原油価格がアジア経済に与える影響:株式市場からのエビデンス

THORBECKE, Willem
上席研究員

東アジアのエネルギー供給の大部分は化石燃料によって占められている。日本ではエネルギーの83%、インドネシアは78%、韓国は79%、台湾は92%が化石燃料由来である(注1)。主要なエネルギー資源は石油であり、日本のエネルギー消費の50%、インドネシアは41%、韓国と台湾では51%が石油によってまかなわれている。原油供給は日本が100%、インドネシアでは37%、韓国と台湾では99%を輸入に依存している。エネルギー構成における石油の重要性を考えると、原油価格はアジア経済にどのような影響を与えるのだろうか。

原油価格の変動がアジアの産業に与える影響

近年の研究では、原油価格の変動が業種別株価に及ぼす影響を検証し、この問題を分析している。理論的研究と実証研究において、業種別の株価変動が各業種の利益、投資、生産の変化を予測する手がかりになりうることが示唆されている。したがって、原油価格の変動が株価にどのような影響を与えるかを検証することが、各業種への影響を理解する上で重要なポイントとなる。本研究では、日本インドネシア韓国台湾について結果が得られた。

世界経済が好況になると、石油の需要が増加し、原油価格が上昇する傾向があり、世界経済が減速すると状況はその逆となる。原油供給などの要因も原油価格に影響を与える。ハミルトンバーナンキは、原油価格の変動を総需要と原油供給、その他の要因によって引き起こされる部分に分解する手法を提示した。本研究ではこの手法を用い、原油価格の変動を、世界の総需要の変化によるものと原油供給の変化によるものに分けて分析している。

世界的な総需要の増加による原油価格の上昇は、世界市場で競争する業種には恩恵となるはずである。実際、世界の需要の増加は、日本の家電、機械、自動車、電子部品には追い風となっている。また、インドネシア、韓国、台湾の鉄鋼、インドネシアの石炭、韓国の造船、台湾の繊維にも恩恵をもたらしている。一方、世界の需要に牽引された原油価格の上昇は、日本の食品製造業者、家庭用品、レストラン・バー、化粧品、インドネシアの医薬品・食料品店、生活必需品、韓国の食品製造業者、医薬品・食料品店、化粧品など、国内市場を対象とする業種には打撃であり、こうした国内向け産業への悪影響は想定通りである。原油価格の上昇はトラクターの稼働コストを増加させ、ひいては食料の生産コストを増加させる。また、消費者の可処分所得が減少し、その結果、消費者の国内製品への支出能力が低下する。化粧品業界は、原油価格の上昇により、消費者の購買力の低下と原材料コストの増加という二重の悪影響を受ける。日本と韓国では、航空業界も打撃を受けている。

原油高、日本企業に恩恵

韓国や台湾では、原油の供給削減による原油の価格上昇から恩恵を受ける企業はないが、多くの日本企業が利益を得ており、その多くが製造業である。日本の製造業は、エネルギー価格の上昇局面においても、必要とされる重要な製品を提供する力に優れている。一例として、日本銀行の研究では、世界の経済活動では説明できない原油市場特有のプラスの価格ショックが発生すると、日本の複数の産業で生産が増加することが示されている。同研究は、日本企業が生産する自動車などの製品は、外国企業の製品よりもエネルギー効率が高いことを指摘しており、原油価格の上昇によって外国産から日本産に需要をシフトさせるのである。

多くの日本企業が原油高の恩恵を受けることを踏まえると、エネルギー価格上昇の負担を軽減するために一律の補助金を出す政策は適切ではない。こうした補助金は、原油価格の上昇から利益を得る富裕層や企業に利益をもたらすだけでなく、脱炭素化の流れにも逆行し、政府の財政支出を増加させる。また、日本がすべての企業と消費者を支援するためにガソリン税を廃止するという案は、最適とは言えない。同様に、インドネシアも多くの業種が原油価格上昇の恩恵を受けており、政府は包括的なエネルギー補助金を避けるべきである。日本とインドネシアは、原油価格で不利益を被る低所得者層や特定の産業に的を絞って補助金を提供すべきである。

アジア企業が化石燃料を削減するために

日本、インドネシア、韓国、台湾の多くの業種は、原油価格の上昇によってプラスの影響、あるいはマイナスの影響を受けている。原油価格は変動が激しく、アジアの産業に大きな影響を及ぼしている。こうした状況に対応するため、企業や政府は、引き続き再生可能エネルギーへの転換を進めるべきである。環境にとっても望ましく、政府が掲げる温室効果ガス排出目標達成にも寄与するだろう。以下では、原油価格変動が各産業にどのような影響をもたらすのか、具体的な事例を用いて紹介する。

日本、インドネシア、韓国、台湾は山地が多く、太陽光発電所のための土地の確保は容易ではないが、ペロブスカイト太陽電池が助けとなり得る。通常のソーラーパネルの20分の1の薄さでスポーツスタジアムや空港ターミナルなどの狭いスペースでも設置でき、産業界、政府、大学は、この有望な技術の研究を継続すべきである。

日本と韓国の航空業界も、原油価格の高騰により打撃を受けている。航空会社は、より持続可能な航空燃料(SAF)を使用することでカーボンニュートラルへ近づくことができるが、SAFは従来のジェット燃料の4倍ものコストがかかる。このため、日本と韓国の航空会社はSAFを避けているが、日本と韓国は観光客であふれている。観光客に少額の追加料金(サーチャージ)を課すことで、政府はSAFの利用を補助するための財源を確保できるだろう。

化粧品業界も、石油化学製品を多く使用するため、原油価格の影響を受けやすい。化粧品会社は、石油化学製品を植物油などの再生可能な材料から作られた油脂化学製品に置き換えることができる。油脂化学製品は環境に優しいだけでなく、石油化学製品よりも発がん性物質の含有量が少なく、消費者にとってより健康的な商品である。

食糧生産と農業は、原油価格が上昇すると大きな打撃を受ける。石油などの炭素系燃料は、トラクターや農業機械の稼働、温室の加温、灌漑用水のくみ上げ、肥料の製造、家畜の飼育、食料の市場への輸送、食料の流通に使用されている。こうした化石燃料は、再生可能エネルギー源によって補完または代替が可能である。また、アジア各国の政府はスマート農業の普及を後押しすることができる。スマート農業では、自動化技術、人工知能、モノのインターネットを利用して、持続可能な農業を実現できる職業訓練校や専門学校で学んだ農家はスマート農業技術を取り入れる傾向が強い。政府は、職業専門学校や専修学校での教育に補助金を出すことで、環境に配慮した農業技術の促進を支援できる。

台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)は、原油価格の上昇で不利益を被っている。TSMCは大量のエネルギーを消費しており、2023年には25,000ギガワットもの電力を使用した。これはゼネラルモーターズの2倍に当たる。原油価格の変動から自社を守り、顧客の期待に応えるためにも、TSMCはサプライチェーンにおける化石燃料の使用を削減すべきである。電子機器のカーボンフットプリントの大部分は、半導体の製造過程で発生する。半導体メーカーが化石燃料を削減する方法は複数ある。具体的には、地球温暖化の原因となるプロセスガスの使用量削減、炉やクリーンルームなどの主要設備の省エネルギー化、完成した半導体を顧客へ輸送する際に環境負荷の少ない方法を採用することなどが挙げられる。

まとめ

アジア企業は原油価格の変動にさらされている。不安定な原油価格の影響を抑え、温室効果ガスの排出を削減するためにも、企業は化石燃料の使用を減らし、再生可能エネルギー源に目を向けるべきである。上述したように、政府はこの転換を促進するためのインセンティブを提供することができる。アジア各国の企業や政策立案者がカーボンフットプリント削減に向けて取り組めるその他の方法については、(Thorbecke, 2025)、(Thorbecke, 2025)、(Thorbecke, 2024)で紹介している。

本コラムの原文(英語:2026年2月4日掲載)を読む

脚注
  1. ^ 本段落で引用したデータは国際エネルギー機関(IEA)によるものである。http://www.iea.org/

2026年2月12日掲載