新型コロナウイルスが猛威を振るっている。政府は感染拡大の影響を受ける中小企業等への支援策を打ち出してきた。中国人観光客が激減した観光業者や、部品の調達・供給等の停滞の影響を受ける製造業などへの雇用調整助成金が特例拡大される。平均売上の参照期間は3カ月から1カ月に短縮するなど要件を緩和する。北海道のように「緊急事態宣言」を出して活動を自粛する地域については売上等の要件を課さず、非正規雇用の労働者も対象とする。企業の資金繰りの悪化に対応するようリーマン時の金融円滑化法も事実上復活する。「民間金融機関に対し、貸し出しの金利を下げ、返済期間を猶予するなどの条件の変更を求める」とした。信用保証の枠も拡充される。一般枠とは別枠(2.8億円)で借入債務の100%保証を受けることができる。さらに特別貸付制度も創設する。「雇用の維持と事業の継続を当面最優先に、全力を挙げて取り組む」べく、日本政策金融公庫などを通じて売り上げが急減した中小・零細事業者に実質無利子・無担保の融資を行う。
「雇用の7割程度、付加価値の5割以上」を占める中小企業・小規模事業者への支援は日本経済を下支えする上で不可欠とされる。しかし、新型コロナウイルスのような災害は新たな問題を引き起こすだけでなく、平時の構造的な課題を露呈する面もある。具体的には中小企業の新陳代謝の欠如だ。実際、国際的にみてわが国の開廃業率は低く推移してきた。廃業率はわが国が3.5%である一方、最も高い英国で12.2%、独でも7.5%となっている(数値は2017年、独は2016年)。低い開廃業率は生産性の低い企業が市場にとどまっていることも示唆する。今回支援には以前から業績が低迷し、いずれ撤退したはずの企業も含まれよう。そもそも経営者の高齢化が進み、後継者の確保もままならない企業も少なくない。手厚い支援はややもすれば、こうした企業の延命に繋がる懸念がある。関東大震災直後の日銀による震災手形の再割引は震災前から放漫経営していた企業や、その企業に資金融資していた銀行の整理を先送り、「人為的に延命」したとされる。問題を「先送り」しているだけなら、一連の支援が終わってしまえば、経営が立ち行かなくなる。実例が東日本大震災の際に実施された「グループ補助金」に見受けられる。「グループ補助金」を受けた企業のうち業績が回復せず倒産したのが岩手、宮城、福島3県で75社に上るという。「既存顧客の喪失」が理由に挙げられるが、高齢化や過疎化、地場産業の衰退でもって経済が「構造的」に低迷してきた面も否めない。
とはいえ緊急時において、支援すべき(=生産性の高い)企業とそうでない(=本来撤退すべき)企業を識別することは難しい。今回の緊急措置はやむを得ないとして、問われるのは今後(例えば5月以降)の対応だ。全ての中小企業を滞りなく救済するフェーズからこれを選別するフェーズへの切り替えが求められる。災害時における中小企業支援は、資金調達の困難やサプライチェーンの途絶、それに伴う外部性など「市場の失敗」に対処する「経済政策」的なものであり、弱者救済のための「社会政策」とは異なる。具体的には支援の継続にあたって、生産性の向上に向けた取り組み、まだ未策定の企業については事業継続計画(BCP)の作成、など一定の自助努力を要請する。BCPは新型インフルエンザが流行した折にも、策定が促されていた。しかし、中小企業におけるBCP策定率は17%程度(平成29年版中小企業白書)と低い水準にとどまる。これを契機に中小企業経営の「強靭性」を進めるべきだろう。