Research & Review (2006年1月号)

中小企業金融の現在を明らかにする

植杉 威一郎
研究員

はじめに

「バブル」と「失われた10年」の時代を通じて日本経済のメインプレイヤーは大銀行と大企業であった。すなわち、バブルの創出・膨張の立役者は大銀行と大企業であり、その崩壊によって最も大きな損失を被り長期にわたって呻吟したのもまた大銀行と大企業であった。しかし言うまでもなく、日本経済は大企業と大銀行だけで成り立っているわけではない。それどころか、日本の労働者の7割は中小企業に雇用され、付加価値の半分は中小企業によって創出されてきた。その意味で大企業と中小企業の共生が日本経済の本来の姿であるといえる。こうした視点にたてば、過去20年間は大企業・大銀行のプレゼンスが極度に高まったという意味でそこから乖離した特殊な時期である。「失われた10年」を脱出した後の日本経済のあるべき姿として「モノ造り」への回帰が主張されたり、銀行が将来の収益源として中小企業向け貸付の重要性を謳ったりするのは、大企業と中小企業が共生する本来の姿へと日本経済が戻りつつある証左といえる。

特に、中小企業がどのようにして円滑に資金を調達するかについては、内外からの強い関心がある。株式・社債など多様な資金調達手段を持つ大企業よりも、金融機関への依存度の高い中小企業において、資金調達の成否は、その存続・退出に直接影響する*1。こうした関心に応じて、国内でも金融機関による取り組みが進んでいる。スコアリングモデルに基づいた貸付、証券化、資産担保融資などはこれらの例である。しかし、新たな取り組みも、中小企業を取り巻く情報の非対称性とそれに伴う資金調達の困難さを根本的に解決するには程遠い。中小企業の円滑な資金調達は、古くて新しい問題であり、金融機関が、自らの業務の柱として中小企業向け貸付を位置づけるためにも、現状の的確な把握が必要である。加えて、大企業の少ない発展途上国では、自国企業の資金調達問題は、中小企業金融問題と同義である。彼らは、経済発展のために必要な金融システムは何かという観点から、先進国における中小企業金融のあり方を学ぼうとしている*2

RIETI企業金融研究会(リーダー:渡辺努一橋大学教授、マネージャー:植杉威一郎)では、このような認識に基づき、主に中小企業の金融面での行動を分析する。具体的には、最近整備された中小企業のマイクロデータを駆使することにより、中小企業金融の諸側面について統計的規則性を調べ、企業が直面する資金調達環境を明らかにしようとする。研究会では、これまでに10本のディスカッションペーパーをRIETIから公表している。更に、2006年2月にはRIETI内の他の研究会と合同で、FRBのエコノミストなども招いた国際政策シンポジウムを開催し、成果を広く議論する予定である。今回は、このうち筆者が関係した論文3本に基づき、厳しいと言われる中小企業の資金調達環境がどのような条件の下で変化するか、また、その変化が意味するものは何かを論じる。

中小企業のライフサイクルと資金調達環境

中小企業と一口に言っても、設立間もないハイテクベンチャーから先祖代々伝統の味を伝承してきた和菓子屋まで様々である。しかし、多様性の中にも、中小企業の資金調達に係る法則性が存在する。実務家は、老舗企業ほど低金利で資金調達すると語る。そこで、我々は、資金調達環境を示す変数として借入金利を用い、企業年齢を切り口として、中小企業における資金調達のダイナミズムを捉える*3

先行研究では、存続する企業が評判を蓄積する結果、彼らの払う金利が年齢と共に低下すると考える理論モデルがある。一方で、時間の経過と共に業績の悪い企業が金融機関によって選別され、高い金利を課された上で退出する点を強調する見方もある。これら2つは、存続企業のみに着目するか、また、存続企業と退出企業の違いに着目するかで視点が異なる。我々はこれらの見方を統合する。企業年齢と借入金利との関係を、加齢に伴い質の低い企業が選別される「淘汰」と、存続企業が行動を変化させる「適応」という2つのチャネルで捉える。これにより、淘汰と適応がそれぞれどう機能するか、淘汰と適応のいずれが資金調達環境に影響するかを検証できる*4

分析の結果、年齢が金利低下を通じて資金調達環境を改善することが明らかになる。しかし、分かるのはそれだけではない。まず、淘汰のチャネルを観察すると、ROAや自己資本比率の低い企業が高い金利を払い、デフォルトしている。これは、中小企業における淘汰のメカニズムが正常に機能していることを示す。大企業を対象とする先行研究では、90年代後半以降、質の低い企業への追い貸しが顕著に観察される。大企業で正常に働いていない淘汰機能が、中小企業では正常に機能している。次に、淘汰効果よりも適応効果が、資金調達環境をより大きく改善する。年齢による金利低下のうち、3分の1を淘汰が、3分の2を適応が占める。取引先や金融機関とのネットワークを構築して効率的になる企業が低い金利を適用される面が、質が低く高い金利を払っていた企業が退出することで全体の金利が下がる面を上回るということである。

バブル期以降、建設・不動産・卸小売のいわゆる構造不況業種を中心に、過剰債務を持ち業績不振の企業の存在が指摘されてきた。もちろん、非効率な企業は市場から退出すべきであり、中小企業の資金調達環境を改善する上でも、こうしたシュンペーター的な創造的破壊は効果を持つ。しかし、企業が支払う金利を低下させる上でより重要なのは、現在ある企業を生かし、適応という形で改革を進める漸進主義であることを、今回の結果は示唆する。

担保・保証人の役割

資金調達環境に影響する要因は、年齢だけではない。貸付の現場では、担保や保証人の提供を通じて、企業の資金調達は容易になる。特に、信用リスクを評価しにくい中小企業において、担保・保証人は重要であり、米国を含めた諸外国でも頻繁に利用されている。

にもかかわらず、日本では、担保・保証人の果たす役割はネガティブに評価されることが多い。2003年に金融庁は、「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」を取りまとめた。この背景となる報告書では、金融機関が、借り手企業とのリレーションシップから得られる目に見えない情報を活用せず、担保や保証人に過度に依存した融資を行っているのではないかと述べられている。ここでは、担保や保証人に基づく融資は非効率であり、適切なリレーションシップの確立によって、担保・保証人は代替されるはずであると想定している。日本では、担保・保証人は、企業の資金調達には役に立たない存在なのだろうか。我々は、この点を明らかにするべく、2001年以降の中小企業の資金調達に関するアンケート調査の個票を利用し、担保・保証人に関する仮説を検証する*5

結果は、担保・保証人が資金調達に前向きな役割を果たすことを示唆する。すなわち、(1)担保・保証人が、モラルハザードを起こしやすい高リスク企業で多く提供されている、(2)同じ信用リスクであっても、担保・保証人を提供する企業は、しない企業よりも頻繁に金融機関によるモニタリングを受けるし、長期間・多方面にわたるリレーションシップを構築する、というものである。現在の日本では、中小企業による担保・保証人の提供が、金融機関によるモニタリングやリレーションシップと、代替的ではなく補完的な関係を築いている。

昔のデータが無いために、今回の結果と、バブル期における「不動産担保があれば銀行はモニタリングを行わなかった」という一般的な見方とを定量的に比較することはできない。しかし、実務家に聞く限りでは、現在は、貸付時における担保の取扱いは、資産価格の下落もあってバブル期とは大きく異なっており、担保を得たからといって金融機関がモニタリングを怠けるとは考えにくい。以上から、担保資産を持っている企業では、担保や保証人の提供によって、資金調達が容易になる以上の便益が生じているようである。

公的信用保証の効果

最後に、公的関与、中でも信用保証制度が、中小企業の資金調達環境に与える影響について触れる*6。日本の信用保証制度は長い歴史を持ち、現時点で約30兆円の保証残高を有する。特に信用保証制度が脚光を浴びたのは、1998年10月から2001年3月にかけて特別信用保証制度が実施された時期である。当時の日本経済はデフレスパイラルの一歩手前にあり、中小企業も、金融機関による貸し渋りの影響を深刻に受けていた。これを緩和するべく、政府は、当時の日本全体における中小企業向け貸付の約1割にあたる30兆円を、信用保証枠として提供し、中小企業の資金制約を緩和しようとした。しかし、同時に、保証を受ける企業や貸付を行う金融機関がモラルハザードを起こす可能性を指摘し、制度の妥当性を批判する声も大きかった。

今回は、特別信用保証を利用した企業、利用しない企業合計約3000社について、1996年から2003年まで8年分の財務諸表データを追跡し、特別保証の前後の時期を比較することで効果を測定する。すると、特別保証制度は、対象企業の資金調達環境だけでなく、パフォーマンスを改善することが分かる。まず、(1)借入金の比率は、保証利用企業で非利用企業よりも大幅に上昇する。(2)有形固定資産が総資産に占める比率も、小幅ではあるが保証利用企業で上昇する。(3)全体の平均では、保証利用企業の利益率が非利用企業に比べて上昇する。(4)ただし、利益率では、信用保証利用の効果にばらつきがある。すなわち、信用リスクを示す自己資本比率の低いサンプルでは、保証利用のプラス効果が全く見られない一方、自己資本比率の高いサンプルでは、保証利用企業で利益率が上昇する。

この結果は、特別信用保証制度が、当時、貸し渋りの影響を深刻に受けていた中小企業の資金制約を緩和し、投資を促したことを意味する。資金制約下では不可能だった投資プロジェクトの実施により、全サンプル平均では企業の利益率は改善している。ただし、信用リスクの低い企業に比して、リスクの高い企業においては、資金制約の緩和が必ずしも効率的な投資に結びついていない。

おわりに

今回は、企業金融研究会において筆者が関係した3本の論文に基づき、日本の中小企業における資金配分の現状を、様々な角度から分析した。企業年齢に体現される評判、担保・保証人、公的信用保証制度といった要因が、いずれも資金配分の効率性を増すのに概ね貢献していることが分かった。

政策的なインプリケーションはいくつか存在する。まず、中小企業を取り巻く資金調達環境が、企業の退出よりも、存続企業のイノベーションを通じて大きく変化する点は、円滑な事業承継を通じて、既存の中小企業が存続を続けることの重要性を示唆する。高齢化により大幅に個人企業数が減少している現状を踏まえればなおさらである。

次に、モニタリングやリレーションシップと補完的な担保・保証人の提供は、金利をはじめとする他の貸付条件に適切に反映されていない。企業が円滑に担保を提供する環境を整える上でも、担保・保証人による信用リスク低下が金利に反映される与信審査が望まれる。同時に、担保となる資産を持たない企業に対する融資制度の充実も急務である。

最後に、信用保証制度利用企業の中で、信用リスクの低い企業がパフォーマンスを向上させる一方、信用リスクの高い企業における収益率が低迷するという事実は、信用保証の政策対象を考える上でも重要である。倒産の急増による社会不安を防ぐという観点から、信用リスクの高い企業への支援は正当化されるかもしれない。しかし、中小企業の経済効率性を改善するという目的のためには、信用保証制度の政策対象をリスクが高く収益率の低い企業に限定すべきではない。また、留意すべきは、今後、今回観察した信用保証制度による経済効率性の改善が、代位弁済として計上される財政コストに見合うかという検証を行う必要がある点である。これにより信用保証制度の政策評価が可能となる。

今回紹介した3本の論文を含め、企業金融研究会が公表する成果が、経済政策立案の現場で有効に活用されることを期待したい。

脚注

2006年1月27日掲載