経済社会の将来展望を踏まえた大学のあり方

藤田 昌久 (RIETI所長・CRO/甲南大学教授/京都大学経済研究所特任教授)

先進国また多くの新興国は、グローバル化の進展の中で、知識経済への転換という大きな変革を経験しつつある。その鍵を握る重要な組織制度の1つが大学である。世界経済の社会システム全体が大きく変化する中、大学が20世紀のままの姿であれば、今世紀の社会的要請にこたえることはできない。近年、多くの国で大学改革が進行しており、我が国もその例外ではない。

そのような状況を踏まえ、経済産業研究所では昨年度より研究会を組織し、さまざまな分野との相互関係に目配りをしつつ、中長期的な視点から大学のガバナンスに関わる政策提言を行うことを目的とし、法学者、経済学者、教育学者による多面的な議論を行ってきた。

本日のシンポジウムが、現在、錯綜した状態にある我が国の大学論議を大きく進展、発展させるきっかけになればと念願している。

薬師寺 泰蔵 (内閣府総合科学技術会議議員)

薬師寺氏の基調講演では、総合科学技術会議における大学に関する議論が紹介された後、今後議論すべき大学のガバナンスに関する10の質問が提示された。講演の中で、それらを考える上で重要な視点が提供された。

1. 日本の大学は、リジッドな社会システム構造の中で作られている。それ故、教員や学生の流動性が非常に少ない。流動化させるには、大学内のリジッドな序列、給与、定年制、退職金等のあり方を見直すことが必要となる。
2. 大学の設置形態は、大学が果たすべき目的と関連するのである。
3. 大学は誰のものかという問いは、それが正しい答えか、現実的な答えかということを踏まえて議論する必要がある。社会的な地位を得たいという理由から教授職に就く者、勉強をしない学生がいるという現実にも目を向けなければならない。
4. 大学の社会的地位に関しては、日本の場合、マーケットが決めているわけではない。序列の高い大学に進学することで、子どもが親族に孝行するという点から見ると、ランキングは、ソーシャルに重要な側面をもつ。
5. 大学の永続性に関しては、経営体と見るのか堅固な牙城と見るかで永続するのか枯れるのかが違う。経営的に見ないと、日本の国立大学が、国際レベルで枯れる可能性は大いにある。どのレベルで枯れるのか育つのかが重要である。
6. 大学が投資対象になりうるかどうかは、資金提供者に応じて考える必要がある。税金であれば、国民にどのような説明責任をとるのか、学生納付金であれば、学生の便益を考える必要がある。
7. 大学の国際化に関しては、日本の大学にどの程度外国人をいれるか考えなければならない。
8. 大学進学の必要性に関しては、それが生活を保障するものかどうかなどを含め、今一度議論する必要がある。
9. また、大学の社会的機能についても見直しを図らなければならない。
10. 最後に、大学の秩序に関しては、自然に遷移していくものか、デザインされるものか考える必要がある。大学間の秩序は、旧国立大学にみられる「覇権安定秩序型」、アメリカの州立大学システムにみられる「勢力均衡序列型」、連合大学等にみられる「相互依存型」、ドイツの大学等にみられる「国民国家型」に整理される。それぞれの特徴・問題点を踏まえて、今後のあり方を考える必要がある。

日本の大学改革は提示した10の質問に対するきちんとした答えを用意する必要がある。