リレーコラム:『日本の企業統治』をめぐって

コラム連載にあたって「リレーコラム:『日本の企業統治』をめぐって」

宮島 英昭
ファカルティフェロー / 早稲田大学 / WIAS

RIETIのコーポレート・ガバナンス研究会は、先ごろ、近年の研究成果を『日本の企業統治:その再設計と競争力の回復に向けて』(東洋経済新報社、2011年)にまとめました。同書では、銀行危機からリーマンショックを経て、現在にいたる日本の企業統治の進化を包括的に追跡しています。このプロジェクトに参加された方々は、経済学、経営学、金融論、会社法の分野で企業統治に関心を寄せる気鋭の研究者ばかりで、いずれも独自のデータセットの構築や最新の計量モデルによって分析を続けています。ただ、そのため、『日本の企業統治』も決して読みやすい本ではありません。厳密な計量分析が試みられ、なかなかそのエッセンスが理解しにくい面もあるかもしれません。しかし、その実証結果には、実は、「目から鱗が落ちるような」意外な事実が含まれていますし、逆に、これまで「恐らくそうだろうな」と思われていた見方に確固とした実証的な根拠が与えられています。

たとえば、

  • 統合により成立したメガバンクの銀行の顧客のモニターの実効性は、協調融資に参加する地方銀行の資金引き揚げの可能性が支えている可能性がある。
  • しばしば株式市場の圧力が企業経営を過度に短期化すると指摘されるが、そうした証拠は確認できない。
  • 海外機関投資家の株式保有比率の多寡と、企業パフォーマンスの間には確かに双方向の相関がありそうだ。
  • 外部取締役は、導入する必要のある企業ではむしろ回避され、導入に十分な理由のない企業でむしろ導入される傾向が強い。
  • 現在日本企業は、個々の事業組織(事業部・社内カンパニー・子会社)への権限移譲を進めているが、特に子会社への権限移譲ではそれに対応したモニターの整備が不十分であり、モラルハザードのおそれが強い。
  • 上場子会社はしばしば少数株主の利害を毀損すると批判されるが、そのパフォーマンスは決して低くなく、「収奪」が発生している証拠は乏しい。
などです。

そこで、このコラムでは、『日本の企業統治』の執筆者に、そのエッセンスをご紹介いただき、分析結果が現実の問題に対してもつ含みをご説明頂くこととました。このリレーコラムが、今後の企業戦略、企業組織を考える際のヒント、取締役会や報酬制度を設計する際のアイデアを提供できれば幸いです。

2011年8月11日

2011年8月11日掲載

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