日本の人口は減少傾向にあり、将来的に9,000万人を割り込むと予測されています。特に、2025年には1億2,000万人を下回り、その後も減少が続き、2060年には8,674万人になると推計されています。高齢化も進み、2070年には高齢化率が39%に達すると見込まれています。
政府の「経済財政運営と改革の基本方針2025」は、日本の人口減少と生産年齢人口の減少を「人材希少社会」として正面から捉え、この危機に対処する必要性を強調しています。質の高い雇用の確保と労働生産性の向上を成長の前提とし、個々の可能性を最大限に引き出す「人中心の国づくり」を掲げています。このため、賃上げやリスキリング支援など、人的資本への投資を通じて、持続可能な経済社会の実現を目指す方針を示しています。
しかし日本の現実は厳しいです。世界の人的資本は、主に教育と健康の改善により、全体的に成長傾向にあります。特に発展途上国では、顕著な増加が見られます。この成長は、経済発展を促進する上で不可欠な要素です。その一方で、人的資本が初期から高水準だった日本は、近年は例外的にマイナス成長を経験しています。これは、過去と異なる政策を行い、教育や健康を含む人的資本が長期的な経済成長と繁栄に不可欠であることを示しています。
日本において、人口減少とそれに伴う「消滅可能性都市」は重要な課題です。森らの研究(https://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/25p006.html)では、この課題に対し、都市を人口密度の高いグリッドで定義し、産業の立地パターンが都市の人口規模と階層性を持つことを示しています。この「階層性」を利用し、生活に不可欠な産業(産婦人科、スーパーなど)を維持できる最低限の人口規模「Essential City Size (ECS)」を算出する手法を提案しています。これにより、将来的に持続可能な都市とそうでない都市を識別し、交通網やインフラの再編を含む、地域経済の賢い縮小・再編を計画するための指針を提供できると結論付けています。この議論は、単なる人口減少にとどまらず、人的資本を生かした地域戦略の必要性を強調しています。
さらに都市より詳細な予測が、都市内のグリッド(面積)ごとに可能です。われわれのAI研究により日本の人口は詳細なグリッドで空間的に把握され、将来予測が可能となっています(注1)。特に、「Expert Systems With Applications」誌での論文(Li, C., A. Keeley, S. Takeda, D. Seki, J. Zhang, B. Shi, and S. Managi. 2025. "City-level Population Prediction in Japan from 2020 to 2100 by Machine Learning", Expert Systems With Applications 285, 128005.)では、機械学習モデルによって、2100年までの人口動態を予測しており、その精度は99.9%以上であると報告されています。付随して、「Machine Learning with Applications」誌での論文(Li, C., A. Keeley, S., and S. Managi. 2025. "Forecasts and insights into Japan’s fiscal future: Machine learning-based projections of city-level taxpayer numbers and total income from 2020 to 2100", Machine Learning with Applications (forthcoming))では個人単位での収入や税収まで含めて地域で2100年までの予測をしている。また、「Scientific Data」誌(Li, C., and S. Managi. 2023. "Gridded Datasets for Japan: Total, Male, and Female Populations from 2001–2020", Scientific Data 10, 81. https://doi.org/10.1038/s41597-023-01989-4.)では、人工衛星データを用いて日本の人口を500mメッシュの解像度で把握し、予測できることが示されています。さらに、所得分布の予測にも応用可能であるとされています。これらの技術により、地域ごとの詳細な人口変化や納税世帯、収入レベルまで予測が可能となり、都市計画や政策立案に貢献すると結論付けられています。
将来の人口予測や納税世帯、収入レベルといった詳細なデータを活用することで、地域ごとの人的資本の現状と将来の姿を正確に把握することができます。このデータに基づき、産学官が連携して、地域特有の課題とニーズに合わせた人材創出の取り組みを計画的に進めることが不可欠です。
これにより、地方の大学や企業、自治体が協力し、教育プログラムの創設やリスキリングの機会を提供することで、地域産業に必要な人材を育成・確保し、持続可能な発展を目指すことが可能になります(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/10228/ https://newswitch.jp/p/41722)。これは、単なる人口減少への対策にとどまらず、人的資本を最大限に生かし、地域社会全体の活性化につながる重要な戦略となります。地域ごとの将来予測を現実的に見て、地域内でのグリッドごとの予測に応じて、他の地域との連携を行うこと、都心ではハードなインフラ(人工資本)、地方では自然資本を活用した人的資本戦略が求められます。