Research & Review (2002年10月号)

TAMA(技術先進首都圏地域)産業空洞化に対抗する連携と新規事業創造の地域モデル

児玉 俊洋
上席研究員

量産型製品の生産の海外移転に伴う産業空洞化を回避するためには、それに替わる多品種少量で高付加価値の製品を生み出す産業が発展しなければならない。TAMA運動は、多数の産学連携及び企業間連携を通じた新製品、新事業のシステマティックな輩出によって、このような課題に答えるひとつの地域モデルを形成しようという取り組みである。

私は、平成8年7月から10年6月にかけて関東通商産業局(現関東経済産業局)に在籍していたおりに、TAMA産業活性化協議会(現「TAMA産業活性化協会」、正式名称「首都圏産業活性化協会」、以下、協議会時代を含めて「TAMA協会」という)の設立活動に従事していたので、経済産業研究所勤務の機会を得た現在、地域経済活性化や産学連携などとの関連において、TAMAを研究対象としてフォローアップしている。

本稿では、TAMA協会の協力を得て行った連携事例調査を基に、連携推進組織としてのTAMA協会のこれまでの活動成果を紹介するとともに、その政策的教訓を見たい。

TAMAとは

TAMAは、経済産業省が推進する「産業クラスター計画」の先行事例としても紹介されているのでご存じの方も多いと思うが、プロフィールを簡単に紹介する。TAMAとは、技術先進首都圏地域(Technology Advanced Metropolitan Area)の略で、埼玉県南西部、東京都多摩地区、神奈川県中央部にまたがる国道十六号線沿線を中心とする地域のことである。この地域には、1)大企業の開発拠点、2)理工系大学等の教育研究機関に加え、3)市場把握力に裏付けられた製品の企画開発力を持つ製品開発型中小企業、4)高精度、短納期の外注加工に対応できる基盤技術型中小企業が集積しており、新技術や新製品を生み出す母体として優れた経済主体の集積が形成されている。

これらの企業や大学等の間の連携を促進しようとの関東通商産業局の呼びかけに応じ、平成9年9月に地域のキーパーソン55名よりなる準備会が結成され、その活動を経て平成10年4月、中小企業を中心とする民間企業、大学及び公的研究機関、都県市町自治体及び商工団体等328会員(うち企業会員190)からなる「TAMA産業活性化協議会」が設立された。同協議会は、平成13年4月に、任意団体から社団法人に改組され、「(社)TAMA産業活性化協会」となった。その会員数は、平成14年8月1日現在426(うち企業会員267)である。

TAMA協会は、情報ネットワーク構築・運営、研究開発促進、インターンシップ、特許戦略セミナー、技術交流展示会兼受発注交換会、ビジネスプランマッチング、課題解決型企業訪問、ミニTAMA会、人材マッチングなどの諸事業を行い、会員間の連携・交流の促進と新規事業支援を行っている。また、平成12年7月には、TAMA協会を母体として、地域の十数校の理工系大学からTAMA協会会員企業への研究成果の移転を促進する技術移転機関「タマティーエルオー株式会社(TAMAーTLO)」を設立した。

新たな地域内連携の成立

今回、TAMA協会の協力を得て、TAMAにおける新製品開発のための産学及び企業間連携事例を収集調査(調査実施時期は昨年12月から本年3月)、その結果を分析し7月末に報告論文を作成した(http://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/02070006.html参照)。

調査対象全事例の集計表は第1表[PDF:12KB]の通りである。そのうち、本年3月までにTAMA協会が支援し、かつ、現在活動中(事業化又は開発進行中)の連携事例が、製品テーマ数で数えて23件確認され、そのうち20件は、TAMA協会の活動を通じて成立した連携プロジェクトであった(本年4月以降連携成立が明らかになった事例も多いが、それらの事例は含んでいない)。また、連携のイメージをわかりやすくするために、第2表[PDF:20KB]に、TAMA協会の活動を通じて成立した連携事例20件について、連携によって組み合わせられる技術シーズの名称を製品化担当企業の実名とともに掲載した。

TAMA協会の活動を通じて成立した20件は、1)TAMA協会が連携形成を主導した事例、2)会員企業による既成の連携チームが行う製品開発プロジェクトをTAMA協会が支援した事例、3)TAMA協会の活動が出会いの機会を提供した事例に分類される。

連携形成を主導した事例においては、プローブカード、化学センサ、デジタル制御機器など、TAMAに多い中堅・中小の計測制御機器メーカーに大学や研究機関のマイクロマシニング技術やマイクロ電子回路技術などの新技術を導入して、いくつものマイクロデバイス製品を開発することが主眼となっている。

20件のうち14件は開発進行中であり、既に事業化した事例は六件であるが、既に事業化した事例の代表例としては、TAMA協会が起業支援をした「電子チラシによる販促サービス」、電子線応用装置メーカーがTAMA協会の下での他のプロジェクトへの参加を通じて得たヒントに基づいて開発した「誘導結合型プラズマエッチング装置」などがある。

これらの連携事例の地域的属性を、TAMA協会非関与事例や非会員の連携事例のいわば自然発生的な連携と比べてみると、都県をまたがる広域でかつTAMA圏域内の連携が新たに成立していることがわかった。すなわち、開発の担い手として有望な企業や大学が存在しながら、従来は、開発連携の実例が少なかった(外注関係を通じた生産工程分業は広範に存在)TAMAにおいて、TAMA協会の活動を通じて製品開発を目的とした新たな地域内連携が成立し始めている。

クラスター形成と産学連携への教訓

(1)TAMA協会の活動成果が市場規模などにおいてはっきり目に見えるようになるまでにはさらに数年を要すると思われるが、中間的な成果として着実に連携事例の実績が上がっていることは、産学連携や、経済産業省と文部科学省が実施している地域クラスター形成に向けた政策にとって好材料である。

(2)しかしながら、クラスター形成運動が全国の他の地域でも成立するためには、運動の担い手となる(中心人物を含めできればなるべく多数の)人材の存在や地域主導の発想の必要性など課題は多い。ここでは、紙面の都合で次の二点のみ強調しておく。

1)TAMA連携事例における製品化の担い手は製品開発型中小企業(設計能力があり、自社製品の売上げがある中小企業)であり、製品開発型中小企業の存在がTAMA型クラスター形成運動の成立要件である。TAMAの多くの製品開発型中小企業の出自が大手・中堅企業の技術者のスピンオフであることを踏まえると、現在進行している大企業の人材流動化の流れは、各地の地域経済にとってチャンスであるとも言える。

2)「クラスター」は、本来地理的な範囲を含む概念である。現在、各地の経済産業局が推進している「産業クラスター計画」は各局管内全域を対象としたものが多いが、今後各プロジェクトが推進されるにつれて、クラスター形成に必然性のある地域的なくくりができてくることが望ましい姿であると言えよう。

(3)産学連携の一形態として大学人材による起業を意識した「大学発ベンチャー」への期待が高まっているが、TAMAの事例は、大学発技術シーズの企業による事業化や大企業人材による起業の有望性を示したものとなっている。

(注)本稿の意見は、筆者個人に属し、経済産業研究所や経済産業省の見解ではない。