カブトムシのランダム化比較試験(RCT)について

関沢 洋一
上席研究員

日本国民は実験についてなじみがないと思うことがある。

たとえば、TVのワイドショーを見ると、認知症の予防について、脳トレを行う、昔好きだった音楽を聴く、サプリを飲む、運動する、などなど、さまざまな取り組みの効果について専門家がもっともらしいメカニズムを示しながら力説している。

しかし、実際にはもっともらしいメカニズムを指摘するだけでは不十分で、認知症の予防のための取り組みが本当に効果のあることを主張するためには実験による検証が必要である。このような実験はランダム化比較試験(randomized controlled trial, RCT)という名前で世界的に確立している(1)。

たとえば、レカネマブという薬は認知症の一つであるアルツハイマー病の進行を抑制することが知られているが、その効果はRCTによって明らかにされており、それまでは仮説にとどまっていた(2)。

私は最近EBPM(エビデンスに基づく政策形成)入門というポリシー・ディスカッション・ペーパー(PDP)形式の連載をRIETI内で始めたのだが、その過程でいろいろと調べるうちに感じたのは、米国と比べて日本は実験を重んじるという発想が乏しいことだ(3)。たとえば、今話題の給付付き税額控除の原型である負の所得税の効果について米国では1970年頃に既にRCTによる検証を行っている。

さまざまな取り組みについて本当に効果があるかどうかは頭で考えるだけではダメで、実際に実験してみないとわからないのだが、このような考え方は、日本よりは米国の方が根付いているようである。

カブトムシのRCT

仮説にすぎないのだが、実験に対する理解と関心を高めるためには子供の頃から実験になじむことが必要なのではないかと思う。ただ、人を対象としたRCTは倫理審査や本人同意などの手続きが必要でハードルが相当高い。そこで考えてみたのがカブトムシのRCTだ。 カブトムシは秋に卵がふ化して幼虫になり、翌年の初夏になるとさなぎを経て羽化して成虫になる。

何年か前にカブトムシの成虫を2匹もらって飼育する機会があった。驚いたことにそのカブトムシをもらったのは5月で(私が子供の頃はカブトムシの成虫を見るのは早くて6月だった)、しかも2匹のカブトムシは9月まで生きていた。成虫になってから4カ月も生きていたというのは相当な驚きだった。

どうして長生きしたのか(本当に長生きだったのか)は分からないが、一つの仮説としてエサがある。市販されているカブトムシ用のゼリーをエサとして与えていたのである。

この仮説が正しいかはRCTで検証できる。

カブトムシの幼虫を土(腐葉土など栄養分のあるもの)に入れて多数飼育して、成虫として地上に出てきたらID番号をつけた別々の水槽(できれば土や木を入れたもの)に入れる(表1)。このID番号をランダム化して介入群と対照群に分けて(コイントスで表が出たら介入群、裏が出たら対照群にする)、介入群には市販されているカブトムシ用のゼリーを与えて、対照群にはそれ以外のエサ(たとえばハチミツ)を与える。カブトムシの生存状況を毎日観察して死亡した日を記録する。秋になれば全て死亡すると思われるのでデータの取得は完成する。

RCTの特長は、実験対象となる個体をランダムに二つのグループに振り分けるだけで二つのグループの違いが小さくなり、実験対象数が増えるほど二つのグループが似通ってくることである。性別・重さ・成虫になった日などが、平均的に見ると介入群と対照群で似たようなものとなり比較が可能になる。

表1 カブトムシのランダム化比較試験(RCT)の取得データのイメージ
ID番号 介入 成虫になった日 性別 重さ 死亡した日
101 介入群 6月1日 オス
102 対照群 6月1日 オス
103 対照群 6月1日 メス
104 対照群 6月2日 オス
105 介入群 6月2日 メス

ただ、データを取得した後で、介入群の生存日数(死亡した日から成虫になった日を引いたもの)の平均値が対照群と比べて本当に大きいかどうかを検証するためには統計学の登場が必要になる。生存日数の差は偶然によって生じる場合が多いので、偶然と言えないような差(有意差と呼ばれる)があるかどうかを知るためには統計学的な検証が必要になる。

ここから示唆されるとおり、このカブトムシのRCTは小学校の実験としても使えそうだが、大学生や社会人の統計学の実習にも使える。

最近は生成AIの進歩が著しいので統計学的な検証は表1のデータを生成AIに読み込ませるだけで行ってくれそうだ。

おわりに

生成AIの著しい進歩の中で、効果検証の論文の執筆などはデータを与えれば生成AIが大部分の仕事を担える日が来そうである。しかし、希望的観測も含めると、実験によって表1のようなデータをそろえること、また、このような実験を思いつくことは、まだまだ人間の仕事なのではないかと思う。いつか、AIによるシミュレーションによって実験すらいらなくなる日が来るのかもしれないが、それまではアメリカに負けないように日本でも地道な実験によってさまざまな介入の効果検証が行われることが望まれる。

カブトムシのRCTもその一つである。

参考文献
  1. 関沢洋一. EBPM(エビデンスに基づく政策形成)入門:第2話 効果検証の重要な要素とランダム化比較試験. RIETI ポリシー・ディスカッション・ペーパー. 2026;26-P-005.
    https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/26030018.html
  2. van Dyck CH, Swanson CJ, Aisen P, Bateman RJ, Chen C, Gee M, et al. Lecanemab in Early Alzheimer's Disease. N Engl J Med. 2023;388(1):9-21.
  3. 関沢洋一. EBPM(エビデンスに基づく政策形成)入門:序論 EBPMとは何か、なぜ必要か?/第1話 本来のEBPMの概要と経緯. RIETI ポリシー・ディスカッション・ペーパー. 2026;26-P-004.
    https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/26030017.html

2026年4月24日掲載

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