ノンテクニカルサマリー

オバマ外交の分析-その1年4カ月の軌跡

執筆者 久保 文明 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト オバマ政権外交・安全保障政策の動向に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

最近のアメリカ外交の潮流としては、以下の表にあるように、8つの流れを指摘できる。政権によって、そして場合によると同じ政権でも、初期と末期では、どの思潮の影響を強く受けているかがかなり大きく異なっている(それぞれの内容の詳細はDP本文を参照のこと)。

たとえば、ジョージ・W・ブッシュ政権の第1期には、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツ国防副長官の下で(5)(6)(8)が有力であったが、第2期になるとライス国務長官の下で(4)が発言権を増した。

オバマ大統領は候補者時代にはイラク戦争反対を鮮明にし、(1)の強い支持を得ていた。イランや北朝鮮の指導者とも条件を付けずに会うという選挙戦での発言もその流れに属する。しかし、オバマ政権の外交安全保障チームは、(1)を排除し、主として(2)から成り、ごく一部(3)を含むものの、さらに(4)からの支援を受ける形で形成されることになった。国防長官のボブ・ゲーツ、国家安全保障担当大統領補佐官ジム・ジョーンズらは(4)に属しているし、まだオバマ大統領は、コーリン・パウエル、ジョージ・シュルツ、ブレント・スコウクロフトら、(4)に属する著名な外交専門家からアドバイスを得ている。実際、戦略核兵器の削減を相互に約束した最近の対ロシア外交を見たうえで、オバマ外交をリアリスト的と形容する報道も出始めている。

対中国に対しても、新保守主義者のように封じ込めや対立を提唱するわけではなく、イランや北朝鮮対策での協力を求めている。しかし、単に柔軟であるというわけではない。日本としては、特定のイデオロギーで割りきるのではなく、交渉によって何が得られるかを冷徹に計算するオバマ外交の性格について、十分理解しておく必要があろう。

表 アメリカ外交の諸潮流
(1) 民主党左派・反戦派
(2) 民主党穏健派
(3) 民主党系リベラル・ホーク
(4) 共和党穏健派
(5) 共和党保守強硬派
(6) 共和党新保守主義者
(7) 共和党系孤立主義者
(8) 共和党系宗教保守派