POSでみるコロナ禍の購買動向:緊急事態宣言解除後編

小西 葉子
上席研究員

過去4回のコラムでは、コロナ禍で販売増になったもの、販売減になったもの(注1)、小売業の業態別比較(注2)、家電大型専門店の販売動向の地域別比較(注3)、食品と日用品の販売動向を地域別に比較した(注4)。今回のコラムでは、これまでのコロナ禍の分析で特徴的な動きをした品目について、緊急事態宣言期間と解除後の販売動向を記録する。データは、経済産業省のBigData-STATSのダッシュボード(β版)(注5)で毎週公表している「METI POS小売販売額指標[ミクロ]」を使用する。

緊急事態宣言時と宣言解除後の比較

4月7日に7都府県、4月16日には全国に緊急事態宣言が発出された。そして、発出からおよそ1カ月後である5月14日に39県の緊急事態宣言が解除となり、5月21日に関西3府県が解除、5月25日には残る5都道県も解除(全面解除)となった。こうした緊急事態宣言の影響につき、まず表1で緊急事態宣言の発出週(4月13日~19日)、表2で2カ月後の最新週(6月15日~21日)の前年同週比の減少率、増化率のランキングをみてみよう。

前年同週比は、前年販売額からの変化率であり、0%は前年と同じ販売額、増加率が100%の時は前年の2倍売れ、減少率が50%の時は前年の半分しか売れなかったことを示す。

表1:前年同週比の販売減、販売増ランキング [4月13日~19日の週]
表1:前年同週比の販売減、販売増ランキング [4月13日~19日の週]
出所:経済産業省 BigData-STATSダッシュボード(β版)より著者作成

表1の週は、全国に緊急事態宣言が出され、コロナウイルスに対する危機感が高まっていた期間である。外出自粛と在宅勤務の要請により、スーパー、コンビニ、ドラッグストア、ホームセンターの4つの小売業態で化粧品のカテゴリの全て(基礎化粧品、メイクアップ品、その他化粧品)が減少している。一方、販売増の品目は、食料品が目立つ。一斉休校、在宅勤務の要請に加え、緊急事態宣言期間は多くの飲食店が20時までの営業となり、自炊の機会が増えて調味料の販売が伸びた。また当週は家電量販店でのパソコンの増加率は50.9%と1位であった。休校や在宅勤務が続くことも見越しての、テレビ会議、リモート授業などへの対応による需要増があった。

表2の週は、緊急事態宣言から2カ月が経過し、6月19日には都道府県境をまたぐ移動制限が解除された週である。緊急事態宣言の発出時よりもコロナショックが和らいでいると判断された時期であるが、どのような違いがあるだろうか。

緊急事態宣言が解除されても、メイクアップ化粧品は4業態全てで販売減である。このデータから、宣言解除後も人々は外出自粛、在宅勤務、マスク着用に取り組んだことが覗える。表1でスーパーマーケットのメイクアップ化粧品は63.2%減だったのが、表2では23%減とマイルドになったこと、基礎化粧品がランキング外になったことが特徴である。

販売増のランキングでは、コロナ禍で販売増が続いていた食品がランキングから外れた。

一方、1月末から品薄が続いていた健康関連品(マスク、体温計等)が上位3位を占め、4業態全てで販売増だったことが特徴的である。例年6月はマスクの需要は高くないが、コンビニ、スーパーでは例年の約2倍、ホームセンターは約1.5倍、ドラッグストアは約1.4倍の販売増である。商品が棚に並び売れ行きが良いことが見て取れる。また、コロナ禍によるオンライン会議やオンライン授業による需要増で、パソコンの売れ行きが好調である。白物家電は販売減が続いていたが、当週はパソコン以外の家電製品がランキングに入った。

表2:前年同週比の販売減、販売増ランキング [6月15日~21日の週]
表2:前年同週比の販売減、販売増ランキング [6月15日~21日の週]
出所:経済産業省 BigData-STATSダッシュボード(β版)より著者作成

もどってきたマスク、すすむマスク着用

図1はスーパーマーケットでの健康関連品と紙製品の販売動向である。健康関連品には、マスクや体温計などが含まれる。1月30日のWHOの緊急事態宣言後のタイミングで、販売額は約277%販売増(前年比約3.7倍)となった。品薄状態が続き、政府が対応を行ってきたが、5月に入ってからようやく入手困難が緩和されてきた。5月からは販売増が続き、直近では約2倍の販売増である。マスクが市場に安定的に供給されることで新しい生活様式でのマスク着用の奨励にも対応できるだろう。

紙製品には、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、キッチンペーパーなどが含まれる。2月末のSNSでのトイレットペーパー不足のデマと、3月2日の一斉休校開始の時期が重なり、紙製品が約150%増で品薄になった。紙製品は、マスクよりも早く、4月には市場に戻り、現在は家庭内在庫を消費しており前年と同程度の販売動向である。

図1:健康関連品と紙製品の販売動向の推移(週次、スーパーマーケット)
図1:健康関連品と紙製品の販売動向の推移(週次、スーパーマーケット)
出所:経済産業省 BigData-STATSダッシュボード(β版)より著者作成

オンライン化への環境整備:続くパソコン需要

図2は、黒物家電の販売動向の推移である。パソコンは、1月14日にWindows 7のサポート終了があっため年明け後も前年水準より2倍ほど売れていた。買い換え需要終了後は、一気に販売減の見通しだったが、コロナ禍の在宅勤務増で、緩やかな減少となった。緊急事態宣言期間は、再び特需が起き、5月の第2週は68%増となった。緊急事態宣言終了後もテレビ会議、リモート授業増を見越して、在宅環境を整えるために特需が続いている。

図2:テレビとパソコンの販売動向の推移(週次、家電量販店)
図2:テレビとパソコンの販売動向の推移(週次、家電量販店)
出所:経済産業省 BigData-STATSダッシュボード(β版)より著者作成

日常にもどる:白物家電の販売増

黒物家電と対照的に、コロナ禍では白物家電は販売減が続いていた(図3)。緊急事態宣言前から、家電量販店は営業時間短縮や休業が始まっており、期間中は多くの店舗が休業していた。5月14日(第3週)の39県への宣言解除から徐々に営業再開が始まっており、宣言解除後は販売増となっている。特にエアコンの販売増は顕著である。今後の働き方は、出勤、時差通勤、在宅勤務の組み合せが続く。在宅時間の増加による室内での熱中症予防での販売増ともとれるが、それに加え、買い物意欲が増えたことも理由の一つであろう。店舗の営業再開、特別定額給付金の手続き終了、夏のボーナス支給額発表で、緊急事態宣言の期間中やゴールデンウィークに出来なかった分、買い物を楽しむという行動が戻ってきている様に見える。

図3:冷蔵庫、洗濯機、エアコンの販売動向の推移(週次、家電量販店)
図3:冷蔵庫、洗濯機、エアコンの販売動向の推移(週次、家電量販店)
出所:経済産業省 BigData-STATSダッシュボード(β版)より著者作成

日常にもどる:通勤増と外食利用の復活

図4は食品の販売動向である。コロナ禍で、食品の購買行動に変化があったのは、2月27日に安倍首相が3月2日からの一斉休校と在宅勤務要請のアナウンスを行ってからである。3月2日の一斉休校開始時は、調理不要、調理時間の短縮が可能な主食(米、パン、パスタ、カップ麺等)や保存の利く加工食品(レトルト、冷凍食品等)が売れ筋で、主食は36%増、加工食品は24%増であった。その後3月25日の小池都知事の週末の外出自粛要請を受けて、国の緊急事態宣言が現実味をおび、全国に再び食品の買いだめ行動が広がった。3月の第5週の主食は33%増、加工食品は26%増であった。

4月の第4週には、調味料が28%増となり、主食と加工品の前年同週比よりも高くなった。緊急事態宣言期間中は、飲食店の営業時間の短縮や休業要請により、一層家庭内で食事をとる機会が増えており、自炊の頻度が上がっていることが、調味料の販売増から見て取れ、宣言終了後もこの傾向が続いている。

5月14日の39県での緊急事態宣言解除後以降、全体的に下降気味なのは、飲食店の通常営業が再開されたこと、通勤や外出が増え、外食を楽しむ機会が増えていることによる。また、緊急事態宣言期間中に多くの飲食店が出前やテイクアウトに取り組んでおり、バラエティも増えている。解除後も引き続きテイクアウト商品に力を入れる店舗も多く、通勤帰りに利用する客も増えており、徐々に自炊と外食の割合も日常に戻ってきているのであろう。

図4:食品の販売動向(週次、スーパーマーケット)
図4:食品の販売動向(週次、スーパーマーケット)
出所:経済産業省 BigData-STATSダッシュボード(β版)より著者作成

日常にもどる:通勤増とメイクアップ

コロナ禍で販売減が続いているのは化粧品である。図5は化粧品の品目別の販売動向の推移である。緊急事態宣言期間中は一段と販売減が進み、底を打った。5月14日の39県での緊急事態宣言解除後から、全体的に上昇傾向である。特に解除後は、外出しなくても使用する基礎化粧品、リップや日焼け止めといったその他化粧品はなくなった分が買い足され、前年と同水準に販売額が戻ってきている。メイクアップ化粧品も依然として販売減ながらも上昇を続けている。家庭内在庫の減少と通勤などでの外出増で購買が戻ってきている。

図5:化粧品の販売動向(週次、スーパーマーケット)
図5:化粧品の販売動向(週次、スーパーマーケット)
出所:経済産業省 BigData-STATSダッシュボード(β版)より著者作成

非常事態での経済指標の予測:SNSデータとAIの活用例

筆者は小西・西山(2019、注6)の分析結果(注7)を用いて2020年の訪日旅行者数の予測を試みた。結果は4000万人強という数値で、2016年の3月に安倍首相の演説内の4000万人という目標値と近いものであった。日本政府観光局(JNTO)によると2019年の訪日旅行者数は3188万人であるし、なかなか筋の良い目標値であったと思われる。しかし、これはコロナ禍がなかった場合の予測で、残念ながらわたしたちも政府も2020年の予測は大幅に外れてしまうだろう。もともと統計的な予測はショックに弱いが、予測は過去から現在の状態(構造)を用いて作られたモデルや指標を基に行うため、今回の様な大きくて誰も想定できないようなショックの前では役不足となる。ではどう対処すればよいのだろうか?

ここで、経済産業省の平成28年度 IoT推進のための新産業モデル創出基盤整備事業の中の「ビッグデータを活⽤した新指標開発」プロジェクトの成果を紹介したい。図6は野村證券の金融工学研究センターと経済産業省の共同開発による新指標であり筆者も開発に関わった。「SNS×AI景況感指数」はTwitter上での景況感を指数化した経済指標で、まずツイートから景気についてのツイートのみを「抽出AI」で抽出する。次に「評価AI」で景気についてのツイートがポジティブかネガティブかを判断させて、そのポジネガ度合(センチメント)を自動的に指数化する(注8)。TwitterとAIの利用により日次データで集計しており、現在も野村證券から毎週公表されている(注9)。内閣府の景気ウォッチャー調査は、業種×地域で街の人々に景況感について調査しており、景況感の良し悪しの割合をディフュージョンインデックス(DI)として毎月公表している月次調査である。

図6:Twitterによる日々の景況感と景気ウォッチャー調査のDI
図6:Twitterによる日々の景況感と景気ウォッチャー調査のDI
出所:SNS×AI景況感指数(ウォッチャーAI)(野村證券(株)金融工学研究センター)、景気ウォッチャー調査(内閣府)「景気の現状判断(方向性)(季節調整値)」より著者作成

赤色線がSNS×AI景況感指数の日次データ、青色線は内閣府が公表している景気ウォッチャー調査の景気DI(月次データ)である。赤色線は、直近で6月28日分まで公表しており、青色線は5月分が最新情報となっている。特にコロナ禍で、内閣府の景気DIの挙動をよく捉えており、予測指数としての活用が期待できる。非常事態ではSNS情報やAIの活用が予測力を発揮し、既存の統計指標の補完になる可能性がある。7月8日に、6月分の青色の点が1つ増えるのが楽しみである。

脚注
  1. ^ 小西葉子、RIETI特別コラム:新型コロナウイルス-課題と分析
    「POSでみるコロナ禍の購買動向:品目分析編」(2020年4月2日)
    https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0554.html
  2. ^ 小西葉子、RIETI特別コラム:新型コロナウイルス-課題と分析
    「POSでみるコロナ禍の購買動向:業態分析編」(2020年4月16日)
    https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0574.html
  3. ^ 小西葉子、RIETI特別コラム:新型コロナウイルス-課題と分析
    「POSでみるコロナ禍の購買動向:家電量販店×地域分析編」(2020年4月28日)
    https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0589.html
  4. ^ 小西葉子、RIETI特別コラム:新型コロナウイルス-課題と分析
    「POSでみるコロナ禍の購買動向:食品・日用品×地域分析編」(2020年5月18日)
    https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0596.html
  5. ^ 経済産業省、BigData-STATSのダッシュボード(β版)
    https://www.meti.go.jp/statistics/bigdata-statistics/bigdata_pj_2019/index.html
  6. ^ 小西葉子・西山慶彦 (2019) 近年のわが国の地域別旅行者数に関するジップ法則とジブラ法則:訪日旅行者と邦人旅行者の比較、RIETI Discussion Paper Series 19-J-008。
  7. ^ 観光庁の「宿泊旅行統計調査」の2011年から2017年までの外国人宿泊者数の都道府県別データを用いて、各都道府県の毎年の訪日旅行者数の成長率に対して前年の訪日旅行者数を回帰した推定結果を用いた。
  8. ^ 饗場行洋・山本裕樹(2018)「データサイエンスと新しい金融工学」、『財界観測』2018年春号。
    https://www.nomuraholdings.com/jp/services/zaikai/journal/pdf/p_201804_02.pdf
  9. ^ 野村證券 金融工学研究センター「SNS×AI 景況感指数」
    http://qr.nomura.co.jp/quants/sns_ai/

2020年7月3日掲載