GIST:ジェンダー不平等研究チーム

Ⅲ. 研究会報告

GISTの研究会

以下は、RIETI研究プロジェクト「労働市場における男女格差の原因と対策 ― 人的資本、教育、企業人事、職業スキルの観点からの理論及び計量研究」研究会報告の概要について記しています、なお研究会での配布資料の入手可能性については、本プロジェクトでは直接取り扱いは致しません。お問い合わせがある方はお問い合わせフォームよりご連絡ください。


  • 第十一回研究会:2025年3月10日

    議題:長時間労働の規範と男女賃金格差:日本のデータを使った実証分析

    • 報告者:児玉直美(明治学院大学経済学部教授/RIETI RAs)
    • 報告要旨:近年、男女間賃金格差は縮小したが、それでも格差はなお残る。Goldin (2014)は、企業が長時間労働を不当に高く評価する「貪欲な仕事」を高く評価するインセンティブを持たなければ、男女間賃金格差は縮小すると述べた。
      本報告では、日本の1998~2022年のデータを用いて、平均残業時間の長い貪欲な職場の賃金がどの程度高いか、長時間労働の労働者がどの程度高く評価されているか、経年的にその程度は変化しているかを検証する。その結果、全ての年において残業時間の長い職場は賃金が高いことが分かった。一方、本人の残業時間の賃金プレミアムは上昇した。この背景としては、長時間労働の価値が近年高まっている可能性、平均的な残業時間が減る中で、残業時間が仕事に対する意欲の代理変数と見なされることが多くなった可能性が指摘できる。
    • 討論者:朝井友紀子(シカゴ大学ハリス公共政策大学院特任助教授)
    • 報告要旨:本講演では、「Claudia Goldin(2014)“A Grand Gender Convergence: Its Last Chapter」に習い、長時間労働の賃金プレミアムについて、日本の賃金構造調査で検証をすることを研究の目的とした点が大変興味深い。具体的には、労働者個人の時間あたり所定内賃金を被説明変数として、「労働者個人の残業時間」や「職場における平均残業時間」といった説明変数がどれくらいの影響力を持っているのかを検証している(ご講演ではこの関係を「長時間労働の賃金プレミアム」と定義している)。分析の結果、職場の平均残業時間が長い場合や、労働者個人の残業時間が長い場合に、個人の賃金も高い傾向にあるという相関関係が明らかになった。長時間労働に着目した研究はその蓄積が少ないため、大きな貢献になる可能性がある。一方で、Goldin(2014)の通り、どういった産業や職種で長時間労働のプレミアムが高いのか等の分析を追加することでより研究に深みが生まれる可能性がある。また、長時間労働のプレミアムと男女賃金格差の関連を検証することもできるのではないか。本研究の更なる発展が期待される。
  • 第十回研究会:2025年2月28日

    議題:職場におけるセクハラの実態と社会が被る経済的損失の推計

    • 報告者:大沢真知子(日本女子大学名誉教授)
    • 報告要旨:2017年頃から性被害に対して声を上げる当事者が増加している。背後には女性の高学歴化とともにキャリアを追求する女性が増えたことがあげられる。最近話題の“#私が仕事を辞めた本当の理由“には現在11万件の投稿があり、その多くが職場のセクハラを告白している。
      2022年にNHKが実施した“性暴力”実態調査アンケートには38383件の回答があり、性被害が社会で認知されているよりも多く存在すること、また、性被害にあうリスクは女性に多いこと、若い年齢になる程高いこと以外は、誰にでも起こりうることがわかる。また、全サンプルの被害時の平均年齢は15.1歳であり、4分の3の被害者が10代未満で被害にあっている。
      全体のサンプルからわかったことは
      (1)深刻な被害をもたらす―高いPTSD発症率
      (2)診断できる専門家の不在
      (3)性犯罪を立件しにくい司法制度の存在
      (4)被害者に落ち度があったとする強姦神話
      である。
      さらに、サンプルを職場での被害に限定して分析を進めた。政府調査から多くの企業は相談窓口を設けているが、被害にあった場合に実際に相談しているものは少ない(3〜5%)ことがわかる。
      NHK調査を見ると、セクハラの内容は多岐にわたるがPTSDの可能性はどの加害行為でも高い。職場の被害では上下関係を利用したものが多い。他方、上司や人事担当者に被害を相談してもよくあることと言われたり、加害者を擁護するようなことを言われている。発言者は女性の上司であることも多い。つまり、加害を容認する風潮がある。
      その結果、約1割は一時的に会社に行けなくなり、4人に1人は会社を辞めたりしている。その経済損失は、小さく見積もって1兆4678億円、大きく見積もれば8兆2932億円にのぼる。
      性被害者をさらに①10歳以下の子供時代の被害②学校関係の被害(10〜18歳)③障害を持った人の被害④男性被害者⑤トランスジェンダー・Xジェンダーに分けて分析を行った。
      子供の被害では、知り合いの被害が多く、学校関係者では教師や学校の先輩や同級生からの被害が多くなっている。障害をもつ被害者の場合には、加害行為そのものも深刻であり、死にたい、死のうとしたなどの深刻な影響を訴える被害者も多い。さらに、男性被害者を見ると、PTSDの症状は男女で違いがないのに対して、相談した場合の2次被害には男女差があり、ジェンダー意識がそこに影響を与えていることが確認された。さらに、トランスジェンダー・Xジェンダーの被害では出生時の性は男性で現在の性自認は女性であるグループで被害が特に深刻であることがわかった。
      以上の分析から、性暴力が日本で不可視化されてきた背後には家父長的な社会構造や男らしさ・女らしさに基づく社会規範があることがわかった。しかし、女性のキャリア意識の高まりとともに、声を上げる当事者によって、性暴力が被害者に及ぼす影響があきらかになりつつある。また、被害の実態を知るに従って、性暴力に対する社会の見方も変わってきている。
      最近の刑法の改正はグローバルなスタンダードに基づいたものに変化しており、国際社会は国連の「人権とビジネス」の指導原則に基づき、企業のガバナンスにおける人権侵害に厳しい目を向けるようになっている。これに伴い、企業のセクハラを放置しておくことのコストは高まっている。企業風土を見直すことに加えて、国は、家庭教育や学校教育におけるジェンダー平等の徹底を行い性教育を導入することによって、性暴力被害を防止し、女性が活躍できる社会を作ることが必要になっている。
    • 討論者:山口一男(シカゴ大学教授、RIETI客員研究員)
    • 報告要旨:大沢報告は性被害状況の広範性と多様性の記述において優れており、社会の規範・文化状況を含む改変の必要性を示しているが、結果に関する記述的統計が主では政策的対応の具体的指針が得られず、以下の点での改善が望ましい。
      (1)性被害リスクの大きさについての個人、学校、職場、雇用形態(正規雇用・非正規雇用の別)などの特性の影響の違いに関し、社会疫学的手法(たとえばイベント・ヒストリー分析など)を用いて多様な要因の相対的重要性を明らかにすることが望ましい。
      (2)NHK調査は性被害経験者のみを対象とするので、性被害非経験者との比較(例えば生涯所得が性被害経験によりどう異なるか)などの分析は外的妥当性(external validity)が得られない。したがって性被害者中で被害の種類や被害年齢の違いがどのようにその後の生活に影響したかについての内的妥当性(internal validity)を有する分析が望ましい。
      (3)将来的には制御群である性被害被経験者を含めた調査データに基づき、職場における性被害の経済的負の効果などを推定することなどが重要と考えられる。
    • 討論者:柏野尊徳(アイリーニ・マネジメント・スクール)
    • 報告要旨:職場でのセクハラ被害を含む女性への加害行為は、被害者個人への心理的負担にとどまらず、キャリア形成や人材配置における不平等構造を強める要因にもなりうる。スウェーデンの研究 (Folke & Rickne, 2022) では、女性労働者が同性への被害リスクを想定した場合、セクハラを回避するために賃金の17%相当を犠牲にしてもよいとする意向が観測された。推計によると、男女の賃金格差のうち約10%はセクハラ被害に起因しているとされる。フィンランドでの職場内暴力を対象とした分析 (Adams-Prassl et al., 2024) では、管理職の男性が同僚女性に加害した場合、加害者ではなく被害者の顕著な退職増加が確認された。波及効果として、同じ職場の女性従業員の離職や新しい女性の採用減も発生し、職場全体の女性比率が連鎖的に低下する傾向が確認できる。こうした諸外国の先行研究からは、セクハラを含む差別行為や暴力行為の放置により、賃金格差などジェンダーギャップが拡大するメカニズムがうかがえる。
      国内でも、起業家を中心とした197名が対象の探索的調査 (Kashino, 2025) において、過去1年以内にセクハラ被害を経験した女性起業家の割合は52.4%に達し、被害遭遇率は男性起業家の4倍となっている。加害者の43.2%は投資家、続いて取引先や顧客、メンターやアドバイザーとなっており、スタートアップにおいて重要なリソースを握る立場の人物が多い。加害者からの性的関係の拒否を理由に出資や取引継続を断念し、成長機会や売上を失った事例は被害報告件数の14.8%を占めている。日本政府は2022年に「スタートアップ育成5か年計画」を掲げ、起業促進策を打ち出しているが、劣悪な環境を改善するための具体的対策は十分に示されていない。先行研究でも指摘があるように、不利な状況が考慮されていないスタートアップ政策は、ジェンダーギャップをさらに拡大させる可能性がある。男女賃金格差に象徴される経済活動上の不平等を解消するには、国内での実証研究を積み重ね、実効性の高い被害防止策および被害者保護体制の整備が不可欠である。
  • 第九回研究会:2025年1月17日

    議題:職業スキルと個人所得の男女格差:日米のメカニズムの同質性と異質性

  • 第八回研究会:2024年11月14日

    議題:脳や能力における性差:性差の傾向と原因の分析

    • 報告者:四本裕子(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
    • 報告要旨:「女性と男性では脳が違うのだから、その違いを理解しそれぞれの特性を活かして協力すべき」という言説は、「男性脳・女性脳」の言葉とともに社会で広く信じられている。報告では、人間の脳や能力における性差を報告した研究を取り上げ、その性差の原因と社会に及ぼす影響を分析した。脳や能力における性差は多数報告されている一方で、その「差」の解釈には注意が必要である。性差を議論する際には、科学的根拠の有無を確認し、出版バイアスの影響を理解し、平均値の差を個人の特性に一般化できないことを理解し、脳には可塑性があるため、脳の性差は教育や経験の結果としてもたらされた可能性があることを考慮に入れる必要がある。脳が原因で性差が生まれるという不正確な解釈は、差別をもたらす危険性がある。実際に世間で広く信じられている性差を照査すると、その多くが社会や教育の現状の影響を受けた結果であることが見えてくる。社会構造を固定化して現状の差別的状況を再生産しないために、社会の構成員としていかなる未来を構築するかという視座が求められる。
    • 討論者:横山広美(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 教授)
    • 報告要旨:本講演では女性脳、男性脳をはじめ世間に流布する誤解を、神経科学、脳科学の研究者のお立場から、科学的根拠、出版バイアス、平均と分散、因果の4つに分けて説明された。それぞれに根拠となる論文があり、明快な解説に感銘を受けた。特に、行動や思考が脳を変える、という点は、社会にもっと知ってほしい点である。
      どのように社会を変えるべきかという議論は、2つの点で興味深かった。1つ目は、社会の理解と改革スピードのバランスである。改革スピードは早いことが望ましいが、分断を深めてはいけない。この点に工夫が必要である。2つ目は、ジェンダーの研究が技術的に難しいことに加えて、日本のジェンダー研究あるいは研究者への評価が不当に低いと感じられる点である。研究者コミュニティの意識改革も重要であることが確認され、大変有意義な議論であった。
  • 第七回研究会:2024年10月23日

    議題:Understanding the Barriers to Paternity Leave-Taking: Evidence from Japan

    • 報告者:重岡仁(東京大学公共政策大学院 教授)
    • 報告要旨:家庭内での育児負担を平等に分担し、従来の性別役割に関する意識の変革を図るため、父親の育休取得が多くの国で奨励されている。しかし、日本においては、充実した育児休業制度が整備されているにもかかわらず、父親の育休取得率が極めて低いという課題が残されている。本研究では、日本における父親の育休取得の障壁を明らかにすることを目的として、大規模なアンケート調査を実施した。その結果、日本の男性従業員の大半が1〜2か月の育休取得を支持し、実際に取得したいと考えているものの、上司や同僚の賛成度を大幅に低く見積もっていることが示された。さらに、既婚男性従業員に対して情報提供を行う実験を試行したところ、そうした誤解を修正することで、一部の男性従業員において育休取得に対する態度や従来の性別役割に関する意識が変化する兆しが確認された。今後の課題として、こうした誤解を信頼性をもって広く修正していくための方法を、どのように確立し実践していくかが挙げられる。
    • 討論者:山口慎太郎(東京大学大学院経済学研究科 教授)
    • 報告要旨:本研究は、日本の男性育児休業取得における障壁を「集団的無知」として焦点を当てた点が特に注目に値する。情報提供実験により、管理職層が男性の育休取得を支持していることを示すことで、育休取得に対する誤解を解消し、育児参加への肯定的な態度を促す試みがなされている。この研究の特に優れた点は、給付金の所得代替率の理解が進んでいることや、大企業でも誤解が広がっている点を明確にしたこと、上司の理解が育休取得に与える重要性を示した点である。また、「社会的望ましさバイアス」に配慮している点や、「友人へのアドバイス」という形で男性の育休取得に対する態度を引き出した工夫が特に優れている。
      一方で、より有効な情報提供の手法として、社会一般の態度ではなく、自分の組織や上司の意見をフィードバックできるとより効果的なのではないか。たとえば、社内の他部署での育休取得事例の紹介や、具体的な実績の提示は強い説得力を持つ可能性がある。本研究がさらに発展し、実務的な応用につながることを期待する。
  • 第六回研究会:2024年9月24日

    議題:企業における男女賃金差異の分析

    • 報告者:矢島洋子(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主席研究員)
    • 報告要旨:民間シンクタンクの立場から、企業における男女の賃金差異の分析ツールとその活用事例を報告した。国の推奨する分析ツールとしては、まず、2010年に厚生労働省が作成した「男女間賃金格差解消に向けた労使の取組支援のためのガイドライン」がある。「採用」「配置」「育成、能力開発、キャリア形成」「評価」「昇進、昇格」「賃金」「退職」「WLB」関連の約30の人事データを指標として用い、社員の意識調査結果も踏まえて、賃金格差の要因を把握するものである。2011年から2014年には、このガイドラインを発展させる形で、「ポジティブ・アクションを推進するための業種別『見える化』支援ツール(以下、「業種別見える化)」作成のモデル事業が実施された。2010年の指標からさらに絞り込んだ約20項目を、「構造図」に落とし込み、12の業界団体の協力を得て、業界ごとの調査票を作成し、業界平均のデータを取り、各業界の賃金格差の課題を分析している。この「構造図」の考え方は、2015年の「女性活躍推進法に基づく一般自主行動計画策定支援マニュアル」における「基礎項目」と「選択項目」を用いた課題分析にも応用されている。2022年の改正女性活躍推進法により、301人以上企業に「男女の賃金の差異の分析・公表が義務化されたことに伴い、本マニュアルも改訂され、賃金差異の分析・公表方法について、法対応にとどまらず、より詳細な分析を行う方法も紹介されている。
      https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/plan_tool/file/plan_tool_manual.pdf
      「業種別見える化」ツールについては、その後のアップデートは行われていないが、いくつかの業界団体で自主的に活用されている。UAゼンセンは2013年と2022年に加盟組合を対象とした調査を行っており、2024年に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングとの共同研究で「流通小売業における男女賃金差異に関する経年比較分析」報告書を公表している。
      流通小売業における男女賃金差異に関する経年比較分析 | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
      2024年4月からスタートした総理補佐官主導の「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」でも、業界単位での対応の必要性が示されており、これまでに開発された既存ツールについても一層の活用が期待される。

    議題:子育て・介護・女性活躍を阻み、すべての社員が余裕なく幸福度を下げる 日本社会の「ギリギリ職場」構造を変えるには~3000社の働き方改革支援の事例から~

    • 報告者:小室淑恵(株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長)
    • 報告要旨:3000社のコンサルティングをしてきた実績から、労働時間の削減に取り組んだ企業における業績向上、女性活躍、男性育休取得率・有給休暇取得率の向上等の現場での変化について解説。
      そのような変革がこの日本社会においては各企業の自助努力とされている側面が大きいが、結果的に組織内や社会における対立構造を生み出している背景である現状の労働基準法に関し、他国との比較と共に現在進めている政策提言についてお話させていただいた。

      今後、育児・介護・不妊治療・不登校対応・発達特性など、予測できない休みが毎日発生する人材を内包した職場を運営することが当たり前になる社会においては、発生する休みの理由ごとに制度を作ることでは解決しないため、労基法の見直しが重要である。(4の中小企業で、時間的猶予を与えないのが鍵)

      1:勤務間インターバルの義務化(うつ病と過労死から国民を守る)
      2:時間外割増率を1.5倍へ(安易な残業命令から国民を守る)
      3:法定労働時間の上限を単月でも70時間へ(過労死ライン以下へ)
      4:中小企業の労働環境改善を支援して社会保険料相当金額控除
      5:政府目標の一般労働者の総実労働時間を1800時間以下とする

      「ギリギリ人員の頑張りと踏ん張りで耐え抜く職場」から、「頭数多めで、お互いの急な休みは想定済・お互い様の職場」に国を設計しなおすことが必須。そのための大切な手法が労基法の改正であり、検討していくことが重要だ。
  • 第五回研究会:2024年8月6日

    議題:7月の韓国延世大学における、シンポジウムの報告

    • 報告者:山口一男(シカゴ大学教授、RIETI客員研究員)、朝井友紀子(シカゴ大学ハリス公共政策大学院 特任助教授)
    • 報告要旨:第5回研究会は去る7月12日に韓国延世大学において行われた「Findings on Gender Inequalities in the Workplace and Their Implications for Effective Working Policies」と題したシンポジウムにそれぞれ基調講演者と報告者として参加したGISTメンバーの山口一男、朝井由紀子によるシンポジウム報告会に充てられた。

      山口は以下の5つの論文について研究報告を行った。
      1. 男女の職業分離とその男女賃金格差への影響に関する日韓の類似性と異質性についてRIETIにおける自身の研究とYoosik Youm氏との共同研究結果をまとめ、あわせてRIETI-GISTのプロジェクトについてもその趣旨を説明した 山口による“Gender Inequality, Occupational Skill, and My RIETI Project in Japan: Toward an Academic Exchange on Policy-relevant Gender-inequality Research”と題した報告。
      2. 男女の職業スキルの達成の違いとそれが男女賃金格差に与える影響について日韓の共通性と異質性を明らかにした延世大学のYoosik Youm氏による “Occupational Skills and Gender Wage Gap: A Comparison of South Korea and Japan”と題した報告。
      3. 企業のESG(環境、社会、ガバナンスに関するCSR)の達成度合いと、男女賃金格差の低なさ、および男女就業年数差の少なさ、がいずれも韓国企業の平均利益率の高さと因果的に結びついていることを実証した、ソウル大学のHyeok Jeong氏による“Empirical Validation of Firm Level Incentive Compatibility of ESG and Gender Equality”と題した報告
      4. 韓国企業における「集団業績報酬」に関し、特に一律でなく個人の貢献に応じた集団業績報酬の分配の普及が男女賃金格差の拡大を生んだことを企業パネルデータを用いて因果的に明らかにしたイリノイ大学のEunmi Mun氏の. “Whose Performance Matters? Collective Performance Pay and Gender Wage Inequality.”と題する報告
      5. 企業内の人事データの分析を通じ昇進の男女格差の決定要因として、スキルの自己評価、スキルの上司評価、責任の重い仕事への配属度の3要素の男女差に着目し、女性の結婚ペナルティーと育児ペナルティーがそれぞれの要素に与える影響を検証した朝井による “Gender Bias in Evaluation and Promotion”と題した報告

      続いて朝井は以下の4つの論文の研究報告を行った。
      6. 労働市場における男女の賃金格差が、カップルの消費行動に及ぼす影響を検証したUniversity of Illinois at ChicagoのSo Yoon Ahn氏による "Gender Wage Gap and Household Consumption in the US: Evidence from Scanner Data" と」題した報告
      7. コロナ後のリモートワーク利用が評価の男女差に及ぼす影響を検証したIndiana UniversityのYoungjoo Cha 氏による "Competing Devotions in the Post-Pandemic Economy: The Effect of Remote Working on Perceptions of Employees as 'Good Workers' and 'Good Parents' in Germany, South Korea, and the United States"と題した報告
      8. STEM学習プログラムを提供することで、ジェンダー規範が変化し、女性が自信をつけることにつながるかどうかを検証した延世大学Youjin Hahn氏による"Can STEM Learning Opportunities Reshape Gender Attitudes? Field Evidence from Tanzania"と題した報告
      9. なぜ敵対的性差別が根強く残るのかをビネット調査で明らかにしたKDI School of Public Policy and ManagementのJoeun Kim氏による "Men’s Decline and Rising Support for Hostile Sexism: A Survey Experiment from South Korea"と題した報告
  • 第四回研究会:2024年7月24日

    議題:労働市場の『構造』からアプローチする男女の不平等

    • 報告者:鈴木恭子(独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT))
    • 報告要旨:労働市場における男女格差はしばしば「個人」の選好や人的資本など個人レベルの要因によって説明されるが、私たちの一見自由にみえる選択も実際には社会における制度や規範などに制約されていることをふまえると、労働市場の「構造」に注目する視点も重要である。通説では、日本に正規雇用と非正規雇用という2つの全く異質な働き方があると考えられる。しかし分析によれば、日本の労働市場はたしかに2つのセグメントで構成されるものの、それは必ずしも正規雇用/非正規雇用の違いではなく、性別や企業規模とも関連しつつ見えない構造で分断されている。また、性別が賃金に及ぼす影響には学歴・スキル・職業を経由した様々なルートが考えられるが、日本では女性が高い学歴を得たり、高いスキルを要する職業についても、男女賃金格差の縮小につながっていない。男女賃金格差の縮小には、労働市場の構造的な障壁を取り除いてフェアにスキルを評価する仕組みを確立すること、つまりスキルの蓄積が良い仕事に繋がり、その仕事の内容に見合った賃金へとつながる回路を確立することが重要である。
  • 第三回研究会:2024年6月3日

    議題:Unpacking the Child Penalty --Evidence from Personnel Data

    • 報告者:山口慎太郎(東京大学大学院経済学研究科 教授)
    • 報告要旨:この論文は、日本の製造業の企業の詳細な人事データを使用して、子供の誕生が男女の賃金に与える影響、いわゆる「チャイルドペナルティ」を分析している。研究は、出生後の10年間で月収におけるチャイルドペナルティが平均51%であり、そのうち5%は父親としてのプレミアム、46%は母親としてのペナルティであることを示している。チャイルドペナルティの主要な要因は、労働時間の減少から昇進の遅れへとシフトしている。短縮された労働時間は業績評価を下げ、それが昇進の見込みをさらに妨げる連鎖的な影響を引き起こしていることが明らかになった。現在の昇進政策は人材を効率的に分配しておらず、特に育児の責任が重い女性に対して不利に働いている可能性がある。この結果、女性の昇進が遅れ、長期的な賃金格差が拡大する原因となっている。

    議題:理系女性はなぜ少ないのか:都道府県別に分析する

    • 報告者:横山広美(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 教授)
    • 報告要旨:「なぜ理系に女性が少ないのか  ージェンダー平等との関係を都道府県別から見るー」
      日本のジェンダーギャップ指数が低いことはよく知られているが、県別に見ても差が大きい。そこで、本プロジェクトでは、近年算出された「都道府県版・ジェンダーギャップ指数」を用いて、各県での進学者数、理工系進学者数、全国悉皆学力調査の結果や都道府県GDPなどを組み合わせることで、ジェンダー平等との関係を精査する。
      この研究は、日本の今後の理系女性に関する戦略を検討するエビデンスとなると同時に、研究テーマとしてはより広い「STEMジェンダーパラドクス」と呼ばれる、ジェンダー平等が高い国ほど理工系女性が少ない、という世界的な現象に対しても大きなインパクトが出るのではと期待している。
  • 第二回研究会:2024年5月13日

    議題:評価と仕事の配分と昇進におけるジェンダーバイアス

    • 報告者:朝井友紀子(シカゴ大学ハリス公共政策大学院 特任助教授)、大湾秀雄(早稲田大学政治経済学術院 教授)
    • 報告要旨:女性は男性に比べて昇進で遅れをとっており、男女賃金格差の一因となっている。 本稿では、日本の大手ビジネス・ソリューション企業の人事記録を用いて、処遇における男女間格差が、主観的スキル評価や役割配分における男女差によって引き起こされているかどうかを検証した。使用したデータには、客観的な能力評価(出身大学とTOEICのスコア)、主観的なスキル評価(自己評価と上司による評価)、生産性指標(役割における達成度)が含まれている。その結果、
      (1)女性は、同等な客観的能力評価指標と属性を持つ男性よりも自分のスキルを低く評価する傾向がある;
      (2)自己評価を確認した後でスキル評価を行う上司は、やはり同等な客観的能力評価指標と属性を持つ男性よりも女性を低く評価する傾向があるが、自己評価における男女差よりは差は小さい;
      (3)スキル評価における男女差は、自己評価と上司による評価どちらにおいても、伝統的に「男性的」と見られるスキル項目においてとりわけ大きい;
      (4)女性社員は、同じスキル評価と属性を持つ男性社員よりも、より責任の軽い役割を与えられる傾向がある;
      (5)スキル評価における男女差は、直接的にあるいは仕事の配分の差を通じて間接的に昇進格差を生み出しており、昇進格差の21%を説明する;
      (6)スキルや役割における男女差の大きな割合を女性の労働時間の少なさが説明しており、労働時間を統制すると、すべての分析で差が縮小するか、時には男女差が反転する。

    議題:男女の理系進学格差について

    • 報告者:中室牧子(慶應義塾大学総合政策学部 教授)
    • 報告要旨:女性は、工学部や理学部への大学進学者が低い一方で、教育や人文科学、芸術学部では高いという特徴がある。国際的に見てもSTEM分野の高等教育卒業者に占める女性の割合は低く、47か国中最下位となっている。学力では男女間の差がないにもかかわらず、理系を選択する女性が少ないのはどのような理由があるのかについて男女間の賃金格差の分野で用いられているBlinder-Oaxaca分解の手法を用い、文理選択のジェンダーギャップを、観測可能な要因で説明できる割合と説明できない割合を算出し、考察する。東大社研・ベネッセ総研「子どもの生活と学びに関する親子調査」とベネッセコーポレーションより提供された進研模試の結果およびアンケート調査、大学入試の結果に関するデータを用いる。
  • 第一回研究会:2024年4月11日

    議題:職業スキルと男女賃金格差

    • 報告者:山口一男(シカゴ大学教授、RIETI客員研究員)
    • 配布資料:PPTスライド
    • 報告要旨:主としてRIETI-DP-23-J-033「『科学技術スキル』と『対人サービススキル』の2種の職業スキルが日本の労働市場においてどう評価され、またそれが男女賃金格差や非正規雇用による人材の不活用にどう結びついているのか」に基づき、男女賃金格差の原因について、(1)職業スキルの獲得の男女差と(2)男女の就く専門職の職業スキルの市場評価の差という2つの観点から議論し、その政策的インプリケーションを議論した。特に職の科学技術スキルの男女の格差が、 管理職割合の男女格差とほぼ同程度に男女賃金格差を生むことを明らかにする一方、男女の職の科学技術スキルの格差の解消は、男女の管理職割合の格差の解消とは全く異なり、家庭内や初等中等教育における、男女の職のステレオタイプ化に遠因があり、それが高度教育を通じて男女の専門職の分離と賃金格差を生み出すメカニズムについて説明し、議論した。