私的再建、法的倒産処理と産業再生

胥 鵬
ファカルティフェロー

トヨタ自動車のように健闘している日本企業が数多くある一方、2度3度と債務免除を受けて私的再建を試みたり、会社更生法や民事再生法の適用申請で再出発を目指したりする会社も少数ながら増えている。このコラムでは、筆者のREITI企業再生分析プロジェクトの研究成果に基づき、産業再生に関する経済分析と80年代における米国の企業再生経験を概観し、産業再生政策のあり方を探ることにしよう。

私的再建のもっとも重要な決定要因は銀行融資に占める担保付融資の割合

私的再建と法的倒産処理はいずれも債務不履行によって引き起こされる。“私的”と“法的”を問わず、経営者交代でトップ経営者の責任が追及されることが多い。このことから、倒産はコーポレート・ガバナンスの最も重要な一環である。とりわけ、退出すべき企業を淘汰することは産業再生にとっても欠かせないメカニズムである。これこそ負債契約が外部資金の普遍的な調達手段になる理由である。ところが、倒産したからといって、倒産企業のすべてのビジネスが清算されるべきであるとは限らない。不採算部門を閉鎖・清算・譲渡すると同時に、既存従業員の下で再生される部門を一刻も早く過剰債務から切り離すことは産業再生の第一歩である。具体的な処理方法としては、(1)債権者、とりわけ大口債権者の債務放棄・債務株式化による私的再建、(2)大幅な債権カットを伴う会社更生法・民事再生法による法的処理が挙げられる。通常、私的再建と比べて、法的処理は司法費用などの直接倒産費用が高いうえ、処理期間が長いため資産劣化などによる間接倒産費用も大きい。にもかかわらず、私的処理を経ずに直接法的処理に踏み切ることには一体どんな理由があるのだろうか。

米国の企業再生の経験は、大口債権者、とりわけ、銀行・保険会社の債権割合が高ければ高いほど私的再建が選択されやすく、公募社債残高が高ければ高いほど法的処理が選ばれる傾向を示唆している。このことは、小口債権者のフリーライダー問題などの理論分析と合致する。90年代までは、データが比較的に入手しやすい大企業の会社更生法の適用申請件数が少なかったため、私的再建と法的倒産処理の選択に関する研究はほとんど行われていなかった。しかし最近筆者が行った実証分析によれば、金融機関の債権放棄、金利減免などによる私的再建のもっとも重要な決定要因は銀行融資に占める担保付融資の割合だということが明らかにされている。この実証分析結果は、会社更生法や民事再生法の法的処理における担保債権の弁済率がほとんど100%だという筆者の別の研究結果によっても裏付けられている。また、小口債権者の債権額が大きな割合を占めると、私的再建よりも法的処理が選ばれる傾向が強い。ただし、日本の場合には公募社債よりも企業間信用などの小口債権者が圧倒的に多いことにも留意すべきである。

再生可能にせよ再生不可能にせよ、早急な意思決定が大事

小口債権者に債権放棄を求めることは不可能であるが、債権放棄の負担をめぐる融資銀行同士の調整も容易ではない。最近、産業再生機構による三井鉱山やダイア建設など4社の再生支援が決定された。再生機構の再生支援手法は主に、非主力銀行から債権を買い上げて主力銀行と協力して経営不振企業の再生を支援することである。基本的には、再生機構の再生支援は私的再建に分類される。融資銀行同士の利害の調整における、再生機構の役割が大きく期待されている。また、銀行の債権放棄の無税償却や支援を受ける企業が保有する資産価値下落による評価損の損金算入などの税制改革は、再生機構の再生支援を後押しするだろう。再生機構がその役割を十分に果たすには、非主力銀行の債権だけでなく、企業間信用などの小口債権を買い上げることも検討すべきである。小口債権の割合が大きい場合、銀行はその肩代わりをしなければならないため、再生支援を要請することをためらうことが考えられるからだ。担保付融資の扱い方も重要な課題となる。また、債務免除益を非課税扱いにする税制改革も不可欠である。

最も重要なことは、再生可能にせよ再生不可能にせよ、一刻も早く意思決定をすることである。米国では、再生を試みた4社のうち1社が1年以内に債権放棄を再度求めたり破産法の適用申請をしたりしている。再生可能と判断した場合には機を逸することなくすばやく支援を実施すべきだ。また、再生支援決定後、再生不可能の兆しが見えた場合、損失が雪だるまのように膨らむ前に法的処理に踏み切るべきである。米国のDIP(debtor in possession)ファイナンスに関する実証分析結果は、DIPファイナンスの役割が企業再生のために資金を提供して再生可能性を高めることにあることを示している一方で、一刻も早く再生不可能な企業に対して見切りをつけることの重要性も示唆する。また、新規再生ファンドの役割が重要であると同時に、既存金融機関からのDIPファイナンスもそれに劣らぬほど再生の決め手となる。

2003年9月16日

2003年9月16日掲載

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