広田真一著『株主主権を超えて:ステークホルダー型企業の理論と実証』(東洋経済新報社)
ステークホルダー型モデルの視点から現代の企業を経済学的に分析した研究は、世界的にみてもまだほとんど行われていません。これは株主主権の考え方が支配的なアメリカを中心に現代の経済学が発展したことと無縁ではないと思われます。本書においては、この現状に挑戦し、現代の先進国にふさわしい企業統治のかたちを検討します。本書を通じて、世の中を見るメガネを「株主主権型モデル」から「ステークホルダー型モデル」に付け替えることによって現実がいかに異なって見えるか、を実感していただければ幸いです。
東洋経済オンライン
宮島英昭編『日本の企業統治:その再設計と競争力の回復に向けて』(東洋経済新報社)
RIETIコーポレート・ガバナンス研究会の2009年度からの研究成果として、『日本の企業統治:その再設計と競争力の回復に向けて』が6月30日に出版されます。本書は、銀行危機からリーマンショックを経て、現在にいたる日本の企業統治の進化を包括的に追跡する点を課題としています。
この主題については、2000年に入ってから、本研究会の成果の一つであるAoki, Jackson and Miyajima eds., Corporate Governance in Japan: Institutional Change and Organizational Diversity, (Oxford University Press, 2007)を含め、多くの研究が内外で公刊されてきました。しかし、これまでの研究の多くは、実証分析の対象が不良債権問題の深刻化した2000年代初頭までにとどまり、その後、景気回復期の変化がカバーされていません。また、研究の関心は、米国型モデルへの収斂か多様性の持続かの問題に集中して、企業統治の変化が企業行動・パフォーマンスに与える影響の分析は手薄であり、それが分析された場合でも、伝統的日本企業の特徴がバブルや、その後の経済停滞をもたらした経路に主たる関心が置かれてきました。
それに対して、本書では、たんに、外部ガバナンス、取締役改革の変化ばかりでなく、企業統治と組織アーキテクチャとの関係、さらに企業統治と企業行動・企業パフォーマンスの関係などについて包括的な分析を試みています。新たなメインバンク関係の可能性、持合いの復活の実態と外国人投資家増加の機能、バイアウトファンドの経済的役割などについて本書は新たな見方を提示しています。また、本書が、企業統治と雇用システムの選択との関係、事業組織のガバナンスの実態とその問題点、上場子会社の経済的機能を解明した点は独自の貢献といえると思います。さらに、企業統治が、R&D投資、財務選択、配当・雇用政策に与えた影響を実証的に分析された点においても、本書はこれまでの類書にない広い視野を持っていると自負しております。最後に、本書では、現代の日本の企業統治が、日本型の関係ベースの仕組みと、米国型の市場ベースの仕組みの結合するバイブリッド型という独自な理解を示し、さらにこの制度変化(ハイブリッド化)にともなうコストの側面をあらたに強調しました。この最後の点は、いぜん仮説的な見方にとどまりますから、今後大方のご批判とご教示を仰ぎたいと思っております。
さらに、本書では、可能な限り世界金融危機の企業システムへ与える影響についても言及を試みました。世界金融危機の進展とともに、1980年以来の金融自由化、グローバル化の進展に対して、やや感情的に「行き過ぎた市場化」との批判が強まっていますが、本書の実証分析を通じて、「市場化」の影響に関する冷静な分析を提供することができればと期待しています。
RIETIコーポレート・ガバナンス研究会のこのコラムでは、今後、本書の各章のエッセンスと、その結論の政策的含意を順次、紹介していきたいと計画しております。日本の企業統治の改革・再設計に向けた議論に少しでも貢献できればと期待しています。また、読者諸氏からの忌憚のないご意見、今後の研究方向への提案を頂ければと存じます。