組織におけるサボタージュの度合いと労働者の職場選択

亀井 憲樹
リサーチアソシエイト

組織内における怠業の抑止、成果に対する適切なインセンティブ付与、チームワークにおける協働・協力、そして労働者間の信頼。業績に基づく労働者の動機づけは、組織の制度設計における根幹の一つである。報酬制度としては、出来高制、同僚間の相対的序列に基づいて報酬額を決めるトーナメント制、レベニュー・シェアなど、さまざまな仕組みがある。過去の研究によると、金銭インセンティブが高いほど―すなわち社内競争が激しいほど―労働者のエフォート選択と労働生産性を高めうることが示されている。しかしながら、強い業績給は企業内に大きな賃金格差を生み出すという負の側面がある。

強い賃金格差は、職場に非協力的な規範を生じさせるだけでなく、同僚の生産活動を妨害する行為も誘発することもある。そのような行為は「サボタージュ」と呼ばれる。従業員が生産性向上に資する活動ではなく、サボタージュに時間を費やすことは非生産的であり、職場内の士気や調和も損なう。Edward Lazear(注1)は、サボタージュは企業の生産活動にとって有害であるため、それを抑制する目的で、従業員間の報酬格差をあえて縮小することが企業利益にかなう場合があると論じている。

では、賃金格差は実際にどの程度、労働者の非生産的行動を誘発するのか。また、人々は就職先を選ぶ際、サボタージュのリスクをどの程度考慮するのか。筆者は、米ユタ大学のデュガー教授と共同で、インドにおいてフィールド実験を実施し、この問いを分析・考察した(注2)。フィールド実験は、通常の実験室内実験(ラボ実験)に比べて外的妥当性が高い手法として知られている(注3)。本コラムでは、その実験結果を紹介する。実験結果によると、サボタージュ規範の強い職場環境は、人々に強く回避されることが示唆されている。

経済実験

インド・西ベンガル地方バシルハットの九つの村の村民を対象に、2023年12月、2024年6月と2024年11月に実験を行った。参加者は、野菜の包装(梱包、パッキングなど)作業を職業としている村民に限定し、最低6カ月以上の包装経験を条件として、60分間のパートタイム労働として募集された。その結果、参加者の包装作業に関する平均職業経験年数は3.4年であった。実験実施日にはビルを貸し切り、研究チームは図1パネルAに示す作業場を各フロアに設営し、参加者はトマトをバスケット(パネルB)に詰める作業に取り組んだ。詰められたトマトは実際にコルカタ(Kolkata)の市場へ出荷・販売されるものであり、作業は現実の仕事として行われた。

具体的には、参加者は匿名の他の参加者と3人一組のグループに割り振られ、独立にトマト詰め作業を計3回行った。各作業では、グループ内の成果の相対的序列に基づいて報酬が支払われた。実験ではまず、以下の二つの報酬制度のもとで、各参加者が順にトマト詰め作業を行った。スキームSは報酬格差の小さい制度、スキームLは報酬格差の大きい制度である。

  • スキームS(Small):各グループで最も成果の高い人が600インドルビー、残り2人が400インドルビーを受け取る。
  • スキームL(Large):各グループで最も成果の高い人が1,000インドルビー、残り2人が200インドルビーを受け取る。

その後、参加者は両方の制度を経験したうえで、どちらの報酬制度の下で働きたいかを自ら選択し、3回目のトマト詰め作業に従事した。

この実験の目的は、(a)賃金格差とサボタージュ行動の関係、さらに(b)サボタージュ規範と職場選択の関係を検証することである。そのため、サボタージュ規範の度合いを操作するために二種類の実験条件を設計した。参加者は、ランダムにいずれか一方の条件に割り振られ、その条件のもとでのみトマト詰め作業を行った(被験者間計画)。一つ目の条件は、各作業者の成果が、パッキング作業に10年以上従事してきた第三者の熟練作業員によって匿名評価される条件である。評価対象は、詰めたトマトの個数だけでなく、詰め方の質も含まれる。この条件では、参加者は他の参加者の成果に直接影響を与えることができない。この実験条件を「第三者評価」条件と呼ぶ。

二つ目は、同じグループ内でメンバー同士が、互いのバスケットのトマトの個数と詰め方の質を評価し合う条件である。各参加者の成果は、同じグループの他の2人による評価の平均によって決定された。この条件を「ピア評価」条件と呼ぶ。この条件では、参加者は他者を過小評価することで、自らの勝利確率を高めることができるため、サボタージュへの強い誘因が生じる。なお、「ピア評価」条件における参加者の過小評価の可能性と度合いを測定するため、「第三者評価」条件で評価を担当した熟練作業員が、内密で「ピア評価」条件のバスケットについても評価を行っている。

労働者のサボタージュ行動(過小評価の度合い)は、スキームSとLで異なるだろうか。スキーム選好は、「第三者評価」条件と「ピア評価」条件でどのように異なるだろうか。

実験結果と示唆

「ピア評価」条件の実験に参加した村民は、第三者の熟練作業員による評価に比べて、互いに低い評価を付け合った(図1パネルC)。その過小評価の度合いは、スキームSでは8.1%、スキームLでは31.6%であり、成果の相対的序列によって大きな賃金格差が生じる場合ほど、サボタージュが深刻化することが示された。

労働環境におけるサボタージュ行動は、人々の報酬制度に対する選好にも大きく影響を与える。サボタージュの余地がない「第三者評価」条件では、100%の村民は賃金格差の大きいスキームLを選んだ(図1パネルD)。包装に経験のある作業員は、作業に強い成果給があることを望んでいたことがわかる。選択前のトマト詰め作業のデータによると、実際にトマト詰め作業でも、スキームSよりスキームLで高い生産性を実現できることが示唆されている。

一方、サボタージュが生じうる「ピア評価」条件では、スキームLにおける他者からの強い妨害行動を嫌い、91.1%の村民が賃金格差の小さいスキームSを選択した。すなわち、サボタージュの可能性の有無によって、報酬制度に対する選好が大きく逆転したのである。この結果は、人々がサボタージュ規範の存在する労働環境を強く嫌うことを意味する。そして、賃金の圧縮と公平性を重視する制度設計(Lazear, 1989)が、労働者側の需要にもかなう可能性を示唆している。

この選好逆転の結果は、政策的含意も大きい。すなわち、企業にとって望ましい報酬制度の設計は、モニタリング環境に大きく依存する可能性がある。同僚間でサボタージュが起きにくく、従業員の成果を客観的に評価できる場合には、大きな賃金格差を伴うトーナメント制度がうまく機能しうる。しかし、サボタージュの監視や抑制が難しい場合には、別の対策が必要となる。本結果は、賃金格差を圧縮することが職場の調和を促し、結果として優秀な人材を引き付ける可能性を示唆している。また、人々は成果に対する正当で高い報酬を求める傾向にもあるため、サボタージュ規範の形成を防ぐため、サボタージュが発覚した場合に罰則(例:減給)を設けるなど、現実には適切な成果給を保ったうえでサボタージュを行いにくくする制度的工夫も有益であるともいえる。

企業は、単に「強い成果主義」や「社内競争」を導入すればよいわけではなく、人々の行動特性への配慮が必要である。本研究は、人事評価制度の客観性や透明性を高めることの重要性を示している。例えば、外部の評価者を活用したり、定量的な指標を整備することによって、恣意的な低評価や職場内サボタージュを抑制できるかもしれない。また、望ましい制度設計は作業の性質にも依存するだろう。例えば、チーム生産や共同作業が重要な職場では、大きな賃金格差によって個人間競争を過度に強めるよりも、チーム単位の報酬制度や協力を促す仕組みの方が、生産性向上につながるかもしれない。さらに、企業文化や職場規範の形成も重要な政策課題だ。サボタージュを容認しない規範を組織内で醸成・共有することで、労働者が自律的に非生産的行動を控える環境を作れるかもしれない。協力的で公平な職場環境そのものが、労働者にとって重要な非金銭的な魅力でありうる。「協力・調和・士気を壊さない範囲内で」どのように競争を設計したらよいのか。これは企業組織にとって重要な課題である。

図1:実験のために設営されたワークステーションと実験結果
図1:実験のために設営されたワークステーションと実験結果
注: パネルCは、ピア評価による評価値が、第三者の熟練作業員による評価値に比べてどの程度低かったかを示している。パネルCはDugar and Kamei (2025) におけるSL-P条件、パネルDはSL-P条件とSL-E条件のデータをもとに計算したものである。「第三者評価」条件(SL-E)と「ピア評価」条件(SL-P)には、それぞれ90名の村民が参加した。
脚注
  1. ^ Lazear, E. P. (1989) Pay equality and industrial politics. Journal of Political Economy, 97(3), 561–580.
  2. ^ Dugar, S., Kamei, K. (2025) Pay Inequity and Peer Dynamics: New Field Evidence on Labor Market Sorting. Keio-IES Discussion Paper Series DP2025-020, Institute for Economics Studies, Keio University.
  3. ^ 亀井憲樹 (2024)『はじめての実験経済学:やさしくわかる意思決定の特徴』, オーム社(書籍).

2026年5月21日掲載