新春特別コラム:2018年の日本経済を読む

人手不足で低下するサービスの質
-統計に現れない物価上昇-

森川 正之 副所長

新春コラムは執筆者個人の責任で発表するものであり、経済産業研究所としての見解を示すものでは有りません。

労働力不足の深刻化にも関わらず、依然としてサービス物価の上昇率は低い。しかし、見かけ上の価格が変わっていなくても、サービスの質の低下という形で、真のサービス物価は統計上観察される数字よりも上昇している可能性が高い。2018年も景気拡大が続くとすれば、こうした傾向が強まると考えられる。

景気拡大と労働力不足の深刻化

2012年末以降5年にわたり景気拡張局面が続いており、労働力需給の逼迫感が強まっている。完全失業率は2.7%と1993年以来の低水準、有効求人倍率は1.56倍と1974年以来の高水準である。「日銀短観」のDIを見ると、労働力不足超(過剰-不足)は全規模・全産業で-31ポイントで、1992年以来25年ぶりの大幅な労働力不足である。特に、宿泊・飲食サービス、運輸サービスなど非製造業で人手不足感が顕著である(注1)。

内閣府や日銀による需給ギャップの試算値は、既にマクロ経済が需要超過となっていることを示している。そうした中、先般閣議了解された「政府経済見通し」は、2018年度の実質GDP成長率を1.8%と見込んでいる。これは多くの機関が推計している日本の潜在成長率を上回る数字であり、需要超過幅が拡大することを示唆している。仮に景気拡大が続くとすれば、労働力不足がさらに深刻化することは容易に予想できる。

しかし、労働力需給がタイト化する中にあっても物価上昇の勢いは弱い。コア消費者物価(CPI)上昇率は1%を下回っており、既にデフレではないものの政府・日銀が目標としている2%には距離がある。モノとサービスに分けて見ると、サービス物価の前年同月比は0%近傍である。鳥貴族、ハイディ日高、スカイラークといった外食サービス、ヤマト運輸、佐川急便といった宅配サービスなどで価格引き上げの動きが見られるが(注2)、集計レベルのサービスCPIを引き上げるには至っていない。そもそもサービス価格は硬直的で、上にも下にも改訂されにくい「サービス物価の粘着性」という特徴を持っていることが関わっている。長期デフレからの完全な脱却には、サービス物価の動向がカギを握っている(注3)。

人手不足によるサービスの質の低下

労働力不足が進む中、小売店、飲食店をはじめさまざまなサービスにおいて、レジや注文の待ち時間が長くなるなどサービスの水準が低下していると感じている人が多いのではないだろうか。この点に関連して、筆者が最近行った調査の結果を報告したい(注4)。具体的には、この1年ほどの間、人手不足の深刻化によって質が低下していると感じるサービスを、32種類の個人向けサービスから選択するという調査である。

質の低下を感じているサービスとして、宅配便、病院、食堂・レストラン、小中学校教育、コンビニエンスストア、行政サービス、タクシーなどを比較的多くの人が挙げた〔図1参照〕。いずれも労働集約度が高く、人手不足の影響を強く受けるサービスである。もちろん、選択肢には、多数の消費者が頻繁に利用するもの、一部の人が時々利用するものなどさまざまなサービスが含まれているため、単純に回答数の多寡をもってそのサービスの質がより低下しているといった横断的な比較はできない。しかし、多くの消費者がさまざまなサービスの質の低下を実感し始めていることは間違いない。

図1:人手不足の深刻化により質が低下していると感じるサービス
図1:人手不足の深刻化により質が低下していると感じるサービス

見かけ上の販売価格が変わらなくても、財・サービスの質が低下すれば、真の価格は上昇したことになる。モノの場合、たとえば原料価格が高騰した時、容量を小さくしたり原料を変えたりして販売価格を一定に維持することがあるが、これは実質的には価格上昇である。サービスでも同様で、同じ値段でサービスの質が落ちた場合には価格上昇を意味する。

しかし、CPIはこのようなサービスの質の変化を反映しないので、統計には表れない物価上昇ということになる。一般論として言えば、不況で労働市場が緩い時には統計で把握されるサービス物価上昇率は過大に、好景気で労働需給が逼迫しているときには過小になる可能性が高い。CPIに占めるサービスのウエイトは5割強あるため、仮にサービスの質が1年間に1%低下したとすれば、真のCPI上昇率は0.5%ポイント程度高いことになる。別の角度から見ると、労働力不足の時期には、物価変動を補正した実質経済成長率や生産性上昇率が真の伸び率よりも過大評価される可能性が高い。

消費者の多様性とサービスの質

上述のアンケート調査からサービスの質が何%低下したのかを推測することはできないが、いくつかのサービスを例に、サービスの質に対して支払っても良い価格(Willingness to pay: WTP)がどの程度なのか調査した結果を、参考のために示しておきたい。宅配サービスにおける時間帯指定の配達で、確実に指定した時間帯内に配達される場合と、±1時間の誤差がありうる場合とを比較した場合、配達時間の確実さに対するWTPは、平均値で17%、中央値で10%だった。飲食店の場合、料理の内容など他の条件が同じだとしたとき、店員がサービスを行う店とセルフサービスの店を比較すると、前者へのWTPは平均値15%、中央値10%であった。サービスの質の違いを価格差に換算した場合、無視できない大きさになることを示唆している。

ただし、宅配サービス、飲食店のいずれでも、WTPの高い方から1割の人は30%、低い方から1割の人は5%のWTPであり、個々の消費者によって質の高いサービスへの支払意思額には大きな差がある。所得水準、年齢、時間的な余裕の有無といった個人特性の違いも関係しているが、それらでは説明できない個人差の方が大きい。

日本のサービスの質は海外に比べて過剰だという議論があるが、日本人の中でも個人による異質性が大きいことに注意する必要がある。再び宅配サービスを例に取ると、約8割の個人は時間指定の配達などの付加的なサービスの有無によって価格差を設けるのが望ましいと回答している。労働力不足が深刻化する中、サービス経営の観点からは、サービスの質が過剰なのか適正なのか、したがって一律に質を下げるべきかどうかという発想ではなく、多様な消費者のWTPに応じたサービスの差別化とそれに見合った価格設定というアプローチが期待される。

脚注
  1. ^ 完全失業率、有効求人倍率とも2017年11月現在の数字。「日銀短観」は12月調査。
  2. ^ 2017年12月18日付け「日本経済新聞」参照。
  3. ^ 森川正之 (2016), 『サービス立国論』, 日本経済新聞社, 第7章参照。
  4. ^ 調査実施時点は2017年11月、サンプル数は1万41人。

2018年1月4日掲載

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