政策シンポジウム他

電力自由化:到達点と残された課題

イベント概要

  • 日時:2004年12月15日(水) 9:30-15:45
  • 会場:国際連合大学ウ・タント国際会議場(東京都渋谷区)
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり)
  • 第2セッション:「めざすべき電力自由化のあり方」

    八田教授から、「めざすべき電力自由化のありかた」と題して以下の報告が行われた。

    1. これまで電力自由化は工学的な立場で書かれた本が多かったが、初めて経済学の観点からの総括的な本として「電力自由化の経済学」を出版した。その第1章をベースに話をする。
    2. 自由化が行われる理由は、第1に、技術革新により発電分野で規模の経済性の重要性がなくなったことである。このため発電分野で競争原理の導入が試みられた。第2にITの発達により、電力会社内部でなくても多様な発電所へ瞬時に指令を出すことができるようになり、リアルタイム市場の中にさまざまな市場参加者の参加を可能にしている。
    3. 自由化の目的は第1に長期的な価格の低減である。燃料費の影響もあるのでいつも低下する訳ではないが、平均的には価格が下がる。その理由は、(1)総括原価主義からの脱皮(大口需要家での価格低減にその効果が現れている)、(2)ピーク時に課金する制度となり、ピーク時の需要が抑制され、発電機と送電線の過大な設備が不要になること、(3)地点別に送電料金を設定することで、発電所・需要家の効率的立地を促し、効率化に繋がること。
    4. 自由化の目的の第2は、安定供給にも資することである。スポット市場によるピーク需要抑制効果、混雑料金による地域間混雑の解消に繋がる発電所・需要家の効率的立地の誘発を見込むことができる。更にリアルタイム市場ができると、ピーク需要への過大な供給力準備という受動的対応から、需要の抑制や送電混雑を避ける発電立地を市場を通じて達成することができる。
    5. 自由化の成功例である北欧特にノルウェーでは、発電料金を決めるスポット市場とリアルタイム市場があり、スポット市場では北欧全体で需要曲線・供給曲線が形成され、その交点で価格が決まる。この情報が系統運用者(ISO)に伝えられる。工場の事故や予測誤差に伴う調整はISOが持つリアルタイム市場で行うことができる。
    6. 送電料金については、北欧の地点別送電料金制度という特色が日本でも必要だと考えている。需要超過地域で電気を買う場合には全国共通のシステム料金より高く、売る場合には補助金が出て、そして供給超過地域ではこれが逆になることで、潮流の改善に資する制度である。北欧ではこの制度が採用されている。この料金制度により発電所と需要家の効率的立地を促し、送電線の効率的利用に繋がる。スポット市場で適用される混雑料金も類似の効果が期待できる。
    7. 自由化すると価格が不安定になるという懸念があるが、北欧ではスポット価格とリンクする先物取引によりリスクヘッジしている。先物取引は物理的受け渡しを伴うものとそうではない金融的なものとがある。北欧では、ゾーンを越えた物理的相対取引は禁じられている。それは混雑が発生するゾーンを越える物理的取引では混雑料金をバイパスすることになるから。これに対してゾーンを越えた相手との取引でヘッジする手段が金融的な相対取引である。日本ではゾーンを越えた物理的先渡し市場を導入しようとしているが、これは最大の問題だと考えている。
    8. 日本の電力自由化を評価すると、まずリアルタイム市場が構築されていない問題がある。売り手と買い手の間にインバランスが生じたら、予め定められた料金が適用され、スポット市場の上限価格となる弊害がある。リアルタイム市場がないため最後のアンシラリー分など発電の部分がきちんと会計分離されていない。第2に地点料金が欠如していることが問題である。特にポステージスタンプ方式は問題である。潮流の流れに関係なく送電料金が決まるため効率的な地点への立地が促されない。第3にスポットマーケットに問題点がある。(1)相対取引の長期契約に混雑料金を免除する仕組みとなっている。(2)物理的先渡し市場は前日スポットマーケットを縮める危険がある。(3)混雑時には需要曲線も供給曲線も立った形になるため、供給側が売り惜しみをして値段を引き上げることができ、これに対してピーク時の価格監視が重要であり、取引所内部で監視を行うことになっているが、法的な担保がなく将来的に必要。最後にアンバンドリングについては、会計分離の徹底が必要。これは需給調整のための発電費用の明確化のためであり、また市場支配力の抑制のため、さらに、日本では発送電一貫体制という理念があり、リアルタイム市場ができないためである。

    この発表に対し、フルスト局長から以下の1.・2.のコメントがなされた。

    1. 自由化された発電市場では予備力を含めた多少過剰な発電設備が必要だと思われるがどうか。また、新規送電線の建設がBANANAやNIMBYといった問題があり困難化していることを考えると、既存の送電線利用を効率化することが優先されるべきであり、そのための送電料金のシグナルが重要だ。また、そのためにもアンバンドリングして戦略的な送電線の非効率的使用を防ぐ必要がある。発電能力と送電能力は代替的なものであり、送電線の効率的活用で新規発電能力を代替することができる。
    2. 電力系統の安定供給は全てを市場で解決することはできず、政府などが信頼度確保のための規制を行う必要がある。また価格変動について、消費者や一部の産業は価格の乱高下を望まないが、高水準でも安定的な価格をオファーすることは可能で、発電会社は市場でリスクをヘッジすることができるのではないか。

    これに対し、八田教授から以下の回答がなされた。

    1. 発電容量と送電容量が代替的なものであるという指摘は重要。送電料金の地域差は既存送電線を有効活用することになる。選択の自由についても、価格が変動してもそれをヘッジすることがスポットマーケットとセットになることが必要だ。発電施設の過剰能力については、自分の趣旨は、価格メカニズムが導入されると、ピーク時対応用の過大投資がなくなりコストが下がるということ。

    さらに会場から以下の質問がなされた。

    1. 地点別料金で東京の電気料金を高くするという話があったが、米国でも電気料金格差が最大で3倍あるが都市への集中が緩和されたと聞いていないがどうか。需要反応はDSMよりも効果があるのか。北欧では送電混雑が増加しているとの話があるが、価格シグナルがうまく機能していないのか。

    これに対して八田教授から1.、2.、フルスト局長から3.の回答がなされた。

    1. 電気料金だけで全てを解決できるわけではない。潮流に従った送電料金にすべきだということ。そのためには、北欧で行われているように、1単位東京での需要が増えた際に、全国での発電がそれを満たすように増えた場合の送電ロスを計算することもできる。混雑時に東京の中で需給が均衡するように混雑料金を特別にかけることもできる。
    2. 北欧では自由化開始時点では送電容量が余った状態であったが、その後需要が増えて空容量が減少しているが、料金を変えることが混雑が増えることを抑制するのに貢献している。
    3. 自分はDSMの専門家ではないが、例えばオランダの化学会社では、スポット価格が高すぎて化学品を製造するより電気を売る方が儲かったケースもあった。

    第3セッション:「北米およびヨーロッパ停電の教訓」

    フルスト局長から、「北米およびヨーロッパ停電の教訓」と題して以下の報告が行われた。

    1. IEAでは欧米の停電について評価報告書を作業しているが、まだ公にしていない。本日はその作業の中で学んだことを報告する。
    2. カリフォルニア電力危機は2003年の欧米での停電とは全く性格が異なる。カリフォルニアは長期にわたっての輪番停電であり、欠陥のある市場設計に起因した問題であった。最大の欠陥はプライス・キャップだった。需要家に卸価格を転嫁できる仕組みになっていなかった。またNIMBY現象のために10年にわたって発電所が建設されていなかった。市場設計の欠陥は、米国のある教授によれば、すべての主体に妥協したために起きた。政治的には完全でも現実には機能しない事例である。
    3. 2003年の欧米の停電は樹木管理が大きく影響していた。また系統運用者の状況把握が不十分で、系統運用者間の情報連絡も十分行われていなかった。北米北東部停電ではFirstEnergy社の問題、信頼度コーディネーターの問題、全体的な状況認識・情報連絡不足があった。完全復旧まで一週間以上かかった地域もあった(オンタリオ)。北米には信頼度基準はあったが、企業間の自主協定であり、全てが遵守されていなかった。このため、基準の強制化と系統運用者の能力向上がタスクフォースによって勧告されている。
    4. スカンジナビアの停電は複数の要因が重なって生じたのが原因だが、復旧までにかかった時間は数時間だった。要因は信頼度基準の問題だった。イタリアの停電はスイスでの樹木接触が原因であった。関係するイタリア、スイス、フランスの間で合同調査は行われず、イタリアとスイスの間で責任の擦り付け合いとなった。スイス側はイタリアの発電能力不足が原因としており、フランス・イタリア側はスイスが他の欧州と異なった基準を採用している点を指摘している。UCTEも報告書をまとめているが、スイスの事業者が適切な対応を取っていなかった点を指摘している。
    5. これらの停電についてIEAのワークショップで専門家による分析を行っている。2003年の欧米での停電は電力規制改革が責められるべきではないと考えている。電力改革で電力取引が活発化して潮流予測の困難化や長距離送電の増加という問題を生じたが、停電の原因ではない。IEAではTool、Training、Treesの3つのTと、Communication、Coordination、Cooperationの3つのCが重要だと考えている。欧米ともに信頼度基準の重要性が認識されるようになっている。

    これに対してセッション3のチェアである田辺副所長から以下の質問がなされた。

    1. 市場改革が停電の原因として非難されるべきではない、とご説明があったが、市場改革の結果電力取引の活発化や長距離送電の増加が起きているとは認めていると認識。市場改革が無ければそういったことは無かったのではないか。市場改革を行うことで得られる便益と市場改革の結果生じたコストの比較を立証された上でIEAの見解となったのか。

    これに対し、フルスト局長から以下の回答がなされた。

    1. カリフォルニアのケースは、構造的に発電容量の不足がある状態で、誤った自由化を行ったために、輪番停電を惹起した。もう一方の2003年の停電は市場改革が無くても起きたことだと思われる。停電と市場改革が全く関係ないわけではない。たとえば、市場改革ではアンバンドリングがなされる。それは、良いコミュニケーションが系統運用者と発電事業者の間、また系統運用者間で必要となることを意味する。アンバンドリングの帰結である。ただ何か間違いが起こると自由化のせいだというのはこじつけだ。(1)コミュニケーションが適切に行われるような改善、(2)手続きの標準化、(3)信頼度基準の標準化が必要。自由化が行われる以前にも大停電はあった。重要なのは、停電が起きたことより、復旧のためのスピードに注目することだ。