新型コロナウイルスの経済的影響からわれわれは何を学ぶべきか

戸堂 康之
早稲田大学政治経済学術院経済学研究科教授 / 元RIETIファカルティフェロー

新型コロナウイルスの感染が拡大している。本稿では、それが経済に与える影響について考察したい。

新型コロナウイルスは世界経済に大きな損失をもたらす

中国では、感染予防のために自宅待機を命じられている労働者が多く、企業の稼働率が大幅に下がっている。しかも、世界各国は中国とグローバルなサプライチェーンを通じて密接につながっており、中国の生産減少の影響は世界に波及する。

中国から部品・材料を調達して生産を行っている企業は、その供給不足で生産を縮小せざるを得ない。その影響で、日産自動車の九州工場は生産を一時停止したと報じられている。逆に、中国企業に部品・材料を輸出している企業は、需要不足でやはり減産することになる。

しかも、これらの影響は中国企業の直接の取引先だけではなく、サプライチェーンを伝わって間接的に中国とつながった企業にまで及ぶ。例えば、日産の九州工場の生産停止の影響で、そのサプライヤーも影響を受けているはずだ。だから、世界経済全体では非常に大きな生産減や企業業績の低下をもたらす可能性がある。

このように、経済ショックがサプライチェーンを伝わって大きな影響を及ぼすことは、東日本大震災で日本が経験したことである。筆者と井上寛康(兵庫県立大)の推計によると、震災の直接的な影響による被災地での生産減少は約100億円だったが、サプライチェーンの途絶による間接的な影響による全国での生産減少は約11兆円と、直接的な影響の100倍に上った(Inoue and Todo 2018; Inoue and Todo 2019)。

2017年に日本は部品・材料などの中間財を中国に991億ドル分(現在の為替レートで約11兆円)輸出しており、逆に中国から544億ドル分(約6兆円)輸入している(図参照)。従って、中国からの部品・材料の供給不足と中国での日本製部品・材料や最終財に対する需要不足で、日本企業は直接間接に非常に大きな影響を受けると考えられる。

中国からの輸入によって国内雇用が減少している米国(Acemoglu et al. 2016)と異なり、日本では中国からの部品・材料の輸入によって国内の川下産業の生産が拡大することが分かっている(Fabinger et al. 2017)。つまり、グローバル・サプライチェーンにおいて、日中は互いの経済の効率性を高めるようなウィン-ウィンの関係を築いているのだ。だから、中国からの部品・材料の供給が減少すれば、日本経済のダメージは大きい。

観光産業にも大きな損失だ。2019年の訪日外国人旅行消費額は4兆8113億円であり、その37%にあたる1兆7718億円は中国人によるものだった(国土交通省観光庁)。単純に計算すれば1カ月中国人が来ないだけで1500億円程度の損失となる。今回は、書き入れ時の旧正月の時期に重なったことで、より大きな損失となる可能性もある。

新型コロナウイルスよりも影響が大きい米中分断に備えるべき

このように中国との経済関係が絶たれることで日本経済は大きな損失を被っているが、これは今回の新型コロナウイルスの感染が収束すれば終わる話ではないかもしれない。米中を軸とした世界経済の分断が進行しているからだ。近年、米国は中国を経済・技術・軍事面での脅威とみなし、安全保障に関する懸念から5Gなどのハイテク分野での対中輸出や対内投資を規制し、中国を米国から分断(デカップリング)しようとしている。日本やオーストラリア、ヨーロッパのいくつかの国もそれに同調し、ハイテク製品の輸出管理を強化し、対内投資を規制する動きを見せている。

新型コロナウイルスの感染拡大によって中国が世界経済から一定程度分断されていることは、図らずも米中経済の分断のシミュレーションとなっている。米中分断とともに日中も分断されれば、日中間の貿易・投資は大幅に縮小し、その影響はサプライチェーンを通じて日本全国に甚大な影響を及ぼす。中国からの観光客も激減し、観光産業に破滅的な損失を与える。そのことが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大で改めて確認されることになった。

そもそも、日本はすでに米中経済の分断によって経済的な影響を大きく受けている。2019年の日本の輸出額は76兆9275億円で、2018年の81兆4788億円にくらべて約5.6%、4兆5512億円減少している。うち、中国向けは1兆2150億円の減少だ。これは、米中の貿易紛争が激化して世界的に貿易・投資が縮小しているためである。これ以上の輸出の減少は、日本経済にとって大きな打撃だ。

従って、日本は今回の経験から2つの教訓を学ぶべきだ。

まず、米中経済の分断はできるだけ回避しなければならない。もともと、米国がハイテク分野で中国を分断しようとしているのは、ファーウェイ製の機器を通じて情報が中国に詐取されている恐れがあるなど、国家安全保障上の懸念があるためだ。従って、経済と安全保障問題を切り分けるための国際ルール(例えばどのようなケース、どのような品目や産業について安全保障を理由とした貿易・投資の制限が許容されるのかを明記したルール)を整備することで、全面的な分断を回避することができる。

このようなルールはすでにWTO(世界貿易機関)のGATT第21条でも規定されているが、あいまいで現状にそぐわない。米中に次いで世界第3位の経済大国であり、近年の大規模な自由貿易協定を牽引してきた日本が、米中やその他の各国と協力して、ハイテク技術の進歩を踏まえたより細かなルール作りの先頭に立つことが望まれる。例えば、現在交渉中のRCEP(東アジア地域包括的経済連携)や日中韓EPA(経済連携協定)でこれらのルールを盛り込むことが、1つの皮切りになり得る。

もう1つは、中国経済に対する依存度を減らすことの必要性だ。新型コロナウイルスの感染拡大の経済的影響が大きいのは、日本が中国経済に大きく依存しているからだ。2019年時点での中国のシェアは、日本からの輸出においては19%で米国(20%)についで第2位、日本への輸入では23%で第1位(財務省貿易統計)、訪日外国人でも30%で第1位だった(日本政府観光局)。

ある国との経済的な強いつながりは、一般的にはその国との紛争を軽減するように作用する(Bussmann 2010, Hegre et al. 2010)。半面、その国からの経済ショックを受けやすく、そのバランスが重要だ。米中分断が進行している現状では、そのリスクに備えて中国依存をある程度修正し、輸出入や対内対外投資、インバウンドの相手国をより分散することが必要だ。

対外投資については、中国国内の賃金上昇などを受けて、東南アジアなどにも生産拠点を展開する「チャイナ・プラス・ワン」戦略が進行している。そのため、2005年には製造業分野の日本からの対外投資における中国のシェアは約20%だったものが、2018年には13%に減少している(日本銀行国際収支統計)。その他の取引についても、同様に分散化を図るべきだ。

むろん、部品・材料の調達や顧客の分散化は簡単ではない。しかし、今回の新型コロナウイルスでも東日本大震災でも、一部の部品・材料が特定の企業からしか調達できないことが、サプライチェーンの途絶による間接被害を大きくしている。従って、特殊な部品・材料については特定企業による製品開発・調達に依存しつつも、非常時には代替生産が可能なように調整しておくことが望ましい。それ以外のものについては、広く代替先を用意しておくことが必要だ。このような代替先の確保がサプライチェーンの途絶時に被害を軽減する大きな効果があることは、東日本大震災の分析から分かっている(Cole et al. 2015)。

このような分散化は基本的には企業の努力によるものだが、政府や自治体、公共機関(ジェトロ、中小機構、商工会議所等)の力も欠かせない。これらの機関の支援で、分散化のための商談会やビジネス・マッチング、代替生産のための地域間連携などが活発に行われることを期待したい。

図:日本の対中輸出入
出所:RIETI-TID 2017.
参考文献

2020年2月25日掲載