アジアの大学のグローバル化に日本のリーダーシップを

山内 直人
ファカルティフェロー

大学国際化は世界の流れ

この6月に公表された政府の「経済財政改革の基本方針(骨太方針)2007」では、教育改革に関するさまざまな施策が盛り込まれているが、そのなかで「大学グローバル化プラン」の策定を掲げ、日本の大学の国際競争力を高めようとしていることに注目したい。

大学の国際化、グローバル化が世界中で急速に進んでいる。EUでは、米国の大学の覇権に対抗するため、エラスムス計画(ERASMUS, The European Community Action Scheme for the Mobility of University Student)により、域内の大学間での学生や教員の流動化、協力関係の促進を通じて、EU全体としての競争力を向上させようとしている。また、最近ではエラスムス・ムンドス(Erasmus Mundus)計画を提唱し、アジアなどEU域外の高等教育機関との交流促進にも力を注いでいる。

一方、アメリカでも多くの有力大学が国際化戦略を強化している。ハーバードやイェールのような世界トップクラスの大学は、すでに十分国際化していると思われがちであるが、留学生や研究者の国際交流をさらに活発化させ、国際競争力の一層の向上を図ろうとしている。

世界ランキングが刺激に

こうした動きに大きな影響を与えているのが大学の世界ランキングである。大学幹部が集まる国際会議などではランキングのことがしばしば話題に上る。なかでもThe Timesの高等教育特別号の世界大学ランキングは特に影響が大きく、有力大学の学長たちは毎年の自校やライバル校のランキングの変動に一喜一憂する。

その2006年版によると、世界のトップ20校のなかの11校、トップ100校のなかの33校をアメリカの大学が占める。欧州の大学は、トップ20校のなかの5校を占めるに過ぎない。最近は中国の大学の台頭が注目され、香港を含めトップ100校中に5校が顔を出す。日本の大学のトップは東京大学(19位)だが、アジアトップの北京大学(14位)の後塵を拝している。

The Timesのランキングの評価基準の中には、外国人教員数や留学生数が含まれるほか、世界の研究者によるピアレビューが大きなウエイトを占める。国際的な大学の評価のなかでの国際性が占める比重はかなり大きなものである。しかも、単にキャンパスに外国人が多いとか国際的な雰囲気があるというだけでなく、大学の活動成果を世界に売り込む力がないとランキング上位を占めることは難しい。

戦略的グローバル化が不可欠

こうした世界の潮流の中で、日本の大学のグローバル戦略は大きく立ち遅れている。留学生受け入れ数は、「留学生10万人計画」の目標を超えて増え続けているが、全学生に占める留学生比率は、東大でも1割未満にとどまり、他の有力総合大学でも5%前後しかないところが多い。一方、日本から海外への留学はさらに少なく、語学留学を含めても7万人程度で、頭打ち傾向が続いている。

もちろん、留学生や研究者交流の数を増やせばよいというものではなく、各分野のリーダーになれる優秀な学生・研究者をいかに確保し、育てるかが重要である。特に、増加を続けるアジアの留学生をターゲットに、欧米や他のアジアの大学との競争の中で、質の高い留学生に日本の大学に来てもらうことが、日本の大学の国際競争力を高めることにもつながると考えられる。

具体的には、奨学金制度の充実、宿舎の確保などとともに、教育研究内容の向上と英語によるプログラムの提供が欠かせない。これらは優秀な留学生の増加だけでなく、すでに受け入れた留学生の満足度の向上という意味でも重要である。

そのためには、各大学が明確な目標とグローバル戦略を持ち、そのために必要な計画を着実に実行し、それを点検・評価して、目標や計画を再設定するというサイクルを確立することが何よりも必要だと考える。

アジア版エラスムス計画を

アジアの高等教育の覇権争いが激しさを増すなかで、EUにおけるエラスムス計画のように、アジア、あるいは豪州等を含むアジア太平洋地域の大学の間での教員や学生の相互交流の促進を推進することが、日本を含むアジアの大学の国際競争力を高めることにつながると考える。

エラスムス計画は、アジアとは高等教育の歴史も発展段階も異なる欧州におけるプログラムだが、大学制度や言語が全く異なる加盟国間の交流促進と域内全体の高等教育の国際競争力向上に成功しつつあるということで、アジアの高等教育のグローバル化を進めるための制度設計として大いに参考にすべきだろう。

具体的には、中国、韓国、日本などアジア主要国の間で、カリキュラムや学位授与基準の共通化、単位互換制度の普及や国際的ダブル・ディグリー・プログラムの創設・拡充、遠隔教育の充実などが必要である。

エラスムス計画のような強力なプログラムを構築するためには、膨大な資金と知的資源が必要であり、各大学の積極的な取り組みとともに、アジアの主要国政府が強いリーダーシップを発揮することが不可欠であろう。

2007年7月3日

2007年7月3日掲載

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