新型コロナによる日本人の「働き方改革」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト

新型コロナによる経済面への影響は、デメリットばかりが論じられているが、筆者はプラスの面に注目している。それは、新型コロナは日本人の働き方を抜本的に変えるかもしれないという期待である。政府が進めてきた「働き方改革」よりも、もっと大きな影響力を持つ「働き方改革」になるだろうと予想している。

日本の労働生産性はとても低い。その要因としてさまざまな点が指摘されているが、デジタル化の遅れが大きな要因の1つとして指摘されている。デジタル化の遅れと言ってもさまざまな面がある。例えば、

1)デジタル技術を用いた新しいデジタルビジネスモデルの開発による売り上げ増
2)デジタル技術を実装した新しい商品・サービスの開発による売り上げ増
3)働く場へのデジタル技術の導入による働き方の生産性向上
4)デジタル時代を生き抜くための人材の育成

新型コロナは、上記の3)について、日本人の働き方を大きく変え、労働生産性の向上に大きく寄与するだろう。いくつか例を挙げよう。

例1

会社内での打ち合わせ、取引先との会議、東京の人と地方の人との会議などは結構、Web会議でできるものだということが分かった(注1)。スカイプ会議は、若者や研究者の間では一般的だったが、年配者や管理職の人々にとっては、会議と言うものは、実際に足を運んで人に会ってするものだ、「そういうものだ」という「思い込み」があった(注2)。

また、クラウドを用いて複数の人々やチームが、時間を調整して1ケ所に集まことなく、自分の机にいながらにして協働することができることがわかった。

年配者や管理職の人々は、Web会議やクラウドの存在は聞いてはいたかもしれないが、自分は経験したことがないため、端から相手にしていなかった。しかしどうしても新型コロナの影響でWeb会議をせざるをえなくなり、慣れないパソコンを部下に教えてもらいながら、何とか操作して、やってみたところ、実は通常の打ち合わせ程度であれば、これで十分であることが分かった。社内で管理職にある人が、実際にWeb会議を体験したことは大きい。若い人々にとっては、常識で当たり前だったことが、やっと年配者や管理職の人々にも、その価値を理解してもらえたのである。

Web会議で打ち合わせができることが分かると、会議のために移動していた時間が無駄であったことが分かり、クラウドを用いてチームが協働できることがわかると人が集まっていた時間が無駄であることがわかり、その時間を企業の付加価値御生み出すために使えることになる。それは日本企業の生産性を押し上げる。

例2

毎々、満員電車に長時間揺られて通勤する時間が、人生の大きな無駄な時間だということは、最近の若者がよく言っていたことだ。だが彼らは会社のルールを変える力は持っていない。だが、新型コロナの影響で、時差出勤やリモート勤務をするようになり、これはこれで結構仕事ができることが分かった。

日本人は、新型コロナが収束すると、満員電車に長時間揺られて通勤することに疑問を持つだろう。若い人々は、パソコン1台あれば、どこででも仕事ができる。自分の部屋だけでなく、自宅の近くの喫茶店に入ってコーヒーを飲みながらパソコンをたたいている姿は大部分が若者である。年配者の姿は滅多に見かけない。公園で風に吹かれながらパソコンをたたいてみると、実は新しいアイデアが生まれ、独創的な仕事ができるかもしれない。

きちんと仕事のアウトプットを出すのであれば、毎日、満員電車に長時間揺られて通勤する必要はない。満員電車の中を見ると、パソコンをたたいて仕事をしている人はほとんどいない。多くの人々は、寝ているか、音楽を聴いているか、ゲームをしているか、ツイッターを見ている。あの満員電車の環境の中で自分の研鑽に励むことができるほど人間は強くない。通勤時間を、会社のために付加価値を生み出す仕事に使えば、会社にとってもメリットが大きい。

以上、2つの事例を挙げたが、それはよく筆者が出張するドイツのホワイトカラーの働き方である。日本人は、自らの発案では改革は来ないが、外圧による改革は大人しく受け入れる。上記2つの事例とも、労働生産性を高める「働き方改革」あり、ドイツで筆者が見ているホワイトカラーの働き方である。新型コロナが去った後には、日本人の労働生産性は、ぐっと高くなっているだろう。

実は、新型コロナの影響を受けて、こうした「働き方改革」は日本のみならず世界中で大規模かつ急速に進行している。なかでも、米国シリコンバレーに立地するGAFAをはじめとするネット企業において、加速度的に普及している。強い米国のネット企業が益々強くなっている。しかも、5Gの実用化が、この傾向に一層拍車をかけている。

日本企業は、世界の潮流に乗り遅れてはならない。

脚注
  1. ^ 筆者の体験談を紹介したい。4月21日に、ある研究会を開催する方向で準備をしていた。北は北海道から南は広島という日本全国から参加する研究会である。東京に出張できないというメンバーが多かったので、スカイプを用いた研究会を検討し、実はこれで何の問題なくできることがわかった。緊急事態宣言で中止にはなったが。
  2. ^ 日本の就労世代、デジタル技能の訓練不足 OECD報告書
    2019年6月6日(木) 日本経済新聞
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44581860Z00C19A5EE8000/

2020年4月8日掲載

この著者の記事