先進国に先駆けて回復に向かう中国――高まる世界経済における存在感

関志雄
コンサルティングフェロー

米国発の金融危機をきっかけに、中国の景気が急速に悪化していた。これに対して中国政府は、素早く金融緩和や4兆元に上る内需拡大策を中心とした景気対策を打ち出し、効果を上げつつある。主要国の中で中国は一歩先に景気回復に向かう可能性が高く、政府が目指している8%という2009年の成長目標は達成可能である。先進国が軒並みマイナス成長に転落する中で、世界経済における中国の存在感が増している。

景気の下支えとなる好調な内需

中国のマクロ経済指標は、2009年に入ってから、景気がすでに底を打ち、回復に向かいはじめていることを示している。第1四半期のGDP成長率は前年比6.1%と、2008年第4四半期の6.8%を下回っているが、閏年であった2008年と比べて2009年の第1四半期は1日少ない(2008年は91日、2009年は90日)ことを考慮すると、実勢に近い「1日当たり」では第1四半期のGDP成長率は前年比7.3%と、むしろ上向いている(注1)。その上、工業生産の伸び率(前年比)は1-2月の3.8%を底に、3月には8.3%、4月には7.3%と反転している。

GDPの需要項目別で見ると、第1四半期には、外需が依然として冷え込んでいるが、内需が比較的堅調に推移しており、景気全体の下支えとなっている。

外需の面では、1-4月の輸出(ドルベース)は前年比-20.5%、輸入(同)も-28.7%と2008年11月以降、前年の水準を大幅に割り込んでいる。なお、輸入の落ち込みが輸出より大きいのは、石油をはじめとする輸入価格が大幅に低下したことを反映しているからである。米国をはじめとする先進国市場における景気回復がまだ見込めない中で、輸出の低迷は当面続きそうである。

外需の落ち込みとは対照的に、消費と投資からなる内需はやや加速の傾向を見せている。消費については、1-4月の(社会消費品)小売売上(名目)が前年比15.0%と伸びており、インフレ率がマイナスになっていること(1-4月の消費者物価指数は前年比-0.8%)を合わせて考えると、実質ベースで見た小売売上の伸びは15.9%と、さらに高くなる。中でも従来のパターンとは逆に、農村部(県と県以下)の伸びは都市部を上回っている。

自動車販売台数も2008年後半には前年の水準を割ったが、2009年に入ってから急回復し、4月には前年比25.0%と急増した。中でも車両取得税の減免措置を受けて、中国ブランドを中心に排気量1600cc以下の車種の売れ行きが好調となった。米国において自動車販売台数が急減する中で、中国は世界一の自動車市場として浮上している。

第1四半期の都市住民の1人当たり可処分所得と農村住民の1人当たり現金収入(いずれも実質ベース)の伸びは、それぞれ前年比11.2%と8.6%と、実質GDPの伸びを大幅に上回っており、所得の上昇は消費を支えている。

内需のもう一本の柱である投資も、公共投資の拡大を背景に堅調である。1-4月の都市部の固定資産投資額が前年比30.5%増となり、中でも、東部よりも中部と西部の伸びが高くなっており、これを反映してGDP成長率も東部と西部の逆転傾向が見られている。総投資額4兆元の景気刺激策に伴う支出が膨らんだことを反映して、1-4月の中央と地方を合わせた全国財政支出は前年同期比31.7%増となっている。

景気回復を示唆する先行指標

その上、購買担当者指数(PMI)や株価、貨幣供給量といった先行指標も、景気の回復を示唆している。

まず、製造業部門の景況を示すPMIは、2008年11月の38.8%のボトムから回復に向かっており、2009年3月以来三カ月連続して景気判断の分かれ目となる50%を超えた。

また、株価も上昇傾向に転じている。海外の主要市場における株価の低迷とは対照的に、上海総合指数は2009年2月初めに、主要マーケットの中で最も早く2008年9月に起きたリーマン・ショック以前の水準に回復し、その後も上昇傾向が続いている。

さらに、貨幣供給量(M2)と銀行の貸し出しの伸びも加速している。4月のM2は前年比26.0%、人民元建ての貸出額は同29.7%という高い伸びを見せている。1月から4月の貸し出しの増加額は累計5.17兆元となり、政府が目指している年間5兆元以上という目標はすでに達成されている。

これらの指標は、中国経済がすでに底を打ち、回復に向かいつつあることを示唆している。今後の成長率は第2四半期には上向き始め、年後半にはさらに加速するだろう。その結果、中国政府が目標としている通年8%の成長は達成可能であると思われる。

グローバル大国への一里塚

このように、米国発の金融危機が拡大と深化の一途を辿る中で、中国経済はその影響を受けながらも、諸外国と比べて比較的良好なパフォーマンスを保っており、世界経済における存在感がますます強くなっている。

米国発の金融危機の影響を受けて、世界経済は、2008年に続いて2009年も更なる景気の減速が避けられないと見られる。2009年4月16日に発表されたIMFのWorld Economic Outlookによると、2009年の日米欧は軒並みマイナス成長になり、世界経済成長率も2008年の3.2%から-1.3%に低下するが、中国は減速基調が続くものの、2009年も6.5%という比較的高成長を維持できると予想される。中国のGDP規模が購買力平価(PPP)ベースで世界の12.1%に当たることを合わせて考えれば、中国による世界経済成長への寄与度は、0.8%(6.5%×12.1%)と、世界全体の成長率を上回ると見込まれる(図1)。言い換えれば、中国もゼロ成長に陥れば、世界経済の成長率は、さらに0.8%落ち込み、-2.1%となる。

図1:主要国・地域の世界経済成長率への寄与度
図1:主要国・地域の世界経済成長率への寄与度

このように、今回の米国発金融危機を経て、世界経済の勢力図が大きく変わろうとしている。振り返ってみると、1997年7月のタイバーツの切り下げを発端に日本を含む近隣諸国の通貨が急落し、深刻な金融危機に見舞われたが、中国は、財政拡大によって7%成長を維持でき、97-98年のアジア金融危機は地域経済大国としての中国の台頭を象徴する出来事となった。それから10年経った今回の世界的金融危機において、震源地の米国にとどまらず、EUや日本といった先進地域も大きな打撃を受けている中で、中国が高成長を持続させることに成功すれば、そのグローバル経済大国としての地位は不動のものとなろう。

2009年6月9日
脚注

(注1)「1日当たりGDP」の伸びの計算:
2008年の第1四半期のGDPが100とすれば、1日当たりGDP=100/91日=1.0989、
2009年の第1四半期のGDP=100×1.061(前年比+6.1%)=106.1となり、1日当たりGDP=106.1/90日=1.1789、
2009年の第1四半期の1日当たりGDPの伸び=(1.1789/1.0989-1)×100=7.3%。

2009年6月9日掲載