コロナ禍での「令和二年度第二次補正予算」に向けて

佐藤 主光
ファカルティフェロー

5月15日時点において39県で「緊急事態宣言」が解除された。合わせて政府は家賃補助や学生への支援などを含む「第二次補正予算」の編成に取り組むとしている。雇用調整助成金の上限額(現行:8330円)を引き上げるほか、フリーランス等を対象とした新たな給付金の創設も検討されている。あらゆる政策を総動員する姿勢だが、明確な戦略に欠き「五月雨感」は否めない。自粛の解除も「なし崩し的」になってきた。当面、新型コロナとの「共存」は不可避な状況で必要なのは急激な消費の喚起ではなく、家計への生活保障、雇用の維持、コロナ禍への強靭化など経済・社会機能の維持である。所得・雇用の安定はマクロ経済を安定化させることになる。これを踏まえ本稿では今後のあるべき経済政策について8つの視点から提言したい。

其の1:高リスク集団に絞った自粛

従前、各地域で「一律」だった外出・営業等の自粛要請を(特に特定警戒地域では)高齢者など重症化リスクの高い集団に絞る。若年世代等については「新しい生活様式」としてテレワークや時差通勤の継続(及びPCR検査の充実と感染確認の場合の速やかな隔離)を前提に経済活動の再開を認める。オンラインを通して、かかりつけ医・看護師等による高齢者の「見守り」を徹底、健康状態を定期的に観察して、感染の早期発見、重症化予防に努める。このための診療報酬を新たに創設する。家族内感染を避けるため二世代家族の高齢者は宿泊施設等の自主避難を可能にして、うち在宅医療・介護を受けている高齢者は一時的に病院・施設などに移す。高齢者がいる医療機関・介護施設は外部との接触を制限して感染予防を徹底させる。国はこれらに係る経費を助成する。また、医療従事者などを優先に抗体検査を行い、抗体のある者については優先的に対面を含む経済活動を認める。(WHO が指摘する通り、再感染リスクは否定できないが、抗体のない者よりもリスクは低いと判断する。)

其の2:国民との「リスクコミュニケーション」の改善

政府は初動において新型コロナのリスクを過小に評価した(少なくてもそのような印象を国民に与えた)ように思われる。PCR検査も限られるため、国民には感染拡大の実態が分からない。PCR検査及び抗体検査を拡充して、感染の現状(エビデンス)を国民に明らかにする。そのための予算措置を講じる。正しい感染者数の把握はコロナ禍が再来して再び「緊急事態宣言」を出すときに国民に協力を求める手段にもなろう。

其の3:医療提供体制の再構築

感染拡大にあたって病床の不足が指摘された。しかし、我が国の病床数は国際的にみて多い水準にある。問われるべきは病床の数ではなく、集中治療(ICU)ベットを含めたその活用にあろう。医療機関の間での連携も十分ではなかった。コロナ禍の再来に備え、都市圏自治体では公立病院等をコロナ専門病院として病床・人員、機器を確保する。現在の入院患者は他の医療機関に転送するなど地域医療の役割分担と連携を強化する。専門病院においては当面、病床の稼働率が下がるだろうが、病床の維持等に係る費用は国が補填する。合わせて「かかりつけ医」制度を普及させて、前述の通り、高齢者の見守りなどを促す。

其の4:経済・社会のデジタル化

今回のコロナ禍は我が国のデジタル化の遅れを露呈させた。オンライン診療、テレワークを更に普及させるための環境整備を進める。中小・零細企業のデジタル投資を促すよう補助金の支給及び政策減税を行う。2023年10月に導入予定の消費税のインボイスを完全電子化するよう小売・流通業のデジタル化を加速させる。また、医療機関で円滑に連携できるようカルテ情報の電子化等を支援する。これを契機に民間・公共におけるキャッシュレス・ペーパーレス・ハンコレスの「三つのレス」を達成する。地方自治体で「デジタルガバメント」を実現するため交付金を活用する。新たな学校休業に備えて、遠隔授業を整備する。合わせて家庭におけるネット環境の有無で教育格差が生じないような措置を講じる。例えば、ネット環境のない低所得の世帯については設置費用と向こう一年の通信費を国・自治体が助成する。ネット情報へのアクセスを新たな「文化的な最低限度の生活」保障と位置付ける。

其の5:働き手のためのセーフティーネットの整備

今回のコロナ禍では、医療従事者に加えて、スーパーの店員、配送員などテレワークの訊かない「エッセンシャルワーカー」の存在が大きかった。社会を支えるこうした労働者を支える仕組みがあって良いはずだ。政府は雇用調整助成金(休業手当)の拡充や持続化交付金、みなし失業給付及びフリーランス等への新たな給付制度など働き手への支援策を打ち出してきた。しかし、制度が乱立気味で複雑になっている。制度を整理して支援策を「一本化」する、少なくても支援の窓口は自治体あるいはハローワーク等に「ワンストップ」(オンライン申請の統一化等)にすることが求められる。更に無審査、少なくても申請書類は必要最低限に留め、事後的に給付金額を調整することがあって良い。例えば、「新たな給付金制度」や個人向けの「持続化交付金」においては(確定申告された)前年所得などに応じて一か月あたりの給付額を定めた上、申請に応じて最大1年間支給する。その後、今年の年間所得を確認、結果的に一定水準を越えていたら年末調整・確定申告の折に給付額の一部を回収(課税)するのが一案だ。マイナンバーを使って給付と所得情報をリンクさせる。そのためのマイナンバー法の改正を併せて進める。不正受給への懸念もあろうが、当面は救うべき人を救うことを優先させる。

其の6:中小・零細企業への支援の在り方

前述の雇用調整助成金、持続化交付金の他、無利子・無担保融資など中小・零細企業への支援が拡充されてきた。他方、緊急事態宣言で休業要請に応じた企業・事業者への支援は各自治体の「協力金」に委ねられるなど不徹底かつ不統一(不公平)だった。中小・零細企業は雇用の受け皿であることを勘案すれば、(第2波を含め)コロナ禍が長期化する中、(個人支援と棲み分けた上で)企業への支援の充実・継続が求められる。再度「緊急事態宣言」が出された折には「協力金」の基準を国が早期に作成するべきだ。他方、デジタル投資を含めて中小・零細企業の生産性の向上を促進する。「新しい生活様式」に合わせて事業を行う場合、三密の解消等に向けた新たな設備投資などが求められるかもしれない。加えてコロナ後の経済はコロナ以前と同じではない。こうした投資を行っても将来的に十分な収益が見込めないとコロナ禍後に倒産するリスクが高くなる。事業者が生活困難に陥ることにもなりかねない。事業の継続への支援と合わせて、廃業あるいは事業の譲渡に対する支援、具体的には債務の整理や当面の生活資金の提供などがあっても然るべきだろう。

其の7:既存の事業を徹底的な見直し

コロナ禍に係る新たな財政ニーズは際限ない財政の膨張を正当化するものではない。我が国の財政状況は諸外国に比して既に厳しい状況にある。公共事業など、コロナの影響で執行が困難な事業を洗い出した上で廃止を含めて見直す。社会保障を含む他の既存事業についても費用対効果の検証を徹底させるなど、優先順位を明らかにして今後の予算編成に反映させていく。コロナ禍が財政危機に転じることは避けなければならない。

其の8:経済政策の司令塔を

前述の通り、国の経済対策は五月雨式で一貫性と戦略性に欠いてきたように思われる。学校の休業や国民一律10万円の給付に際しては自治体等の現場が混乱するなど政策の決定と実施の現場に齟齬が見受けられた。政府対策本部の「基本的対処方針等諮問委員会」は緊急事態宣言の発令・解除などを議論する場であり、必ずしも経済の再生を担うものではない。公衆衛生的な観点からの感染対策とは別に、内閣府経済財政諮問会議を活用するなど補正予算を含めてコロナ禍の経済対策を仕切る(政策決定を一元化した)司令塔を早急に定めるべきであろう。再び「緊急事態宣言」を出したときの企業・労働者への助成・給付等を含む包括的なコンテンジェンンシープラン(対応計画)を予め打ち出す。合わせて「出口」としてポストコロナの日本経済・社会のビジョンを示すべきだ。先行きを明らかにすることは、企業や家計の不安心理を抑えて消費・投資を促しマクロ経済の底支えにもなろう。

2020年5月18日掲載

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