過去3回のコラムでは、コロナ禍で販売増になったもの、販売減になったもの(注1)、小売業の業態別比較(注2)、家電大型専門店の販売動向の地域別比較(注3)を行った。今回は、食品、日用雑貨、ヘルスケア、化粧品の販売動向を地域別に観察する。データは、経済産業省のBigData-STATSのダッシュボード(β版)(注4)で毎週公表している「METI POS小売販売額指標[ミクロ]」を使用する。
緊急事態宣言から1か月
4月7日に7都府県に緊急事態宣言が発出され、4月17日には全国に拡大され、5月4日には、緊急事態宣言の延長が発表された。まず、表1で最新週(5月4日~5月10日)の前年同週比の減少率、増化率のランキングをみてみよう。前年同週比は、前年販売額からの変化率であり、0%のとき、前年と同額販売され、100%増のときは前年の2倍売れたことを示す。マイナスのときは前年より販売が減少したことを示す。
7都府県は緊急事態宣言から1か月、その他地域も3週間が経過した。各地で外出自粛、在宅勤務、マスク着用により化粧品の使用量や頻度が減り、小売4業態で化粧品の販売減が続いている。
販売増の品目では、パソコンが68.1%増で1位、テレビが35.6%増で3位であった。例年、ゴールデンウィーク中は販売が多い2品にも関わらず、さらに今年は販売が伸びている。表2に地域別の数値を示す。パソコンは、関東・甲越は全国値を下回っているが、その他の地域は非常に販売が伸びている。休暇中に、今後のテレビ会議、リモート授業増を見越して、在宅環境を整えるための需要増である。テレビについても、在宅時間や人数の増加で2台目、3台目需要が高まっているのだろう。
本週も、食品の販売増が目立つ。緊急事態宣言後は、多くの飲食店が20時までの営業となり、自炊の機会が増え、調味料の販売が伸びているのが特徴である。
コロナ禍では、在宅時間が長くなった割にはアルコール類の目立った需要増は見られなかったが、連休中ということもあり、アルコール飲料の購入が伸びている。これらの買い物先は、まとめ買いしやすく、価格が安いホームセンター、ドラッグストアが選ばれている。
本週は、2位と4位が、健康関連品であった。体温計、マスクが含まれるので、市場にマスクや体温計が十分に戻ってきたと言いたいところである。しかし、例年5月の連休には花粉症や風邪の流行が下火になり、前年のマスクや体温計の販売額が低かった割には売れたというのが指標の上昇の原因であろう。
消費行動の変化のタイミングと特徴(2020年5月10日の週まで)
過去3回のコラムで、データから消費行動の潮目が変ったタイミングや特徴がいくつか明らかになったので以下にまとめる。本コラムでも①~⑥のポイントに注目しながら各地域データを見ていく。
- ポイント①
- 1月末からマスク、手指消毒剤、除菌シートなどの感染症予防品の販売が急増し、その後、品薄が続く。
- ポイント②
- 2月末はデマによるトイレットペーパー、ティッシュ、キッチンペーパーの販売増、徐々に店舗に戻ってくるも継続的に購入されており品薄感がある。
- ポイント③
- 2月末の一斉休校アナウンス、在宅勤務要請より以後、主食、調理時間のかからない冷凍食品、加工食品を中心に食料品の買いだめ行動が起こる。
- ポイント④
- 4月7日に7都府県、17日に全国に緊急事態宣言が出される。PC、オンライン会議用商品の需要が急増している。外出自粛の長期化による自炊増で調味料や嗜好品の販売が増えている。
- ポイント⑤
- コロナ禍で、販売減なものは、化粧品、医薬品である。3月以降はインバウンド旅行者の減少により、ドラッグストアは特に影響を受けている。
- ポイント⑥
- まとめ買いのしやすさと安さが重視され、コンビニの販売減が進む。
体感物価の変化
価格についての統計指標は、地域ごと、商品ごと、業種などカテゴリごとに作成されることが多い。ここでは、筆者が野村證券と経済産業省と共同開発した「POS-生活体感物価インデックス指標」を紹介する(注5)。図1は、よく買うもの(高頻度購入品)とあまり買わないもの(低頻度購入品)に分けた物価指数である。高頻度品と低頻度品は阿部・新関(2010、注6)を参考にインテージ社のSCI調査と家計調査の品目対応表を参考に選んだ。
購入頻度で分ける理由は、消費者が「物価が上がった、下がった」と感じるのはよく買う物の値段の上下の方が強いだろうという考えである。図1より、消費税率引き上げ前は高頻度購入品の指数の方が高いが、2020年の1月末以降は、低頻度購入品の指数が高くなっている。また、両方が右肩上がりで上昇しており、消費者は買い物全般で物価の上昇に直面している。
生活防衛意識の高まり:どこで買っているのか?
図1で、コロナ禍でじわじわと物価が上がっているのを観察した。筆者が野村證券と経済産業省と共同開発した指標で、各業態の販売勢力図を描いてみる。図2は「コンビニエンス志向インデックス」(注5)と名付けているが、別名「生活防衛指標」である。消費税率引き上げや景気の落ち込みなどがあったときに、私たちは買い物をする場所を変えることで、財布を守ろうとするのではというイメージである。
この指標は、4業態の中での各業態の販売額シェアを計算し、販売額の規模が異なる4業態を比較するためにそれぞれの2015年の市場シェアを基準として指標化している。値が1のときは、2015年の該当週と同等の市場シェアを有したことを意味する(注7伊藤他 (2020)参照)。
この指標において、コンビニエンスストアが3月以降、市場シェアを損ねていることがわかる。一方、スーパーマーケットは例年よりもシェアを伸ばし続けていることがわかった。つまり、私たちは便利さよりもまとめ買いのしやすさと、安さを意識して買い物をしている(ポイント⑥)。
スーパーマーケットでの買い物×地域分析
緊急事態宣言下で外出自粛が求められる中、生活に必要な行動の代表はスーパーマーケットでの買い物である。本コラムでは、スーパーマーケットの各分目の地域別の販売動向をみていく。
図3はスーパーマーケットでのヘルスケア品の地域別の販売動向である。ここには、マスク、手指消毒剤などが含まれる。1月30日のWHOの緊急事態宣言後のタイミングで、各地域とも同時に販売増が観察された(ポイント①)。特に、四国、近畿、東北、中部、九州、関東は前年より100%増(2倍以上)であった。沖縄は販売増であったが、1.2倍にとどまっている。
図4は日用雑貨品で、ここには、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、キッチンペーパーなどの紙製品が含まれる。2月末のSNSでのトイレットペーパー不足のデマと、3月2日の一斉休校開始の時期が重なり、紙製品が販売増で品薄になった(ポイント②)。四国と中国地方は1週ずれてピークとなっている。沖縄はヘルスケア品と同様に前年の1.2倍程度の販売増であった。
ヘルスケアと日用雑貨と比較して、図5の食品に販売動向は3月第一週のピーク後も、販売増が続いており(ポイント③)、地域でのばらつきもみられる。中国と四国は3月第2週にピークがあり、関東は3月第5週が最も高くなっている。沖縄3月第1週、4月の第2週のピーク後は前年よりも販売減となっており、4月第4週からは販売減が続いている。九州は1月から販売増となっているが、これはサンプルが入れ替わったことによる断層の可能性が高いので、解釈には注意が必要である。
図6はコロナ禍で販売減となっているのは化粧品である。沖縄は含まれていない。3月2日の在宅勤務の奨励以降、各地域とも販売減が続いている(ポイント⑤)。特にテレワークが最も浸透していると思われる関東は低い水準で推移している。直近は、東北地方は73.5%減と大きく落ち込んでいる。
長期化に向けての行動変化
図7は関東地方のスーパーマーケットの食品販売動向である。2019年の9~12月(青色)と2020年の1月~5月(赤色)重ねている。2019年10月の消費税率引き上げでは、食品は軽減税率対象品だったので、駆け込み需要は起きなかった。しかし、10月10~13日に台風19号が本州に接近しながら通過し、それに備え買いだめし、前年の1.2倍増となった。台風通過後は、平時にすぐ戻っているのが特徴である。
一方、3月第1週の一斉休校と在宅勤務要請は台風よりもインパクトが強く、平時の水準に戻ることなく、3月第5週の外出自粛要請で跳ね上がり、常に約20%増で推移している。
コロナ禍では、外出自粛や在宅勤務の浸透により、自炊の頻度が上がっており、生活の楽しみの中での食に対する比率が大きくなっている。長期的な自粛生活の中で、私たちは様々な対応をしており、食品の中でも購入品が変化している(ポイント④)。
3月2日の一斉休校開始時は、調理時間の短縮が可能な、主食や加工食品(レトルト、冷凍食品)が売れ筋であった。4月7日の緊急事態宣言以降は調味料の増加率が主食や加工食品を超えており、長期化する自粛生活の中で自炊増がうかがえる。5月に入ってからは、嗜好品の増加率が最も高くなっており、さらに家庭内での食の時間を楽しむ傾向が増えているのだろう。
1つの例では、3月頃から主食に含まれるホットケーキミックスが品薄となり、メープルシロップ(調味料)やホイップクリーム(嗜好品)の販売も好調である。食べることと、作ることの両方を楽しむ姿が目に浮かぶ。
今後について
今回までのコラムで、品目別、業態別、地域別にPOSデータでコロナ禍での消費動向を観察してきた。コロナ禍での分析は、消費税率引き上げや台風などの気候変動が購買行動に与える影響とは異なる点がいくつかある。まず、食品の例にあるように影響が長く続くこと、次に政策のアナウンスやメディアの情報等によって短期で動向が大きく変動することが挙げられる。よって、現状についてなかなか断定的に語れないし、月次に集計すると見られない現象も出てくるので、最低限週次データでの観察が望ましいと思う。
また、品目によっても、タイミングによっても、地域差があることがわかった。ぜひ、多くの地方行政に携わる方たちに、各地域をよく知る目で、データを見て、継続的に地域を観察して欲しい。今後、第二、第三の波が来ることも想定し、食品をはじめ生活必需品においてトイレットペーパーのパニックのような不足が起きないようにしたい。