラブル発生率の相関分析

2-1. 設備投資と稼動率・対処可能停止トラブル発生率

設備投資から稼動率・対処可能トラブル発生率への影響については、型式別にその内容が大きく異なるが、長期的・巨視的に見た場合、設備投資は稼動率に対し正、対処可能トラブル発生率に対し概ね負の影響を及ぼしている。沸騰水型(BWR)では条件を揃えて比較した場合のみ部分的に影響が確認され、加圧水型(PWR)では当該影響は明確かつ安定的に確認された。

2-2. 費用支出と稼動率・対処可能停止トラブル発生率

費用支出から稼動率・対処可能トラブル発生率への順方向の影響については、費用支出中人件費・修繕費などの内訳別にその影響が大きく異なり、長期的・巨視的に見た場合、修繕費が稼動率に対し正の影響・対処可能停止トラブル発生率に対し弱い負の影響を及ぼしており、人件費が対処可能「非停止」トラブル発生率に対し負の影響を及ぼしている。

一方、対処可能停止トラブル発生率では費用支出の量的側面よりも、原子力保安に関する組織的管理能力や内部統制など各事業者固有の質的側面の影響が大きいことが示唆された。

図1、図2:原子力発電設備投資額/費用支出額-設備利用率相関
図1、図2:原子力発電設備投資額/費用支出額-設備利用率相関
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表1:原子力発電設備投資・費用支出と稼働率・対処可能トラブル発生率相関分析結果概要
表1:原子力発電設備投資・費用支出と稼働率・対処可能トラブル発生率相関分析結果概要
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図3:原子力発電設備投資・費用支出と稼働率・対処可能トラブル間の因果関係
図3:原子力発電設備投資・費用支出と稼働率・対処可能トラブル間の因果関係
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3. 試算・考察と提言

3-1. 追加的設備投資による稼動率向上対策の費用対効果

追加的設備投資による稼動率向上対策の費用対効果を試算した場合、石油火力・LNG火力の予備設備容量のみを保有しかつ沸騰水型(BWR)を建設する一般電気事業者でのみ条件次第で合理的な対策と評価でき、他の多くの場合では合理的な対策とは言えない結果となった。

3-2. 追加的修繕費支出による稼動率向上対策の費用対効果

追加的修繕費支出による稼動率向上対策の費用対効果を試算した場合、中期的には石油火力が予備設備容量である場合にのみ合理的な対策と評価できるが、長期的には石炭を含む全ての火力発電に対し費用対効果が正となり、長期的に修繕費を増加させ高水準を維持することは極めて合理的な稼動率向上対策であるという結果となった。

修繕費から稼動率への影響は確率的な過程を経て徐々に効果が現れてくる性質があるが、高水準の修繕費支出を長期間に亘り地道に続けることが、結果として非常に優れた費用対効果を以て稼動率の向上をもたらすことが確認された。

3-3. 提言

今後2020年に向けて稼動率85%以上とする政策目標を実現していくためには、修繕費を現状から10%以上増加させ少なくとも¥10,000/kW (2000年度実質) 超の水準に長期間に亘り維持することが必要と推定されるが、修繕費から稼動率への影響の確率的性質や不確実性を考慮した場合、政府としても各事業者の取組みを誘導・支援するための恒久的な政策措置を講じていくべきと考えられる。