RIETI政策シンポジウム

労働市場制度改革―日本の働き方をいかに変えるか

イベント概要

  • 日時:2008年4月4日(金) 9:30-18:30
  • 会場:経団連会館 国際会議場 (東京都千代田区大手町1-9-4 経団連会館11階)
  • 総括:「労働市場制度改革-日本の働き方をいかに変えるか」

    [総括コメントの概要]

    樋口氏による総括では、12本の報告論文が労働市場制度改革を考える際にどのように位置づけられるべきか、議論の整理が行われた。

    1. 労働法と労働経済学のこれまでのアプローチ
      • 10年前と比べて労働法学者と労働経済学者の議論はかみ合うようになってきた。この10年で何が進展したのか。法学の分野では、解釈論から立法論へ、経済学の分野では、外部労働市場への着目から企業組織や制度に関わるインセンティブの分析へ、それぞれ焦点が移ってきた。立法論を扱う法学と組織におけるインセンティブを扱う経済学には共通の関心が根付いている。
      • ただし、経済学の問題点は、どのような規制を行うべきかという理想論については議論してきたが、現状の国民の意識や価値観を十分に考慮してこなかった点にある。逆に、解釈論を扱ってきた従来の法学は、現実に焦点を置くばかりに何を目指すべきなのかについての議論がなされてこなかった。本シンポジウムは、双方の意識を融和させる取り組みを行った点で評価できる。
    2. 多様化と市場インフラの整備
      • 就業形態や労働者の価値観の多様化や契約の複雑化の中で、社会の公正性や公平性・効率性などの価値観をどのように捉えるべきか、法学も経済学も一定の見解を見出せない状態にある。多様化の中では、従来のように一律の価値基準に基づいて社会の目指すべき姿を描くことはできないし、従来の標準化された画一的な法規則では多様化・複雑化する社会を包含できない。国家がルールを決めても、実態との乖離が生じてしまう。
      • このように市場インフラ(法律、制度、文化、倫理、組織、慣習、その他の要因)が上手くコーディネートされていない状態では、たとえば、国民意識と法律に乖離があるなど、市場は低質なものとなっている。
      • それでは、どのようにして目指すべき社会を定義し、どのようにしてそれを実現するべきか。どのようにして市場インフラをコーディネートし、高質な市場を目指すべきか。
      • それには、まず、労働市場制度改革のプロセスにおいて動学的視点を持ち、改革の際に生じる摩擦や、国民意識の「慣性」によって生じる心理的コストの存在を考えることが重要である。本シンポジウムの各報告は、この改革プロセスを総合的に議論する際に役立つものである。
    3. 法制度の在り方に関する視点と法制度の運用に関する視点
      • 大きく分けて、総論・第一部・第二部では法制度の在り方に関する視点が、第三部・第四部では法制度の運用に関する視点が提示された。
      • 総論のセッションでは、八代氏と諏訪氏から、経済学と法学が労働市場制度改革をどのように捉えているのかについて、双方の視点から議論がなされた。また、鶴氏より、労働市場制度改革を行うにあたり、両者の視点を考慮した処方箋のパースペクティブが提案された。
      • 第一部では、労働者の多様化にどう対応するべきかという視点から川口氏・小嶌氏・森戸氏による議論が行われ、第二部では、大竹氏と奥平氏より実際の政策評価が示された。
      • 第三部では、水町氏と神林氏から、企業内コミュニケーションの有効性について、手続きを重視する欧米の手法の利点と、個別労働紛争処理制度との対応について議論があった。
      • 第四部では、守島氏と島田氏より、多様化した企業内における納得性の確立や外部労働市場の在り方に関する議論が行われた。
      • 特に、第三部・第四部では、企業内労使コミュニケーションを通じて、問題の本質に迫るような紛争の解決を目指すというアプローチが議論された。
      • このアプローチは、最近の日本でも採用されつつある。たとえば、ワーク・ライフ・バランス憲章が定める行動指針では、政府が制度の枠組みを用意した上で、具体的な取り組みについては労使間の話合いに委ねることが提起されている。
      • ただし、労使主体の解決アプローチに問題があることも認識されなければならない。非正規労働者が排除されたり、正社員でさえ共同体原理に基づいて抑圧される可能性があり、全て労使に任せるには限界がある。また、企業による取り組みの格差が大きいことも看過できない。外部経済(当事者以外)への配慮がなされない仕組みであることも問題だ。
      • 労使主体の解決アプローチについて、企業の取り組みを促進する法制度や市場制度にも議論の余地がある。有効な事後的チェック規制として、第三者が情報をチェックできる仕組みをどのように作るのか、また、熱心に取り組まない企業に対してどのようにインセンティブを与えるべきか。外部労働市場の整備としても、本来ならばボイス(社内で声を出し、不満を表明する)とイグジット(退職し、不満を表明する)のバランスが必要であり、ボイスのみの現状では限界があると考える。

    [閉会挨拶]

    • 少子高齢化の時代の中、労働環境は歴史的な転換を遂げつつあり、労働問題も多様化している。本シンポジウムの報告では、これらの問題に対して、経済学・法学・経営学の立場から多くの論点や視点が提供できたと考える。
    • 一方、「具体的に何がなされるべきか」については、さまざまな視点、論点があるであろう。RIETIは本問題について更に検討を深める必要があるとの認識を新たにするとともに、引き続き私どもの研究に対し皆様からのご叱正・ご鞭撻をお願い申し上げたい。