1 はじめに
われわれ人類は、ワクチン・治療薬が開発されるまで、COVID-19と共存せざるを得ない。その期間は、1年先かもしれないし、数年先になるかもしれない。しかもMERS・SARSなどを見れば分かるように、近年のコロナウイルスの変異は早く、かつ急速に強力になりつつあり、今後、さらに強力なウイルスが登場する可能性がある。われわれは次の新型ウイルス到来に備える必要がある。
今、第四次産業革命の真っただ中にあり、世界中の企業がデジタル化を推し進めていたが、COVID-19の影響で大きく落ち込んだ業績を回復するため、デジタル化の流れを一気に加速する。世界の強い企業が、さらに強くなる。わが国企業は、そのデジタル化の速い流れに追従しなければならない。
2 人間の働き場所の「最適化」が生産性を高めると気付いた企業
日本企業はこれまで、競争力または生産性の観点から、事業所やサプライチェーンの配置を「最適化」してきた。だが、人間の働き場所の「最適化」はしてこなかった。全員を1カ所に集め、9時から5時まで働かせるという大量集団方式である。明治時代に日本で発生した働き方が、日本企業にとって最大パフォーマンスを発揮させる「最適化」なのだろうか。恐らく「否」であろう。
これまでは、平均的で同一的な商品を大量生産する仕組みであったため、人間についても、同一的な人間を大量生産する教育が求められ、企業においても全員を1カ所に集め、9時から5時まで働かせるという大量集団方式でよかったのだろう。「出る杭は打たれる」「和を以って尊しと為す」という言葉が表現するように、仕事のパフォーマンスよりも、人間関係が重視された。だが、今の日本企業は、出る杭を打ち、会社の業績よりも和を大切にするほどの余裕はない。ある人は喫茶店でパソコンを打った方が、生産性が高いかもしれない。ある人は、片道2時間かけて通勤すると会社に着いたときには、疲れ切ってしまっているかもしれない。私見だが、今の若い人の中には「通勤時間は人生の無駄な時間だ」と公言する人々がかなり増えていると感じている。企業が社員に通勤ラッシュを耐えさせる根拠がほとんど見当たらなくなった。
昭和初期ならともかく、今の日本人は多様な個性と才能を持つ。個々人によって最大のパフォーマンスを発揮する「働き方」は恐らく全員同じであるはずがない。しかも、今回のCOVID-19の影響で、テレワークを実際に体験した人々の中には、その方が働きやすく、仕事の能率も上がることが分かった人々も多いだろう。企業はそういう人々を元の働き方に戻す理由がない。「なぜ、僕たちはあのような働き方をしていたのだろう?」と思っている人も多いのではないか(注1)。
日本企業はこれまで、人間の働き場所の「最適化」には無関心だったが、人間の働き場所を「最適化」すれば企業の生産性は増え、売り上げはもっと増えることを企業は理解したのである。
だが、人によっては、会社に出勤した方が、能率が上がるという人もいるだろうし、面と向かい合って話をした方が自分には合っているという人もいるだろう。同じ業務であっても人によって最適な「働き方」は違うのだ。業務内容によっては、リモート化してはいけない業務、必ずしもリモート化する必要がない業務がある。それをなんでもかんでもリモート化しろというのもまた企業のパフォーマンスを落とす要因になる。個々の人間にとって働きやすい環境を作ることが理想なのだ。すなわち、COVID-19がわれわれに突き付けた課題の本質は、「働き方改革」なのである。
3 新しく生まれた市場の需要を技術開発で一気に拡大せよ
今回のCOVID-19による大きな社会的ショックにより、新しく生まれた市場がある。例えば、新聞からいくつか拾ってみると、以下のようなものがある。
『日本経済新聞(電子版)』2020年9月7日「コロナ対策でロボ需要 人と協働、ファナック、3倍に増産」(最終閲覧日:2020年12月3日)
概要; 工場での感染リスクが高まる中、生産ラインで人間のそばで作業できるロボットの需要が高まり、ファナックは2021年には2020年の3倍に増産する。三菱電機や芝浦機械も参入する。
https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=1&ng=DGKKZO63509970W0A900C2MM8000&scode=6954&ba=1『日本経済新聞』2020年9月8日朝刊1面「世界の稼ぎ頭、激変 コロナ下でIT躍進 四半期純利益、アリババ43位→9位」
概要; 世界の上場企業約4万4千社の純利益をランキングした。対象は、2020年3~5月期、4~6月期、5~7月期の決算。ITや半導体関連が躍進し、金融やエネルギー、自動車がランキングを落とした。新型コロナの影響でデジタル化や脱炭素が加速している。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65180880Z11C20A0TJP000『日本経済新聞』2020年10月20日朝刊11面「コロナ下で時価総額が延びた企業、リモートが価値を生む」
概要; 日本経済新聞が売上高100億円以上の上場企業を対象に新型コロナウイルスの感染が拡大した3月末から半年で時価総額が伸びた企業をランキングしたところ、上位から、ログリーー(ネット広告)が6.9倍、すららネット(デジタル学習教材)が6.9倍、チェンジ(情報システム)が6.1倍などとなった。デジタル技術企業が目立った。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65180880Z11C20A0TJP000『日本経済新聞(電子版)』2020年10月31日「巨大IT、コロナでも独走、7~9月アマゾンなど3社最高益」(最終閲覧日:2020年12月3日)
概要; 2020年7~9月期決算では、アマゾンは売上高が+37%増、最終利益増減率は3倍となった。アルファベットの売上高は+14%増、純利益は+59%増などとなった。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65683880Q0A031C2EA5000『日本経済新聞』2020年11月4日朝刊9面「レノボ、7~9月で最高益、純利益+53%増、PCに在宅需要」
概要; 2020年7~9月期決算では、レノボは、純利益が前年同期比の+53%増の3.1億ドルとなり、過去最高の業績となった。在宅での需要が増えたことがパソコン販売を押し上げた。売上高は+7%増。地域別にみると中国、欧州、中東、アフリカが+19%増と成長の牽引となった。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65790960T01C20A1TJC000『日本経済新聞』2020年11月30日「企業価値100億円超 3割増 未上場スタートアップ コロナ下で成長」
概要; 日経新聞社が2020年「NEXTユニコーン調査」から企業価値が100億円以上の企業は2020年80社と昨年から3割増えた。上位20社の企業価値の合計は1兆2893億円と2019年比+9%増となった。コロナ下でもデジタル化に取り組む企業が育っている。」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66778130Y0A121C2MM8000『日本経済新聞』2020年11月31日「4~9月の営業増益額が大きい企業 コロナ下、交流手段提供」
概要; 日経新聞社がNEXT1000を対象に2020年4~9月の営業増益額をランキングしたところ、新型コロナで求められる新たなコミュニケーションを提供するIT企業が上位に目立った。1位のAI inside (手紙文字デジタル)は営業損益10.11億円(対前年同期比+8.32億円)、2位のJストリーム(ストリーミング配信)は同9.34億円(同+7.92億円)であった。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66812300Q0A131C2TJP000『日本経済新聞』2020年12月1日夕刊「Zoom純利益90倍」
概要; Zoomを運営する米国ズーム・ビデオ・コミュニケーションズは、2020年8~10月期の純利益が1億9844万ドル(前年同期比90倍)、売上高は、87億7719万ドル(同4.7倍)だったと発表した。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66837620R01C20A2MM0000「ユニクロ最高益へ 1650億円、コロナ収束想定―2021年8月期」時事ドットコムニュース, 2020年10月15日(最終閲覧日:2020年12月3日)
「ユニクロ」などを運営するファーストリテイリングは10月15日、2021年8月期の連結純利益が前期比82.6%増の1650億円と、過去最高を更新する見通しだと発表した。在宅勤務の浸透で、カジュアル衣料の販売が好調に推移していることも増益予想の背景にある。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020101501055&g=eco「クボタ 業務用空気清浄機の受注急増 これまでの10倍に増産へ」NHKネットニュース(2020年11月19日)
大手機械メーカーのクボタは、新型コロナウイルスの影響で、需要が急速に高まっている業務用の空気清浄機について、生産規模をおよそ10倍に増やす方針を固めた。パナソニックなど、ほかのメーカーも生産増強に動き出していて、競争が激しくなっている。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201119/k10012721611000.html
通常、市場はゆっくりと変化するため、企業は、売れない製品を停止し、売れる製品を増やすことで、ゆっくりと対応すればよい。だが、大きな社会的ショックにより、急激かつ大規模に市場が変化することがある。だが、そういった場合でも、需要がなくなった製品の生産を停止し、新しく需要が生まれた製品を開発し、さらに技術開発で市場の需要を拡大し、増産することで売り上げを増やす、という対応は、基本的には何も変わらない。
現時点の市場が小さいからと言って、ばかにしていけない。どんな市場でも最初は小さいものだ。携帯電話やパソコンも当初は小さな市場だった。現在小さな市場であっても、将来大きな市場に成長する可能性を秘めている。否、携帯電話やパソコンのように、技術開発で新しい製品を送り込み、消費者の需要を喚起し、市場を拡大するのである。それこそが、今、企業の進むべき王道であろう。
4 さいごに
人間と企業の行動が急激に変化することで、失われる市場もあれば、新しく創出され、発展する市場がある。新たな市場は間違いなく巨大でかつ、デジタル技術の有無により各社の優劣が決定づけられるものとなる。失われた市場に未練を持っても何も得することはない。今、われわれがなすべきことは、失われた市場はさっさと諦め、そして新しく生まれた市場を早く発見し、技術開発により、かつて家電分野でみられたように、市場の需要を刺激し、市場を急速に拡大させることだ。
新型コロナ後、企業は業績を回復するため、上記の流れが一気に加速するだろう。日本企業は、世界の潮流に乗り遅れてはならない。