新春特別コラム:2020年の日本経済を読む

日本はなぜデジタル分野で世界に大きく遅れたか

岩本 晃一
上席研究員(特任)

1 はじめに:デジタル人材の育成と問題点

今、日本では、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)と呼ばれる強力なプラットフォーマーに対する規制が議論されている。その一方で、なぜ日本では、GAFAのような強力な企業が育たなかったのか、という声も出ている。

政府は、「AI人材」「データサイエンティスト」など将来のデジタル社会を担う高度人材が大きく不足するとして、その人材育成に本腰を入れている。筆者のみるところ、デジタル人材の育成面では、日本はドイツの10年遅れ、米国に20年遅れであり、もはや世界に追いつくことは、なかなか容易ではない。

最近、日本企業では社内研修で「AI人材」「データサイエンティスト」を育てようという動きが出てきたが、日本には、その教官となる人材が40~50人程度しかいないと言われている。教官がおらず、十分なカリキュラムが組めない状態では、制度を作っても実効性はなかなか上がらない。筆者は、そうした企業の担当者には、「企業内で人材育成をするよりも米国の大学に留学に出す方がはるかに安くて早くてカリキュラムが充実しているので育成が確実である」として米国留学を勧めている。

デジタル社会において、日本企業が致命的な遅れを生み出した背景には、日本企業固有の情報化投資行動にあると考えている。AI人材とAI教官不足の問題はいずれも根は同じである。また、日本企業の生産性が低い背景もまた、同じところにある。

2 日本企業が持つ固有の行動

筆者はよく地方に講演に行くが、その後の懇親会などで、「IoT、AIなどデジタル技術を用いて、どうすればコスト削減、人員削減ができますか」とよく聞かれるが、「どうすれば、新しい商品やサービスを開発し、新しいビジネスモデルを生み出すことができますか」と聞かれたことはない。

私は「コスト削減や人員削減のような『守りの投資』と呼ばれるような投資でなく、新しい事業を始めて、売上を伸ばし、従業員の給与を上げ、ボーナスを配ってあげるような『攻めの投資』をしましょう。その方が、社員はわくわく感を感じますよ」と答えるが、なかなか賛同を得られない。この「守りの投資」の発想こそが、GAFAのような新しいビジネスモデルが日本から出てこなかった原因であると感じている。

デジタル技術に関して、こうした「守りの投資」の発想をする人は、主に企業のなかで経営に携わっている年配者に多い。若者たちは、世界のデジタル技術の動向に敏感であり、柔軟で創造的な発想を持っているが、会社の中で実権を持った年配者の経営者は、「難しいデジタル技術のことは分からない」などと言って、デジタルに近寄ろうとしない人々が多い。

なぜ年配の経営者が、ことデジタル投資に関する限り、「守りの投資」の発想をするのか、筆者にはよく分からない。しかしながら、現在、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)(注1)が一気に広がりを見せているが、AIのことがよく分からないと言っている人でも、人員削減のAIツールとなると、積極的に採用するものだ、と感じている。

「コスト削減」「人員削減」から生み出される利益は微々たるものでしかない。利益率が1%でも改善すればいい方だろう。その「投資対効果」の低さが、「情報化投資は儲からない」という思い込みを経営者にもたらし、ますます経営者は情報化投資に悪いイメージを持つようになるという悪循環、負のスパイラルに陥っている。「コスト削減」「人員削減」の投資は、成長会計にも寄与しないので、日本経済の潜在成長率を高めることにも役立たない。

こうした点はこれまで各種のレポート等で繰り返し指摘されてきたことであるが、直近では、平成30年度版情報通信白書が指摘している。「日本のICT投資額に対する米国のICT投資額を算出すると、1994年は1.4倍であったが、2016年には4.0倍と差が広がり、差が拡大している」「日本でICT投資が伸び悩んだのはICT資本ストック付加価値の創出効果が弱いため、新たなICT投資に結びつかなかったため」「我が国のICT投資の質や使われ方に課題があった」「付加価値増のためでなく、従来のシステムへの過剰適合や導入以前の組織や業務プロセスに合わせるために行われる」とし、既存の業務をそのまま情報機器に置き換えるだけのICT投資が多いためとしている(注2)。

3 さいごに:2020年に向けて

このような「守りの投資」の発想する人々が会社の経営者であったのなら、会社の若い社員が、もし、GAFAと同じビジネスモデルを提案したとしても、却下されただろう。外には出ていないが、そうした日本企業はこれまでもいくつもあったのではないか。

日本企業のこうした「守りのIT投資」と呼ばれる保守的な行動を変えるためには、日本企業の経営者層を一新しなければ、なかなか変わることはないと思われる。デジタル機器に慣れ親しんだ年代が、企業の経営者になる年代まで、日本企業経営者のデジタル嫌いは今後とも続だろう。

脚注
  1. ^ ホワイトカラーのデスクワーク(主に定型作業)を、ルールエンジンやAI(人工知能)などの技術を備えたソフトウェアのロボットが代行・自動化する概念。
  2. ^ 「平成30年度版情報通信白書」第3章第3節「ICTによる生産性向上の方策」参照
    https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/pdf/30honpen.pdf

2020年1月9日掲載