2005年度主要政策研究課題

IV. 新たな金融市場、企業統治のあり方

新しい金融システムを構築する際、これまでの直接金融、間接金融といった古い切り口を越えた理論の枠組みの構築、その中での証券化、流動性の研究、コーポレートガバナンス、中小企業金融、公的金融のあり方を研究する。

(1) 金融メカニズム構築のための新たな分析枠組み

26. 企業金融に関する研究

代表フェロー

概要

日本における企業金融に関する実証研究は、企業レベルでのデータが入手しにくく、集計データを用いた分析もしくは大企業を対象とする分析に限られていた。これまで未知の部分が多かった中小企業に対する資金の流れを把握することは、政策的にも非常に重要である。本プロジェクトでは、中小企業庁が保有する統計等、新たに入手可能になったデータベースを用い、大学教授、シンクタンク・政府職員などからなる10名程度のメンバーが、実務家などの知見・視点も生かしつつ、中小企業を取り巻く金融の状況を実証的に分析する。
具体的には、金融機関の金利設定に中小企業の倒産確率が適切に反映されていないとの指摘に関するスムージング仮説・ゾンビ仮説の検証、中小企業向け貸出における担保・個人保証の役割、公的信用保証制度の役割についての検証等を行う。

主要成果物

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RIETI政策シンポジウム

27. 地域金融

代表フェロー

概要

マクロで見た日本経済が回復する下でも、公共事業の減少や大都市部への一極集中などから、地方経済は依然厳しい。さらに、人口減少やグローバル化・情報化の進展、市町村合併や道州制の議論等を考えると、今後、地域経済社会は大きく変わる可能性がある。こうした中、地域金融機関のビジネスモデルの一律な維持は困難であり、長期的な視点から、地域金融の将来像を考える必要がある。
本プロジェクトでは、こうした問題意識から、地域にstickすることの金融機関経営にとっての意味合い、地域経済の成長力と金融機関の経営パフォーマンスとの関係、企業から見た関係型取引のメリット、欧米におけるCommunity Banksの動向などを幅広く検証する。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

RIETIポリシーディスカッションペーパー

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(2) 銀行と資本市場を支える制度(法律、規制、監督、会計)の相違と日本の課題

28. 流動性と流動化・証券化に関する研究

代表フェロー

概要

金融仲介機能の低下という日本の現状に鑑み、流動化、証券化を進めることの意義は大きい。これは、企業のイノベーションの活性化のみならず、資産デフレ、地域経済の活性化といった課題との関係でも妥当する。また、アジア全体の金融市場の機能向上のためにも重要なテーマである。
本プロジェクトでは、間接金融と直接金融という従来の分析枠組みを越え、それが必要な各々の制度インフラストラクチャー整備にどのような差異をもたらすのかを念頭に置きつつ、流動化・証券化がどのような役割を果たせる可能性があるのかを検証するため、以下の論点につき研究を行っている。
(1)流動性と流動化の経済学的観点からの整理を行う。具体的論点は、直接金融と間接金融の差異、流動性需要の意味、流動化の手法についての評価等である。
(2)我が国の流動化、証券化の実態把握と改善の方向性に関しては、リート(不動産証券化)を具体的素材として、証券化と企業価値の変動、市場の機能等について分析するとともに、流動化、証券化の促進のための方策(法的整備、判例蓄積、監督体制等を含む)を検討している。
(3)流動化の前提となるヴィークルに関する議論については、現在、知的資産の流動化に関して、適切な仕組みに関しては、経済学的整理を行うとともに、企業法制、会計制度等の観点から検討を進めている。

主要成果物

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(3) 日本の企業統治はどこへ向かっているのか

29. コーポレートガバナンス研究

代表フェロー

概要

マクロ環境の変化と規制緩和・制度改革の急進展の結果、日本企業では、現在企業統治構造の選択に関して大規模な実験が展開されている。本研究チームは、こうした近年の統治構造改革の実態と、その企業パフォーマンスに対する影響の解明を主要なテーマとする。

(1)日本企業の統治構造(取締役会・報酬制度、企業・銀行関係、株式所有構造)はどのように変化しているのか。
(2)こうした統治構造の差は、成熟経済にとって共通の課題である事業再組織化(事業・組織構造の再編)にいかなる影響を与えるのか。
(3)進展するM&A、事業再組織化は本当に企業価値・効率性の向上に寄与しているのか、いかなるタイプのM&A、事業再組織化が有効であるか。
(4)M&A、事業再組織化の進展は、翻って日本企業の統治構造の進化にどのような影響を与えるのか。
(5)以上の日本企業における事業再組織化、M&A、企業統治の関係は、国際的にみていかなる特徴を持つのか、
などが主要な論点である。

主要成果物

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30. 銀行のガバナンス:預金者による銀行の選別・規律付け

代表フェロー

概要

日本企業のガバナンスの担い手であったメインバンクをモニターしていたのは金融規制・監督当局であった。しかし、世界的な銀行危機の頻発の中、監督当局による銀行へのガバナンス機能が必ずしも十分でないことが認識される中、新BIS規制等にも示されているように、それを補完するものとして「市場からの規律付け」(market discipline)が重視されるようになってきている。日本の場合も、2005年度からのペイオフ解禁を控え、特に、預金者による規律付けが期待されている。
本研究では、日本を含めた世界各国(60カ国程度)の銀行のパネルデータを使い、各国の預金者の規律付けの大きさの違いがそれぞれの国の制度(銀行規制等)の違いとどのような関係を持っているか理論的・実証的に明らかにするとともに、特定の国において制度変化の前後で預金者による規律付けにどのような変化があったかを分析する。

主要成果物

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31. 日本における企業再建と再生

代表フェロー

概要

この研究の目的は、銀行の債務免除による私的整理と民事再生法による法的整理のポスト業績の決定要因にフォーカスを当て、企業再生における経営者の続投などのDIP(debtor in possession)、債務構成、過半数株式取得や過半数取締役派遣など再生ファンドの規律付けの役割を実証分析で解明することである。その上で、80年代のアメリカにおける企業再生の経験と日本の現状を比較し、産業再生のために企業再生の問題点と今後の施策を提案する。

主要成果物

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32. アジアにおける企業再建と再生

代表フェロー

概要

アジア通貨危機の原因の1つとして、コーポレートガバナンスの脆弱さが挙げられていた。本研究では、われわれはタイと韓国の共同研究を通じて、コーポレートガバナンスの改革、とりわけ、ファミリー・ビジネスを中心とする所有・支配構造の変化が通貨危機中に経営が破たんした企業の再生に与えた効果を分析することによって、東アジアのコーポレートガバナンスの諸問題を再検討し、中国における国営企業リストラと銀行改革のためのレッスンを探る。

主要成果物

33. 日本企業のガバナンス:そのブラックボックスを開く

代表フェロー

概要

本研究の1つの特徴は、企業統治の実態を次のような2つの視点から見ることにある。1つは企業の<主権論>、もう1つは経営者チェックの<メカニズム論>である。
メカニズム論は構造とプロセスの2側面がある。これまでの議論では、<構造的メカニズム論>が専ら注目を集めてきたが、<主権論>並びに<プロセス的メカニズム論>は多くの場合盲点、言い換えれば「ブラックボックス」になっていた。この箱を「開く」ことが本研究の焦点となる。
すなわち本研究のセントラル・クエスチョンは、日本企業において「企業はだれのものか」、「経営者の規律づけ(任免並びに意思決定チェック)のプロセスで何が起きているのか」の2つである。この2つの問題に、「経営者主観的アプローチ」とでもいうべき接近方法で取り組むのが、本研究のもう1つの特徴である。「経営者主観的」というのは、企業の経営者自身が上記の2つの問題をどのように認識し、あるいは経験しているのか、に焦点を当てるということである。主権論については、企業の経営者自身がこれをどのように認識しているのか。メカニズム論については、「メインバンクが、あるいは取締役が、どのように規律づけているのか(というプロセス)」というよりむしろ、「さまざまな規律づけ主体からの作用を、経営者自身がどのように認識し、処理(経験)しているのか、そのプロセス」を問題にするわけである。どちらも「現実の経営者の胸の内」というブラックボックスを開く試みである。
以上のように、本研究は、経営学的アプローチから「主権論とプロセス的メカニズム論」および「経営者の胸の内」という2つのブラックボックスを開くことによって、日本企業のガバナンスの実態をつまびらかにしようとするものである。

主要成果物

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34. 企業の価値創造力と無形資産の関係についての研究

代表フェロー

概要

グローバル化、技術革新の進展等を背景に知識経済への移行が一層進展し、知識ベースの企業間競争も激化する。一方、互いに補完的な価値創造関係を求めた知的協働や提携、合併も進むと予想される。その中で、企業の価値創造力と無形資産( intangible assets, intellectual assets)の関係を適切に理解することが、企業経営者にとっても、社会全体の価値創造力を強化する政策担当者にとっても重要となる。この基礎的かつ重要な関係を理解する枠組みを整理することと新しい視点を探求することが本研究の目的である。特に、無形資産の価値創造力への寄与を企業毎に把握しうる概念を整理し、全体を理解する概念的枠組みを構築すること、並びに可能な限り定量化する方法を開発することを目指す。また情報開示のあり方を整理する。

主要成果物

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