GIST(Gender Inequality Study Team)目的・趣旨
Gender Inequality Study Teamの頭文字をとって通称GIST(ジスト)と呼ぶこのプロジェクトは経済産業研究所において2024年4月に発足し、日本の雇用と労働市場において男女が平等に活躍できる社会の実現のための、政策および企業施策の立案に資する実証的根拠を、理論とデータ分析から導くことを目的としたチーム研究プロジェクトである。周知のように世界経済フォーラムが発表しているジェンダー・ギャップ指数によると2023年度で日本は146国中125位と低く、その主な理由の1つに経済活動における女性の活躍に関する日本の大きな遅れがある。さらには、他国と比べ男女格差の改善度も遅く、指数の順位が年々下がるという状態にある。人口の半数を占める女性にその機会が十分に与えられていないといえる日本の現状は、人材創出上いまだ半分の力しか発揮していないといえる。他国における女性の活躍の推進が明らかにその国の経済的発展や社会的安定を生み出していることを考え合わせると、この日本の現状は女性に対し不公平なだけでなく不合理である。性別によらず社会的機会が平等であり、その結果により多くの個人の努力や意欲が報いられる可能性の高い国になることの方が、生まれの属性で、特定の集団の社会的機会が制限される国より、はるかに望ましいことは言うまでもない。
GISTでは、日本のこの現状を打破すべく、日本の雇用や労働市場における3種の男女格差の原因と、それらの格差を取り除く政策を、実証的調査データ分析を通じて見いだすことを目的としている。3つの格差とは(1)男女賃金格差、(2)管理職割合の男女格差、(3)STEM(数理・科学・技術・工学)分野の専門職割合の男女格差、である。(2)と(3)は(1)の主要な成分でもある。この目的を達成するために、プロジェクトメンバーは:(a)企業内の人事政策や人事評価を通じた男女の不平等、(b)大学専攻の男女の分離など、教育課程を通じて生まれる男女の不平等、(c)職業スキルの分化とそのジェンダーとの相関が職業的地位の達成や賃金に生む男女格差、(d)社会における家族と教育の在り方を通じて生まれる性別役割態度や性別化した職業志向により生じる男女格差、(e)労働市場におけるジェンダー化された非正規雇用の拡大が生む、人材の不活用と男女の不平等、に主たる焦点を当てる。
このプロジェクトのチームメンバーは、男女平等な社会を目指すこのプロジェクトの目的に賛同する学際的かつ世代横断的男女の学者・研究者により構成されている。また、このプロジェクトのアドバイジング・オブザーバーにはこれまで男女平等な日本社会の実現に多大な貢献を果たした行政官や有識者の方々を招聘し着任していただいている。プロジェクト・チームメンバーおよびアドバイジング・オブザーバーについては、関連するページを参照されたい。
従来、医療における病理学が、病気の原因への理解を深めながら必ずしも治療法の開発に直接結び付かなかったように、男女の不平等の計量分析も、その原因を明らかにしながらも、なかなか社会改良に結び付いてこなかった経緯がある。本プロジェクトは、この点の反省に基づき、実効性のある社会改良政策・施策を導き出し得る分析に心がけつつ、社会科学の関連分野において第一線で活躍する多くの英知を結集しようとするものである。