令和6年能登半島地震によりでお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された方々に心からお見舞い申し上げます。
1. はじめに
令和6年1月1日に発生した能登半島地震による甚大な被害が明らかになっていく中、少しでも北陸の復興支援に寄与する学術研究をできればと思いさまざまな可能性を模索している。そのような中、1月25日に岸田首相より、地域経済を再生するための「なりわいの再建」の1つとして、「北陸応援割」による観光支援の実施の検討が明らかにされた(注1)(1月25日時点の情報に基づく)。
本レポートでは、関係人口の創出という観点から、元から人口減少下で行われていた地方創生と観光を通じた復興支援の在り方をとらえ直す。また、コロナ禍以降、私が取り組んできた人流データを用いた「地域魅力度指数」の研究成果を中心に、エビデンスに基づく政策形成(Evidence-based Policy Making, EBPM)の観点から、北陸復興支援としての観光政策をリアルタイムに評価・改善していくための一試案を議論する。
2. 地域魅力度指数の開発背景
政策立案・評価における大きな転換点として、2019年12月より始まった新型コロナウイルス感染症の流行がある。日々変化する感染状況に対して、判断材料となる十分なエビデンスが限られている中リアルタイムに判断をしなければならず、政策運営は非常に困難を極めたように感じる。専門家の立場としても喫緊の政策課題に対してリアルタイムにエビデンスを提供することが非常に難しかった。このように、一般的に従来型の統計調査では実施からデータ分析まで膨大な時間がかかるため、喫緊の政策課題にリアルタイムに十分に対応できないという課題が浮き彫りになった。
新たに大きな役割を果たしたのが、民間の保有するビッグデータ(いわゆるオルタナティブデータ)を活用した政策立案・評価である。人流データ、POSデータ、クレジットカードによる購買データ等が政策現場や学術研究で利用が進み、今後も日々の変動をとらえられるビッグデータを活用した政策体系の構築がますます重要になってきている。
リアルタイムに逐次の変化をとらえる政策形成・評価は、私たちが健康状態を知るために普段からバイタルサインを計測することと似ている。同様に、私たちが住む地域についても社会や経済の状態を知るためのバイタルサインとなる何らかの指標があるだろう。これは、新型コロナウイルス感染症の流行以降、経済産業省と内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局が提供するRESAS(地域経済分析システム)をより発展させたV-RESASの開発背景にあった考えでもある。
地域のバイタルサインとなる指標はさまざまな候補が考えられるだろうが、今回は「行き先としての地域の魅力度」となる指標を地域のバイタルサインの1つとして観測できないかと考えた。というのは、人口減少社会において地方では居住者としての人口は減少しつつあるが、地方には依然として多くの人々が訪れる魅力度の高い地域が数多く残されているからである。居住者としての人口規模や経済活動の規模に依存しない、より中立的な観点から、行き先としての地域の魅力度を定量化できないかというのが本研究の出発点である。地方創生では、観光以上移住未満として例えられたりするように、関係人口の創出と密接につながる指数の開発が念頭にある。
そもそも地域の魅力をどのように定量化することができるのであろうか。地域の魅力の評価軸は多種多様であり、主観的でもあり、定性的な側面もある。例えば、平日には訪れる人が少なくても休日になると多くの人が訪れる地域があったり、季節によっても地域の魅力は変わったりする。実際に訪れることができなくても、いつかは訪れたいという魅力的な地域もあるかもしれない。ただし、地域のバイタルサインとして計測するとなると、基となるデータが安定的かつ継続的に観測されていることが重要になる。アンケートで地域の魅力を調査することもできるが、時間も費用もかかってしまい、リアルタイムの変化を知りたいときにはすぐ知れないということになる。
近年は技術発展によりビッグデータの利用可能性が高まる中、「人流データ」が地域のバイタルサインを測るためのデータ源になるのではないかと着目した。そこで、人流データからさかのぼって、人々が暗黙に評価している地域の魅力度を定量化しようと考えた。私たちが客観的に観測できるものは、人々が地域を訪れたという事実のみであり、そこから突き詰める問いとは、「たくさんの行き先地域の選択肢がある中で、なぜその1つの地域を選択したのか」を考えることだろう。そのような人々の移動選択を理論モデルとして構築し、人流データと合わせることで、人々はどのような地域を魅力的に感じて訪れたのかという選好を定量的に評価していく。
人流データの扱いの難しさは、一種のネットワークデータであることに関係する。実際に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大予測として人流データが大きな注目を集めたがうまく生かしきれなかった場面も多かったように思われる。ネットワークデータとしての人流データとは、点として観測される情報ではなく、点と点を結ぶ線の情報になっているということである(ネットワーク分析では、点のことをノード、線のことをエッジと呼ぶ)。人流データの場合、出発地(Origin)と到着地(Destination)の2つの点の間で移動した人数のデータがよく扱われ、OriginとDestinationの頭文字からODデータ、ODフロー、OD行列等で呼ばれている。
地域魅力度指数では、出発地と到着地の2つの点を結ぶ線としての人流データから、理論モデルを通してみることで、より直感的で分かりやすい形で地域の魅力度を抽出している。詳細はKondo(2023)において議論しているが、もう少し具体的には、地域間を結ぶ線の情報を、理論モデルによって、地域ごとの点の情報へ集約できるのではないかという提案をしている。
以上の構想は、2022年3月より神戸大学とのクロスアポイントメント制度を通じて、「学術研究の社会実装」として取り組んでおり、その一環として、神戸市による令和4年度「大学発アーバンイノベーション神戸」に採択され、地域魅力度指数のコンセプトの精緻化、人流ビッグデータの入手、データ分析、Webアプリの開発まで取り組んできた。EBPMの重要性が叫ばれはじめたことを踏まえ、政策現場での社会実装につながる新たな挑戦的な試みとしてプロジェクトを進めている。
3. 地域魅力度指数の解釈
今回提案する地域魅力度指数はゼロ以下の数値(基本的には負の値)を取るように設計されており、ゼロに近いほど行き先としての地域魅力度が高いことを表す。ここでの地域魅力度とは、「行き先としての地域魅力度」を表しており、遠くのさまざまな地域からより多くの人々を引き寄せられる力を魅力度として計測している。従って自市区町村内の移動やあまりに近すぎる隣接市区町村からの人流データは考慮されておらず、居住地としての地域魅力度ではないことに注意する必要がある。遠方に住む人々をいかに関係人口として巻き込んでいるのかという指標として活用も考えられるかもしれない。 地域魅力度指数の直感的な解釈として、以下の図1、図2を参照してほしい。
今回提案する地域魅力度指数を直感的に理解するには、2地点間の移動人数と移動距離(対数値)の散布図が役立つだろう。図1、図2では、縦軸が移動人数、横軸が移動距離になっており、徐々に減少していくような曲線が描かれているが、この曲線の傾斜の緩やかさが地域魅力度指数になっている。例えば、図1のように傾斜が緩やかで遠くまで減少しにくいのであれば地域魅力度指数が高くなり、図2のように、傾斜が急でありすぐに減少してしまうのであれば地域魅力度指数は低くなる。
厳密には、図1、図2に示されている数式において、移動距離(対数値)の係数パラメータ推定値が地域魅力度指数として解釈されている。図1では、平日(weekdays)が-0.945、休日・祝日(weekends/holidays)が-0.962という数値、図2では、平日(weekdays)が-1.956、休日・祝日(weekends/holidays)には-1.838という数値が統計モデルの推定値から得られている。なお移動人数にはゼロの人数を含むため、両対数線形回帰モデルではなく非線形回帰モデルとしてゼロも考慮した定式化をしていることに注意が必要である(注2)。
この係数パラメータがゼロに近い(よりフラットな曲線になる)ということは、より遠くに居住する人々さえも強く引き寄せることが可能ということを意味する。学術研究では「距離の摩擦(friction of distance)」や「距離減衰(distance decay)」とも呼ばれるが、私たちは距離の摩擦の影響を大きく受けており、より遠くまで移動することが難しいことが観測されている。一般的には移動距離が長くなるにつれ移動費用が増加していくが、魅力度の高い地域は、この移動費用を小さくする何かを持っていると考えられる。
今回は市区町村を単位とした人流データを用いており、全ての市区町村から1つ1つの市区町村を到着地とするデータを推定することによって、各市区町村の地域魅力度指数を計測している。実際に調べてみると、市区町村ごとに異なった値を示しており、このパラメータ推定値のばらつきには、その地域がなぜ遠くからでも人を引き寄せることができるのかという問いに答えるための重要な情報が含まれている。どのような要因が地域魅力度指数を高くしたり低くしたりしているのかを調べることも重要であり今後の課題であるが、まずは各地域がどのような値を示すのかを第一歩として地域魅力度指数可視化システムの開発に取り組んだ。
この地域魅力度指数の利点は、同じ人流データかつ同じモデルを推定している限りは、地域間や異時点間でも比較可能である点である。例えば、全市区町村の中で自市区町村の位置付けを調べることもできる(ランキングとして見ることもできるが、順位のみで市区町村間の優劣を議論するのは建設的な見方ではない)。また、ある地域で何かイベントを実施する場合、多くの人々が訪れてくれると考えられるが、地域魅力度指数がどれほど上昇したのかを検証することもできる。
さらに人口規模に依存しない計測法を意図している。例えば、訪問者数のように人口規模に依存するような定式化にしてしまうと、地域間で比較する際には人口規模の小さな地方自治体では高い地域魅力度を示すことが難しくなってしまう。従って、人口規模に依存しないという視点を可能な限り考慮した地域魅力度の計測を試みているのが特徴である。
なお参考情報として、Webアプリでは全市区町村に占める非ゼロフロー割合も確認することができるようになっている。全市区町村数(政令指定都市内は区単位)は1896あり、分母は自市区町村を除いた1895、分子は移動人数がゼロではない市区町村間のつながりの数(エッジの数)になる。なお、このつながりの数が10以下の市区町村は地域魅力度指数の推定の信頼性の観点から分析の対象外とした。この全市区町村に占める非ゼロフロー割合は、ネットワーク分析における中心性指標の1つである次数中心性と同じ概念である。
4. 具体例の紹介
今回提案する地域魅力度指数の理解を深めるため、北陸地方を見る前に、全国からいくつかの特徴的な市区町村を取り上げる。全ての市区町村を取り上げることはできないが、他にも特徴的な地域魅力度指数を示す市区町村は多くある。何がそのような要因をもたらすのか、時には地図を見ながら、仮説をたてて調べていくと参考になるのではないかと思う(注3)。
4.1. 千葉県浦安市(市区町村コード:12227)
千葉県浦安市の地域魅力度指数は、図3に示すように、全期間を通じて-1前後で推移しており、この値は全国的にも最上位に分類される数値になっている。行き先として魅力度の高い市と言えるが、その理由として、東京ディズニーリゾートが考えられる。特に3月平日に指数が上昇することから、春休みの進級・卒業シーズンに全国から多くの人々を引き付けていると考えられる。性別や年齢層別にも調べられ、男性よりも女性にとって、60歳以上よりも60歳未満の方にとって魅力的な地域ということが言える。また、全市区町村に占める非ゼロフロー割合を見ると、全国のおよそ半数以上の市区町村から浦安市へ訪れていることも分かり、地域魅力度の高さを裏付ける要因にもなっている。
4.2. 大阪府大阪市此花区(市区町村コード:27204)
世界的なテーマパークとして有名なユニバーサル・スタジオ・ジャパンが立地する大阪府大阪市此花区の地域魅力度指数を見ると、図4に示すように、全期間を通じて-1前後で推移しており、千葉県浦安市と同様に、行き先として地域魅力度が非常に高いことが分かる。年間を通じて全国的にも最上位に分類されている。2025年大阪・関西万博の開催地でもあり、今後の大阪市此花区の地域魅力度指数がどのように変化するのかを検証することもできるだろう。
4.3. 兵庫県西宮市(市区町村コード:28202)
兵庫県西宮市の地域魅力度指数は、図5に示すように、-1.8から-2の間を推移しており、この値は全国の県庁所在地の市や中核市と比較しても少し高めの数値になっている。さらに、8月になると-1.2程度まで急上昇し、地域魅力度を押し上げる何か特別な要因があることが推察される。おそらく、夏の甲子園(全国高校野球選手権記念大会)の影響と考えられ、季節やイベント要因による影響を地域魅力度指数がとらえていることが分かる。
4.4. 沖縄県那覇市(市区町村コード:47201)
沖縄県那覇市は、沖縄観光の玄関口となる那覇空港もあり、沖縄県の中心的な市でもある。図6に示すように、梅雨の季節に若干低下するものの、地域魅力度指数は年間を通じて-1.1から-1.3の間で値が推移しており、年間を通じて変動が少ないのも特徴になっている。沖縄県へ訪れるには長距離移動が必要になるにもかかわらず、全国からたくさんの人を引き寄せるだけあって日本全国でも最上位に分類されるほど地域魅力度の高い地域である。
4.5. 長野県山ノ内町(市区町村コード:20561)
長野県山ノ内町は山間部にある町で、図7に示すように、地域魅力度指数は冬季(12月から3月)にかけて-0.5から-1の間で値が推移している。山ノ内町は志賀高原・北志賀高原や湯田中渋温泉郷等で知られる国内屈指の人気リゾート地であり、冬にはスキー場エリアとして人気もあることから、このような季節要因が地域魅力度指数に反映されていると考えられる(注4)。また8月9月にも地域魅力度指数が-1程度まで上昇していることが分かる。一方で、オフシーズンの時期には、-3程度まで下落してしまい、年間を通じて変動が激しい地域であることが分かる。人口規模は小さくても、季節によっては大都市以上の魅力度を持つ地域であることが分かり、山間部にはこのような特徴を示す町村が他にも多く見られる。
5. 北陸の地域魅力度指数と今後のモニタリングに向けて
北陸応援割の対象となる地域は、新潟県、富山県、石川県、福井県とされている。そこで各県の県庁所在地である新潟市中央区、富山市、金沢市、福井市を選択し、2015年9月から2016年8月までの地域魅力度指数がどのような値で推移していたのか図8から図11で紹介する。
地域魅力度指数を見ると、おおむね-2から-3の間に値が含まれている。地方の傾向として、年末年始の12月から1月にかけて地域魅力度指数が増加しやすく、この要因として、帰省が影響していると考えられる。地域ごとに特徴はさまざまではあるが、金沢市は-2前後で変動することが多く、季節によっては-1台になることもある。金沢市は北陸地方の中で年間を通じて地域魅力度指数が最も上位に分類されている地域である。北陸応援割のような観光支援策が、地域魅力度指数を-1程度まで上昇させることができるなら、日本の最上位の観光地に並ぶほどの影響であり、観光政策としては非常に大きなインパクトを持つと言えるだろう。
今後の観光動態を評価するに当たり、過去から最新年まで長期に地域魅力度指数がどのような推移をしているのかを調べるとともに、今後の北陸応援割の期間においてどのように地域魅力度指数が変化するのかをモニタリングしていくことが考えられる。また全国の市区町村を対象に同様のデータが取得できれば合成コントロール法(Synthetic Control Method)による政策評価もできるかもしれない。ただし、この変数だけでは全国からどれだけ広範に人を引き寄せているのかまでしか把握できないことには留意する必要がある。より拡張した分析として、観光庁が定めた全国共通基準に基づく調査により都道府県によっては詳細な観光地のデータが公表されているため、地域魅力度指数と複数の統計調査を統合することで、地域魅力度指数の増加と観光消費額の関係等の分析まで拡張可能かもしれない(注5)。このようなリアルタイムでのモニタリングと合わせて、中長期的な政策評価も平行して実施できる状況を整備することが望ましい。
復興ビジョンにおける観光政策の位置付けも議論の余地が残されているかもしれない。北陸応援割の意義として、脚注1の首相官邸のウェブページより、北陸4県で1月中だけで約17万件ものキャンセルが出ている点が挙げられている。ただし短期的に落ち込んだ観光需要を喚起するためだけの制度設計とするのか、長期的な視点から人口減少下における被災地の復興として関係人口の創出までを踏まえた制度設計にするのかで政策の目指す先は変わってくる。先に述べたように、「距離の摩擦」が存在するため、他の条件が同じとすると、出発地を考慮しない一律割引の場合、より近隣になるほどより強く政策に反応すると考えられる。自由に旅行先を決めることができたGo Toトラベル事業やその後の全国旅行支援とは異なり、北陸応援割はあらかじめ目的地が指定された観光需要喚起策になっているからである。
日本全国津々浦々、北陸を応援したい人々を関係人口として取り込みながら長期的な復興ビジョンを考えるならば、「距離の摩擦」を考慮した制度設計も考えられるのではないだろうか。アジャイル型政策形成・評価にもつながるが、制度が複雑になるため一律割引から開始することに問題はないが、もし北陸応援割の利用が十分行き届かない遠方地域が生じているならば、段階を踏んで政策を修正・拡充していくことも考えられるだろう。甚大な被害を受けた能登地方については、復興状況を見ながら手厚い旅行需要喚起策が別途行われるとされている。過疎地域で大きな被害を受け、今後の復旧・復興への先行きにも不安が募る中、日本全国から応援しに行くという意図を伝える長期的な復興ビジョンは欠かせない。
6. 地域魅力度指数の限界と今後の展望
今回提案した地域魅力度指数1つだけを持って、地域の全ての側面の魅力をとらえることができないことは自明であり、他にもさまざまな指標によって観光の現状がリアルタイムにモニタリングされ多面的に評価されることが望ましい。
地域魅力度指数は地域間や時系列で比較可能と説明したが、同じ人流データと同じ推定方法を適用したときのみという条件がある。異なる人流データであったり、対象となる地域区分が異なったり、別の推定法を用いたりすれば、出力される値も異なってしまうので比較をする際には注意が必要である。
地域魅力度指数は、特定の仮定に基づいて構築された理論モデルと人流データを合わせて得られる数値である。科学的な手続きに沿って推定しているが、主観的な側面も含まれていることには留意する必要がある。例えば、どのモデルを採用するのかは分析者の主観的な判断が介入することになる。また、人流データを用いた統計モデルを推定する際には、どのような人流データを利用するのか、どのように2地点間の距離を計測するのか、どのような推定法を用いるのか、点推定だけでなく信頼区間はどうするのか、サンプルサイズの大小が与える推定値の不安定さや、異常値が一部含まれることによる影響等、さまざまな観点から分析者が主観的に基準を設定して、ある程度の妥当的な値が得られるように推定を行っている。
もちろん個々の地域に対して意図的に地域魅力度指数を操作することはできないが、分析者の主観的な判断が含まれることでさまざまな批判が生じるだろう。データの可視化だけならばこのような批判は起こりにくいが、モデルの仮定や推定法等に分析者の主観的な側面を含むことで評価軸が複雑になり、懸念すべき点も増えてくる。ただ批判を受けることは悪いことではなく、膨大なデータからいかに本質的な情報を抽出するのかという課題へ一歩進むためには、理論モデルというレンズを通してデータを見ることが必要になってくる。今後もデータサイエンスの社会実装を扱うのであれば、常に疑問を検証できるような科学的な手続きに沿って、批判と対話できる形で日々改善していくことが求められるように思う。
科学的な手続きに沿って取り組むと述べたが、再現可能性ということに行きつくだろう。まずは恣意的操作の疑念を解消できるように、手法は論文として公表し、またGitHubを通じて可能な限りコードやデータはオープン化している。その上で、分析の枠組みへのさまざまな批判も出てきたり、現時点では気付いていない地域魅力度指数の注意すべき特性が後で見つかったり、より適切な指数の名称があったりするかもしれない。まだ十分な査読を受けた論文とは言えないため、本格的な実用化には慎重になるべき側面もあり、さまざまな批判の下で改善されていくことが望ましい。
今回提案した地域魅力度指数は、自市区町村を到着地とする人流データさえあれば各地方自治体が独立に計算することが可能である。民間企業の人流データをそのままオープン化することはできないが、理論モデルの推定値として得られた地域魅力度指数ならばオープンデータ化することも可能だろう。各自治体から地域魅力度がオープンデータ化されることで、条件を満たすならば、それを統合した全国版データセットの作成も可能になっていくと思われる。
今回はデータの制約もあり、RESAS APIから入手可能な「モバイル空間統計」(NTTドコモ)に基づく人流データをから2015年9月から2016年8月までの市区町村単位で月次単位の人流データより地域魅力度指数を計算したが、さらに小さな地域単位で、より直近まで長期間にわたり日次や週次単位の人流データを入手することができれば、より詳細な地域のバイタルサインを得ることができる。将来的に、学術研究の成果が政策現場で実装され、より良い社会を築くための支えになれば幸いである。
7. さいごに:関係人口の創出による復興へ
能登半島地震からの復興に向けて、モノやお金だけでなく、人の交流を生み出す観光は、地震からの復興という観点だけでなく、元から人口減少が進む地域において新たな関係人口の創出へとつながり、地方創生の観点からも重要な意味を持つだろう。地震からの復興と地方創生を同時に達成する手段として観光が果たす役割は大きいと考える。
今後の北陸応援割について、旅行者側に余震の状況を適切に伝えることも必要であるし、観光地側にとっても地区ごとに被災状況がまったく異なることや避難者の状況を鑑みた配慮が必要であるし、適切な対象時期・地域の案内やより望ましい制度設計の在り方についてのさまざまな声を踏まえて、全国のより多くの人々が納得した形で復興に関われる機会になることを期待したい。また中長期的な観点からは、北陸のことを「関係地域」(注6)として多くの人々が継続的なつながりを持つことで、将来的なインフラ投資の下支えになるだろう。人と人のつながりの力を信じて、一日も早い復興を願っている。