リスクマネーと企業成長―金融仲介の役割―

執筆者 小林 孝雄  (ファカルティフェロー) /久武 昌人  (コンサルティングフェロー)
発行日/NO. 2007年3月  07-J-005
ダウンロード/関連リンク

概要

金融の機能が、経済成長やイノベーションの進展に果たす役割は大きい。本稿では、まず、企業金融に関する実証研究の成果及び今日までの理論的発展の両者をサーベイした。その結果、2つの方向性が浮かび上がった。

第一には、より市場の完備性を増すこと、情報の非対称性の問題を解消すること等を追求するという方向性である。そこでは、リスクの切り分けや標準化が重要な課題となり、格付け機関の成長、証券化の発展等が対になることとなる。当分の間、規模的にはマクロベースで見て銀行の果たすべき役割は大きいと予想されることを考えるとこの方向性も重要である。もう1つの方向性は、不完備性や情報の非対称性を前提として、その中でイノベーションにふさわしい企業形態や金融スキームを考えていくというものである。契約で規定出来ないようなことが数多く企業経営には存在しており、そこに重要な問題が潜んでいるのであれば、こうした方向性を実現していくことの意義は大きい。しかしながら、この方向性での施策を実施するにせよ、その実効性は国や経済ごとに少なからず異なっている。コントロール権の移転の状況に関しての差異も小さくない。実際、MBO等の動向は国、経済ごとに大きく異なっている。今後とも、形式的に法律制度の整備が進んだとしても会計制度、税制等密接に関連する諸制度の進展がないと実効性に乏しいものとなる可能性も大きいことを念頭に置きつつ、LLC、LLP等の柔軟な組織法制、閉鎖型の企業形態の発展を充分に担保するような制度環境の拡充・整備を続けていくことが必要である。

以上の通り、2つの方向性が示されたが、これらはその一方を進めればよいといった性格のものではなく、両者ともいわば「車の両輪」として、今後我が国が追求すべきものであると考えられる。政策当局も含めての関係者間での論議の進展を期待したい。