2019年は外国人労働者の受け入れに向けた新たな在留資格制度が始まる。今後ますます外国人労働者が増加すると考えられるが、本コラムでは現状を整理しながら、将来的にどのような問題が起こりうるのか議論することを通じて、今後の政策立案に寄与できればと考えている。
外国人労働者の受け入れ拡大の背景
急速に進む少子高齢化、そして人口減少社会という新たな局面に直面する日本において最も懸念されていることの1つが、労働力不足である。このような状況のもと政府が設定している目標とは労働力不足の解決であり、現在、そのための手段として様々な政策が議論されている。
労働力不足の解決という目標を達成するための政策的手段として、大きく分けて以下の5つの側面から議論がなされている(注1)。
- 出生率の上昇
- 女性・高齢者の就業促進
- 副業・兼業の促進
- 人工知能やロボット等の最新技術の導入
- 外国人労働者の受け入れ拡大
労働力不足の解決という観点から、それぞれの対応策には特徴がある。
1つ目の出生率の上昇は、これまでも政策的に支援を行ってきているが、労働力不足の解決としては時間のかかる長期的な手段である。
2つ目の女性・高齢者の就業促進は、労働力不足の解決として量的効果はあまり大きくないかもしれないが、高い能力・技能を持っているにも関わらず労働市場から退出しやすい人々の就業促進という意味では質的に大きい効果が期待される。
3つ目の副業・兼業の促進は、やはり労働力不足の量的効果は小さいかもしれないが、労働市場の流動性を高めることで労働需要の隙間を埋めるような政策となっている。
4つ目の人工知能やロボット等の最新技術の導入は、労働を代替するような最新技術によって労働力不足を解決しようという考え方に基づく。
そして、5つ目の外国人労働者の受け入れは、海外から労働者を受け入れることによって量的な意味で労働者不足を解決するという考え方である。
外国人労働者の受け入れは、他の手段と比較して、労働力不足の解決に対して政策効果の即効性が高く、量的にも大きな効果があると考えられる。既に一部の業種では人手不足が顕在化し、現制度を前提とした対応では限界を迎えている(注2)。このような背景もあり、今回の法改正が喫緊の課題として扱われていたと考えられる。
外国人労働者の受け入れに向けた新たな法制度
2019年4月より新たな在留資格「特定技能」として外国人労働者の在留許可が可能となる。外国人が日本で就労するための在留資格は他にも存在するが、新たな在留資格「特定技能」では、対象となる業種が人手不足の深刻な業種に限定される。
在留資格「特定技能」には1号と2号があり、「特定技能1号」は、更新不可の最長5年の滞在が許可されるが、家族帯同は認められていない。「特定技能2号」では、在留期間更新が可能となり、家族帯同も認められる。ただし、「特定技能2号」での外国人労働者の受け入れはまだ不確かな部分もある。つまり、該当する業種において外国人を採用したいと考える企業側がどこまで雇用環境を準備できているのかにも大きく依存する。当面は、「特定技能1号」を中心に新たな在留資格制度の運用が始まると考えられる。
政府は、今回の出入国管理法の改正は「移民政策ではない」ことを強調している(注3)。ここでの「移民政策ではない」という理由を推測すると、おそらく在留資格「特定技能」が「労働力不足の解決」という理念によって創設されたものという意味で、移民政策とは異なるという解釈があるようにも思われる。つまり、本来の移民政策とは、「労働力不足の解決」ではなく、より大きな理念のもとで日本での在留許可を意味するという思想が背後にあると考えられる。
将来的には、日本社会における幅広い業種・職種での外国人の受け入れは、遅かれ早かれ避けられないと考えられる。重要な点として、海外諸国で起こっているような移民問題をいかに最小限に抑えるのか、そして相互的に恩恵をもたらすためにどのような制度設計をすべきかについて、国民に納得のいくような議論を政府が進めていく必要があるということである。
日本は既に経験している
日本は1990年に出入国管理法を改正し、在留資格「定住者」において日系人の居住を許可している。当時は、好景気による人手不足の解消として、日系人の受け入れを決定した経緯を持つ。その結果、ブラジルやペルーを中心に多くの日系人が日本で就労することになり、現在に至る。
当時の経験をもとに、今後の政策立案に向けて2点だけ議論したい。1つ目が、不況による失業との関連である。2つ目が、家族帯同が認められる特定技能2号との関連である。
まず1点目と関連して、日系ブラジル人・ペルー人の日本で就業者数は徐々に増加するが、大きな問題は2008、2009年の世界的な大不況(日本でいうリーマンショック、英語ではthe Great Recession)によって顕在化する。つまり、人手不足としての受け入れを前提にした雇用であったため、不況時には日系人を雇用する必要性がなくなってしまったことにある。特に、非正規雇用が中心であった日系人は職を失い、新たな就職先も見つからない人々が続出する。結局、政府が「日系人離職者に対する帰国支援事業」として、金銭的理由で帰国できない人々に対し帰国費用の一定額を負担する代わりに、支援を受けた人々に対し今後は在留資格「定住者」として日本に居住することを禁止するという措置を表明するに至る(注4)。
ここでの教訓は、単純労働としての外国人の受け入れは景気動向に大きく影響されることである。人口減少社会だから今後も人手不足が続くだろうという憶測を前提にした制度では、不況になった場合、制度の綻びが顕在化する。これは欧米の経験から見ても、同様の現象が日本でも起こると想像できる。今後、不況が理由で外国人の代わりに日本人が解雇される、もしくは外国人労働者のみが解雇されるようになるならば、社会的対立を生み出し、日本は大きなリスクを抱えることになる。人手不足でない状況も含めて、事前にどのような問題が生じうるのか、その対処法はどうすべきかについて十分議論する必要がある(注5)。
次に2点目として、いわゆる出稼ぎ労働者として来日した日系ブラジル人・ペルー人は、日本での生活が安定するにつれ、家族を日本に呼び寄せることになる。もちろん日本で子供が生まれる家庭も存在する。ここでも問題が顕在化するが、彼らの子どもに対する教育体制が、日本の公教育の現場では整っていなかったことにある。
ここでは1つの事例を紹介するが、当時このような現状を解決しようと外国人学校を立ち上げた方がいる。静岡県浜松市にあるムンド・デ・アレグリア学校の校長先生である松本雅美氏である(注6、本コラムでの紹介にご快諾くださりに、心より感謝します)。私自身、2006年に直接学校を訪問させて頂いた経緯がある。
外国人学校を一から立ち上げ、経営するということは簡単なことではない。またボランティア活動として私財を投げ打っていては自身の生活が成り立たない。さらに日本の法律のもとで認可された学校で教育を受けたという証明は、子供が将来進学を目指す要件としても重要になってくる。学校の設立から運営までこれまでに様々な苦悩を抱えながらも、子どもたちに日本で学べる環境を提供したいという情熱が多くの人々の心を動かし、そして、数多くの卒業生を社会に送り出してきている。
将来的には、特定技能2号によって家族帯同を認められる外国人労働者も出てくるだろう。またその他の在留資格でも日本で働く外国人が増加すると考えられる。そして、彼らの子どもたちは日本で教育を受けることになる。もちろん外国で働くという決断は個人・家庭が決断した結果であり、子どもの教育も家庭内で一定の責任を負うことになる。ただ、もし外国人の子どもの教育が日本で軽んじられてしまうようならば、子どもの教育を真剣に考えている責任感のある外国人に日本に来て働いてもらうということは難しくなるだろう。
さいごに
外国人労働者の受け入れは各地域の社会・経済・文化に応じて様々な問題を引き起こしうる。志の高い人々の善意やボランティア活動があったからこそ、何とか成り立ってきたという側面もある。結局のところ、「労働者不足の解決」という視点にとらわれた過ぎた制度の歪みに対応するのは、法制度を議論している人々ではなく、現地における住民・企業・行政の方々である。もちろん事前に完璧な制度を設計することは不可能に近い。だからこそ多くの人々に伝え理解してもらえるような政策議論を今後益々進めていく必要がある(注7)。