新春特別コラム:2014年の日本経済を読む

日本経済の「中期経営計画」としてみる2014年

後藤 康雄
上席研究員

昨年は、誰しもが経済のムードが変わったと実感した1年だったろう。景気は一貫して回復基調をたどり、株価は大きく上昇、為替は大幅に円安化した。こうしたマクロ経済環境を追い風に、過去最高益をあげる企業が続出した。以下では、こうした流れも踏まえながら、2014年の日本経済と政策を中期的な流れのなかで考えてみたい。

上場しているような、それなりに規模が大きい企業であれば、3~5年程度の行動計画をまとめた「中期経営計画(中計)」を必ず持っている。経済の運営も、目先の景気動向だけでなく、中期的な流れとしてとらえる視点が重要である。昨年の日本経済は、安倍政権の経済政策である「アベノミクス」が本格始動した年として、企業でいうところの“中計”の初年度と位置づけられる。そして、それは上出来のパフォーマンスで終えたという評価が一般的だろう。しかし、アベノミクスの評価は初年度で完結するものではない。“中計”をどこまで実行できるかにかかっている。

経済政策の成否の鍵を握るのは、政策とマクロ経済の相互作用

中期的な経済政策の成否の鍵を握るのは、政策とマクロ経済の相互作用である。政策はマクロ経済を大きく左右する。その一方で、マクロ経済の動きは政策のゆくえを左右する。マクロ経済環境が厳しいなかでは、必要と分かっていても、痛みを伴う政策の遂行は現実には困難となる。

そうした意味で、まずアベノミクスの“中計”初年は恵まれたスタートを切った。確かに昨年の経済や市況の好転にアベノミクスが貢献した部分は少なくないだろう。しかし、中期タームで振り返れば、「百年に一度」の未曾有の出来事ともいわれた2008年秋のリーマン・ショック、2009年以降から世界経済の重石となり続けた欧州債務危機、「千年に一度」とも表現された2011年の東日本大震災と、日本経済にとっては不可抗力のネガティブ・ショックが襲い続けていた。その影響が2013年は剥げ落ちるタイミングにあったため、ある意味で、自然体でも経済は立ち直る方向にあったといえる。為替や株価の動きも然りである。

さらに長期的な視点でも、経済は上げ潮の流れに乗りやすいタイミングにあった。1990年頃にバブルが崩壊し、その後日本経済は“失われた20年”を経ることになったが、不良債権問題をはじめ、バブルの負の遺産もほぼ解消している。こうした好環境で実施されたアベノミクスは、確かに景気を後押しはしただろう。歴史にifはないが、しかし、もし強い逆風が吹くなかで同じことをしていたら、結果の印象は大きく異なるものになっていただろう。

2014年は日本経済の中期経営計画に本腰をすえて取り組むべき年

筆者はアベノミクスに水を差すつもりでこういっているのではない。経済が政策を後押しするまたとない好機にあるなか、2014年は“中計”の次年度として、重要な経済政策を議論し、推進する重要な意味を持つ年になると考えているのである。重要な経済政策の筆頭が財政再建への布石である。その最大の焦点の1つが消費税率引き上げの議論である。4月の税率引き上げはすでに決まっており、問題は2015年の再引き上げの判断である。政策スケジュールを鑑みると、年末までには判断を迫られることになりそうである。

消費税について、多くの日本人には、税率を引き上げると景気を著しく冷え込ませるというトラウマがある。しかし、そのイメージは、直近97年4月の引き上げ後に形成されたものに過ぎない。最初の引き上げ(89年4月)はバブル末期の局面で行われ、その後も景気は91年初頭まで拡大を続けた。また、欧州を中心とする海外諸国の経験からしても、消費税率引き上げは必ずしも景気の冷え込みにはつながらない。

97年当時のマクロ経済環境を振り返ると、昨年とは逆に、自然体でも景気は落ち込む流れにあったといえる。不良債権問題の先送りは限界に達し、金融システム不安が火を噴く寸前の状態であった。また、アジア通貨危機が勃発し、輸出に大きな下押し圧力がかかることになった。消費税率引き上げを中心とする財政再建の取り組みが、景気をさらに押し下げた面はあるだろうが、主因だったといえるかは疑わしいと筆者は考えている。しかし、そのときのイメージが刷り込まれ、消費税率の引き上げは永らく封印されることになった。経済が政策の流れを変えた代表例といえるだろう。今回の引き上げは、その封印を解いてトラウマを解消できるかという重要な意味を持つ。

財政再建との関連でいえば、社会保障改革も待ったなしの重要課題である。政治的には非常に難易度が高いテーマだが、マクロ経済との連動性を強めるなどの仕組みを導入するタイミングとして、景気が上り調子にある局面のほうが議論しやすいのは間違いない。

財政再建以外でも経済政策上の課題は山積している。たとえば、産業の新陳代謝の促進も日本経済の成長性や競争力を高めるために避けて通れない課題である。しかし、新陳代謝の過程では、市場から退出するプレイヤーに痛みが伴う。その痛みを和らげる意味でも、景気が上向きの局面のほうが施策を講じやすい。

衆議院が解散されなければ、次の国政選挙は2016年までない。それまでは、現政権にとって「黄金の3年間」などとも呼ばれているようである。しかし、日本経済の中期経営計画に本腰をすえて取り組むべき年としてとらえると、2014年は、立法府、行政府として気を抜けるどころか、正念場となるべき年である。

2014年1月10日

2014年1月10日掲載

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