職場での低い生産性や怠業行動は好きでもないタスクが割り振られた労働者に多く現れる

亀井 憲樹
客員研究員

好きでもない仕事を割り振られたことから職場に不満を持ったり、それにより働く意欲が減退し、ソーシャルメディアを見たりメールチェックなど仕事以外のことに時間を費やした経験はないだろうか?労働環境で労働者の働く意欲を保ちモラル・ハザード行動(いわゆる“さぼり”)を抑制することは企業組織の生産性を高めるために不可欠である。雇用者は労働者の職場での労働行動を完全には観測できないため、個人の報酬等対価の決定にチームや部門での業績が考慮されるケースが多い。しかしながら、Alchian and Demsetz (1972)やHolmstrom (1982)で議論されたように、このようなレべニュー・シェアの下では、労働者は同僚の貢献にただ乗り(フリーライド)して自分は楽をしたい誘惑に駆られるものである。本コラムでは、ただ乗り等のモラル・ハザード行動や労働者の生産性は、『望まざるタスク』(自分が選んだのではない“やらされ仕事”)を割り振られた労働者に多く現れることを、新しい経済実験のデザインで示したコペンハーゲン大学マークセン教授と私の論文(Kamei and Markussen, forthcoming)を紹介する。同時に、この論文では、タスクの割り振りに労働者が参画することが労働者のタスク選好と割り振りの間のミスマッチングの負の効果を軽減するのに効果があることも提案する。

経済実験デザイン

実験室内実験は因果関係を内的妥当性の高い形で示すことが可能である。実験室内実験はラボ実験とも呼ばれ、コンピュータ教室に集められた被験者に何らかのタスクをさせ、その行動に関するデータを収集することで経済仮説の検証を行う。本実験は、コペンハーゲン大学の経済実験室で、同大学の学生を対象に2018年と2020年に実施した。合計601名の学生が参加した。

601名のうち417名の被験者が参加した実験のセッションでは、集められた被験者がランダムに3人からなるチームに割り振られ、30分間それぞれ独立に『足し算』または『ゼロを数える』タスクのうちどちらかを取り組んだ。所与のチーム内の3人のメンバーには2つのうち同じタスクが割り当てられる設定が使用されたが、どちらのタスクが割り振られるかは(I)コンピュータによりチームにランダムにタスクが割り振られるトリートメントと(II)チーム3人の投票により多数決でタスクが決まるトリートメントの2種類の実験を行った。チーム構成員の報酬はチーム全体のパフォーマンスの平均(つまり「レべニュー・シェア」)と設定した。

 図1に被験者が実際に取り組んだタスクのコンピュータ画面の例を示す。『足し算』タスク(図1.A)は2桁の5つの数字を正しく足し合わせることで報酬が得られるタスクである。5つの数字はコンピュータによりランダムに生成される。『足し算』タスク1問正解するごとに2クローネ(デンマーク通貨:日本円とクローネの実験実施時の為替換算率は1クローネ当たり約16円後半から17円代半ば)を獲得する形で実験が行われた。『ゼロを数える』タスク(図1.B)は0と1がランダムに配列された10×9の表にある0の数を正しく数えることで報酬が得られるタスクである。『ゼロを数える』タスク1問正解するごとに2.5クローネを獲得することができる。2つのタスクでの共通点は、タスクからの報酬が正しく解いた問題の数に比例して決定される点である。各被験者は、制限時間中にタスクを何問でも解くことが可能である。実験中には他のチーム構成員に知られずにコメディのビデオを見るオプション(図1.C)が各被験者に与えられた。このビデオ鑑賞は労働経済学での怠業を意味する。つまり、被験者はタスク期間中に「労働」と「怠業」を選択できる環境である。

レべニュー・シェアがとられる設定(以下「チーム」の設定と呼ぶ)での人々の労働行動と比較する目的で、報酬が個人のパフォーマンスで完全に決定される設定(以下「個人」の設定と呼ぶ)での実験も行いパフォーマンスを計測した。「個人」の設定の実験に参加した被験者数は601名のうち184名である。チームの設定では、自身の報酬額が他のメンバーのパフォーマンスにも依存するため、それぞれ他のメンバーの労働にただ乗りするインセンティブが発生する。

労働者のタスク選好とタスクの割り振りの間の(ミス)マッチングがパフォーマンスに与える影響を分析するために、実験開始時にどちらのタスクをプレイすることを望むか全ての被験者から選好を抽出した。

図1:実験で被験者が⾒るコンピュータ画⾯の例(スクリーンショット)
注釈:コンピュータ画面に日本語訳を追加している。

タスク割り当てとタスク選好のミスマッチングが労働者の非生産的行動に結び付く

本実験での重要な労働行動の指標は、労働パフォーマンス、つまりタスクを通じて被験者が獲得した報酬額と、怠業の指標であるビデオ鑑賞時間である。図2は、自身が望むタスクを割り振られた被験者(パネルAとB)と望まざるタスクが割り振られた被験者(パネルCとD)に分けて、各指標の平均を示している。青の棒グラフはコンピュータによりランダムにタスクの割り当てがされた実験設定、だいだい色の棒グラフは多数決でタスクが選択された実験設定での労働行動の平均である。また、「個人」の設定と「チーム」の設定の別でもデータを分けている。

本実験ではチームサイズが3であるため、レべニュー・シェアが用いられると労働に対する金銭的インセンティブは3分の1に低下する。実験での怠業、つまり、タスク作業中におけるビデオ鑑賞時間は、このインセンティブ変化を反映して、個人の設定に比べてチームの設定で深刻であった(パネルBとD)。しかしながら、怠業のまん延はミスマッチングを起こしている被験者でより深刻であった(パネルD)。その結果、ミスマッチングを起こしている被験者のレべニュー・シェア下でのパフォーマンスは、「個人」の設定に比べ統計的に有意なレベルで低くなった(パネルC)。この結果とは極めて対照的に、望んでいたタスクが割り振られた被験者は、レべニュー・シェアでも個人の設定でも統計的には変わらないレベルのパフォーマンスを達成していた(パネルA)。

「個人」の設定でのタスクの割り振りの効果を見ると、ミスマッチングは、ビデオ鑑賞時間の増加には結びついていないものの(パネルBとD)、労働パフォーマンスを10クローネ以上、つまり実験実施時での日本円換算で約170円以上、低下させている(パネルAとC)。これは、後述するように、労働者の「スキル」と割り当てタスク間でのミスマッチングが、「チーム」「個人」の設定を問わず、望まざるタスクを割り当てられている被験者で起こっているからである。

本結果は、労働者へのタスクの割り振りに対して、労働者のタスク選好を踏まえることの重要性を示唆する。望まざるタスクを強制されると負の互恵性やスキルのミスマッチングから労働意欲が減退し、特にチーム生産下で怠業など非生産活動がまん延する事態に陥りうる。

図2:被験者の平均パフォーマンスとマッチングの関係
図2:被験者の平均パフォーマンスとマッチングの関係
注釈:図2はKamei and Markussen (forthcoming)に含まれるFigure 3を簡略化し日本語に訳したものである。パネルAとCは被験者一人当たりの平均獲得金額であり、単位はデンマーク通貨であるDKK(クローネ)。「足し算」タスク1問正解するごとに2クローネ、「ゼロを数える」タスク1問正解するごとに2.5クローネを獲得する形で実験が行われた(この対価はチームの設定では3人で分割された)。パネルBとDは被験者一人当たりの平均ビデオ鑑賞時間[秒]。図中のp値はSomers’ Dに基づく両側検定による値である。補完的分析としてパネル構造を考慮した回帰分析も行ったが結果はロバストであった。

組織のメンバー自身にタスクを選ばせると生産性は向上する

図2のパネルCで明白なミスマッチングの生産性への負の効果は2つの効果でもたらされるとKamei and Markussen (forthcoming)は計量的に示した。1つ目は経済合理的な動機では説明できない行動効果である。これは、すでに説明したように、望んでいないタスクを割り振られたことに対する負の互恵性、つまり心理的な反発から労働者は働く意欲を減退し、ビデオ鑑賞等の怠業に向かう非生産的な現象である。

2つ目はいわゆる選択効果(selection effects)である。実験データによると、平均して、人は自身のスキルに適合したタスクが割り振られることを望む傾向があると明らかになった。これは、労働者のタスク選好に反するタスクが雇用者から割り振られると、労働者の「スキル」と割り振られるタスクの間のミスマッチングにつながり、生産性低下に寄与することを意味する。望まざるタスクが与えられた場合に労働時間の減少(図2.C)がパフォーマンスの低下(図2.D)に強く結び付いたが、この「スキル」と「割り当てタスク」のミスマッチングが与えた影響が大きい。本実験では、スキル・タスク間のミスマッチングの負の影響は、特に『足し算』タスクで顕著であった。『足し算』タスクは単純に『0を数える』タスクに比べて算数のスキルが必要なことを考えると、特に職能スキルが求められるタスクで選択効果が重要であると分かる。

企業組織におけるこのようなミスマッチングの負の効果を克服する最もシンプルな方法は、組織メンバー自身にタスクを選択させることである。自ら個人タスクを選択させる、またはチーム生産ではチーム内での多数決などの民主的手続きを経てプロジェクト等を決定させれば、ミスマッチングを軽減することができ、上述の2つの行動効果を避けることが可能である。さらには、本実験では計量的に確認されなかった行動効果であるが、自らタスクを選択させると、労働者の行動に『民主主義プレミアム』が生まれる可能性もある。『民主主義プレミアム』は、人々が自らポリシーなどを選択すると、自身の内発的動機が高まり(例: Deci and Ryan, 1985)、ポリシーが意図する方向で人々の社会での協力行動が高まるという行動効果である。Dal Bó et al. (2010)やKamei (2016)は、民主主義プレミアムは社会的ジレンマ下で極めて強い効果を持つと提案している。従って、労働者に組織内でのタスク割り当てに関与させることは、ミスマッチングを是正するのみならず、内発的動機付けの点からも望ましく、生産性向上に有益な効果を生む可能性も示している。

参考文献
  • Armen Alchian, Harold Demsetz (1972) “Production, Information Costs, and Economic Organization.” American Economic Review, Vol.62(5), 777-795.
  • Benet Holmstrom (1982) “Moral hazard in teams.” Bell Journal of Economics, Vol.13, 324-340.
  • Edward Deci, Richard Ryan (1985) Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior. New York: Plenum.
  • Pedro Dal Bó, Andrew Foster, Louis Putterman (2010) “Institutions and behavior: experimental evidence on the effects of democracy.” American Economic Review, Vol.100(5), 2205-2229.
  • Kenju Kamei, Thomas Markussen (forthcoming) “Free Riding and Workplace Democracy – Heterogeneous Task Preferences and Sorting,” Management Science.
  • Kenju Kamei (2016) “Democracy and resilient pro-social behavioral change: An experimental study,” Social Choice and Welfare, Vol.47, 359-378.

2022年5月13日掲載